22 / 36
眩暈のころ
21. 高校生のころ(初夏) 1
しおりを挟む蝉丸に、将来の展望について問い糺したことはない。食物科を選んだからには、それなり考えるところがあったのだろうと、置いてきぼりを喰らったようで、淋しかった。
私は、県立の美術科は倍率も高いし、予想通り落っこちて、私立の方に入学した。
高校生になってからも、蝉丸とは、休みの日にコーヒーを飲みに行ったり、ライブに行ったり、映画を観るつもりでうどん屋で待ち合わせたものの、面倒くさくなって、そのまま店でだらだら喋りつづけたりした。
勿論、いくら私の人見知りが激しくても、学校にいない彼女を頼りには出来ないから、次第に級友たちとも打ち解け(ごくごく少数)、女三人でバンドを結成するまでになった。
バンドは初心者揃いだった。発端も経緯も、まるで覚えていない。
とりあえず何か簡単な楽曲をコピーしようと云うことになったが、易しいのか難しいのかさえ、聴いただけでは判断しかねた。それでも、音数の少なさで、初期のストーンズに決めた。決定したのは私ではないので、近海は関与しない。
再び、私は楽曲店を巡り歩くようになった。従姉のいらなくなった黒いエレキギターが、ボディにエフホールを描いたグレッチみたいなデザインとフォルムで、すぐに気に入り、一万円で譲ってもらっていた。だから今度は、消耗品やらスコアなどの実際的な購入のための、楽器店巡りであった。表向きは。
本音は、近海と出会わないか期待していたのである。目的が近海なればこそ、色々のお店を廻っていたのだった。
あらかじめ結果を白状してしまうと、どんなにうろついても、ねばっても、楽器店では彼と邂逅しなかった。
近海を偶然見かけたのは、川沿いの公園で、若葉の季節だった。
蝉丸と電話で話していたら、「次の土曜、もう明日やけど、ザ・モッズがやって来るんよ。どう?」と誘われ、一緒に行くことにした。蝉丸は学校が遠いし、用事もない私が、当日券は売り切れるかも知れない、と勝手にあせって、放課後チケットを買いに走った。
応援ありがとうございます!
21
お気に入りに追加
3
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる