20 / 34
《肩こり同盟小話》肩こり同盟、結成です。
しおりを挟む
今より少し前、初夏のこと。
その頃のわたしはといえば、お祭り関連の行事に向けて、普段のお店の業務の合間を縫って手作業が増えていた。
天然石がそれほどブームになっているとも思えないけれど、道ゆく人は天然石のブレスレットを気軽に手にとっては眺めてくれるから。それなら、と花火大会や夏祭りの時に店頭で並べてみようかと思い立ったのはいいけれど。
手芸って、ホント、肩が凝るわ……。
わたしは、トントンと自分の肩を叩きながら、千堂桃香さんのことを思い出していた。
ーーー桃香さん、元気にしてるかな。お仕事、ずっと忙しいのかな……。会って聞いてみたいことがあるのに、会いたい時にはなかなか会えないものなのね。
わたしと桃香さんが出会ったのは、お店がオープンして半月ほど経った頃。ようやく春の陽射しが店内に射し込むようになった、風のない暖かい午後。ふらりとやって来た彼女は、何かを探しているようだった。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
まだ接客に不慣れなわたしは、さぞぎこちなかったことだろう。表情もかなり硬かったと思う。
彼女はストラップを探しにやってきたということだったけれど、店内にアクセントとして置いていた一対の猫のオブジェに目を留めていた。
売り物ではないので当然値札も付いていないそれをひとしきり眺めていたけれど。
「あ、えっとですね、携帯用のストラップで何か可愛いのないかなって探してて……」
「それだったらレジの横にありますよ、こちらです」
「あの、それとこれなんですけど、売り物です?」
「申し訳ありません、これは売り物じゃなくてディスプレイ用の置物なんです」
「ああ、そうなんですか。そう言えば値札、貼ってませんものね。すみません、可愛いから売り物なのかなって思っちゃって」
「ごめんなさい、紛らわしい置き方してしまって」
「いえいえ。よく見なかった私も悪いので。ストラップ、見せてもらいますね」
実はこの猫のオブジェは、少し前にも他のお客様から“売り物ではないのか”と聞かれていた。対で置いていると、まるでつがいのように見える二匹の猫は、確かに見ていると癒される気がする。これは開店祝いに、と叔母が送ってきてくれたもの。お譲りすることはできないのだ。
申し訳ない気持ちでいると、学校帰りの七海ちゃんがやってきた。
「あ、桃香ちゃんだ~。おひさ~!」
あら、七海ちゃんのお知り合いだったのね。
“桃香ちゃん”と呼ばれた彼女は、どうやらわたしと同じくらいの年の人らしい。七海ちゃんと仲良さそうにストラップを見ながら相談している。ローズクオーツなら、彼女に似合いそう。
すると、彼女がぽつりと呟いた。
「なんだかこういうの作るのって肩こりが凄そうだね……」
あ、この人、分かってくれてる……?
「そうなんですよ、肩こりが凄いんです!」
だから思わず、話しかけていた。
「目も疲れそう……」
「はい、かすみ目になるから目薬必須です!眼精疲労っていうんでしょうか。肩だけじゃなく頭も痛くなることがあるんですよ」
すると、七海ちゃんも加わってきた。
「桃香ちゃんも仕事のせいで肩こりが酷いっていつも言ってるもんね。良かったじゃん、肩こり仲間ができてさ」
「七海ちゃん、そんな仲間、嬉しくないよ?」
「でも、お兄さんは理解してくれないんでしょ?」
「それはそうなんだけど」
うん?どうやらこの方も肩が凝るようなお仕事をされている?話の端々で何となく聞こえてくるけれど。
「あの………桃香、さん?」
「はい?」
「私、ここに来たばかりで同世代の同性のお友達っていないんです。もしよろしかったら今度、黒猫さんで肩こり談義でもしませんか?」
あぁ、口が止まらない。いきなりこんなおかしな勧誘、絶対引くよね、って思うのに。
「はい?」
「えぇと、普通にお茶でも構わないんですけど、普段はお仕事でお忙しいでしょうし、お休みの前の夜に黒猫さんならどうかなって。あの、嫌なら別にかまわないんです!ちょっと同世代の方がみえたので嬉しくて、つい……。これから仲良くしてもらえたら嬉しいな、って」
「肩こり仲間だしね」
そうそう七海ちゃん、ナイス突っ込み。
「私、仕事が超不定期でなかなか都合がつかないかもしれないんですけど、そんなので良ければ肩こり談義しましょう。うちの旦那さん、まったく肩こりに理解が無くて困ってるんですよ。この辛さを分かってくれる人とゆっくりお話がしたいです」
あら、旦那さまがいらっしゃるんだ。………って、えぇ?!人妻?!ご結婚されてるようには見えないくらい可愛らしいよ……!ねえ、だってわたしより若くない?
そんなこんなで、彼女が明日お休みだということで早速その晩、お隣で第一回めの会合?を開くことになったのだけれど。
口が滑ったとはいえ、黒猫さんといえば二ヶ月ほど前に、澄さんとユキくんの前で失態をお見せしたばかり。でも、いつまでもお隣さんと顔を合わせないでいられる訳がないんだから、これはリハビリだと思うことにしよう。
そうして黒猫さんでは、肩凝り同盟のふたりが、今後、不定期に会合を開くことになったのだけれど。
それから会合ではわたし達女子の悩みに気の毒そうな顔をしたユキくんが、それぞれの症状に合わせた、メニューにはない特別なスムージーを作ってくれるようになったりしたんだっけ。
桃香さんに、会いたいな。旦那さまとの馴れ初めとか、恋をどんな風に自覚したのか、とか。いつかそんな話もしてみたい。
今は、お隣に行くだけで何故かドキドキしてしまうけれど、桃香さんと一緒なら、カウンターに並んで座っちゃう、なんていうのも平気な気がする。肩凝りについてお話しながら、時々こっそり恋の話もしたりして。そうして目の前のユキくんには「ふたりだけの内緒の話!」なんて言ってみたりして、ね。
そうやって少しずつ、古い傷を癒していこう。こんな出会いの積み重ねが、わたしをきっと変えていくはず。
その頃のわたしはといえば、お祭り関連の行事に向けて、普段のお店の業務の合間を縫って手作業が増えていた。
天然石がそれほどブームになっているとも思えないけれど、道ゆく人は天然石のブレスレットを気軽に手にとっては眺めてくれるから。それなら、と花火大会や夏祭りの時に店頭で並べてみようかと思い立ったのはいいけれど。
手芸って、ホント、肩が凝るわ……。
わたしは、トントンと自分の肩を叩きながら、千堂桃香さんのことを思い出していた。
ーーー桃香さん、元気にしてるかな。お仕事、ずっと忙しいのかな……。会って聞いてみたいことがあるのに、会いたい時にはなかなか会えないものなのね。
わたしと桃香さんが出会ったのは、お店がオープンして半月ほど経った頃。ようやく春の陽射しが店内に射し込むようになった、風のない暖かい午後。ふらりとやって来た彼女は、何かを探しているようだった。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
まだ接客に不慣れなわたしは、さぞぎこちなかったことだろう。表情もかなり硬かったと思う。
彼女はストラップを探しにやってきたということだったけれど、店内にアクセントとして置いていた一対の猫のオブジェに目を留めていた。
売り物ではないので当然値札も付いていないそれをひとしきり眺めていたけれど。
「あ、えっとですね、携帯用のストラップで何か可愛いのないかなって探してて……」
「それだったらレジの横にありますよ、こちらです」
「あの、それとこれなんですけど、売り物です?」
「申し訳ありません、これは売り物じゃなくてディスプレイ用の置物なんです」
「ああ、そうなんですか。そう言えば値札、貼ってませんものね。すみません、可愛いから売り物なのかなって思っちゃって」
「ごめんなさい、紛らわしい置き方してしまって」
「いえいえ。よく見なかった私も悪いので。ストラップ、見せてもらいますね」
実はこの猫のオブジェは、少し前にも他のお客様から“売り物ではないのか”と聞かれていた。対で置いていると、まるでつがいのように見える二匹の猫は、確かに見ていると癒される気がする。これは開店祝いに、と叔母が送ってきてくれたもの。お譲りすることはできないのだ。
申し訳ない気持ちでいると、学校帰りの七海ちゃんがやってきた。
「あ、桃香ちゃんだ~。おひさ~!」
あら、七海ちゃんのお知り合いだったのね。
“桃香ちゃん”と呼ばれた彼女は、どうやらわたしと同じくらいの年の人らしい。七海ちゃんと仲良さそうにストラップを見ながら相談している。ローズクオーツなら、彼女に似合いそう。
すると、彼女がぽつりと呟いた。
「なんだかこういうの作るのって肩こりが凄そうだね……」
あ、この人、分かってくれてる……?
「そうなんですよ、肩こりが凄いんです!」
だから思わず、話しかけていた。
「目も疲れそう……」
「はい、かすみ目になるから目薬必須です!眼精疲労っていうんでしょうか。肩だけじゃなく頭も痛くなることがあるんですよ」
すると、七海ちゃんも加わってきた。
「桃香ちゃんも仕事のせいで肩こりが酷いっていつも言ってるもんね。良かったじゃん、肩こり仲間ができてさ」
「七海ちゃん、そんな仲間、嬉しくないよ?」
「でも、お兄さんは理解してくれないんでしょ?」
「それはそうなんだけど」
うん?どうやらこの方も肩が凝るようなお仕事をされている?話の端々で何となく聞こえてくるけれど。
「あの………桃香、さん?」
「はい?」
「私、ここに来たばかりで同世代の同性のお友達っていないんです。もしよろしかったら今度、黒猫さんで肩こり談義でもしませんか?」
あぁ、口が止まらない。いきなりこんなおかしな勧誘、絶対引くよね、って思うのに。
「はい?」
「えぇと、普通にお茶でも構わないんですけど、普段はお仕事でお忙しいでしょうし、お休みの前の夜に黒猫さんならどうかなって。あの、嫌なら別にかまわないんです!ちょっと同世代の方がみえたので嬉しくて、つい……。これから仲良くしてもらえたら嬉しいな、って」
「肩こり仲間だしね」
そうそう七海ちゃん、ナイス突っ込み。
「私、仕事が超不定期でなかなか都合がつかないかもしれないんですけど、そんなので良ければ肩こり談義しましょう。うちの旦那さん、まったく肩こりに理解が無くて困ってるんですよ。この辛さを分かってくれる人とゆっくりお話がしたいです」
あら、旦那さまがいらっしゃるんだ。………って、えぇ?!人妻?!ご結婚されてるようには見えないくらい可愛らしいよ……!ねえ、だってわたしより若くない?
そんなこんなで、彼女が明日お休みだということで早速その晩、お隣で第一回めの会合?を開くことになったのだけれど。
口が滑ったとはいえ、黒猫さんといえば二ヶ月ほど前に、澄さんとユキくんの前で失態をお見せしたばかり。でも、いつまでもお隣さんと顔を合わせないでいられる訳がないんだから、これはリハビリだと思うことにしよう。
そうして黒猫さんでは、肩凝り同盟のふたりが、今後、不定期に会合を開くことになったのだけれど。
それから会合ではわたし達女子の悩みに気の毒そうな顔をしたユキくんが、それぞれの症状に合わせた、メニューにはない特別なスムージーを作ってくれるようになったりしたんだっけ。
桃香さんに、会いたいな。旦那さまとの馴れ初めとか、恋をどんな風に自覚したのか、とか。いつかそんな話もしてみたい。
今は、お隣に行くだけで何故かドキドキしてしまうけれど、桃香さんと一緒なら、カウンターに並んで座っちゃう、なんていうのも平気な気がする。肩凝りについてお話しながら、時々こっそり恋の話もしたりして。そうして目の前のユキくんには「ふたりだけの内緒の話!」なんて言ってみたりして、ね。
そうやって少しずつ、古い傷を癒していこう。こんな出会いの積み重ねが、わたしをきっと変えていくはず。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
25歳の俺とJKギャルの恋は、社会的にアウトですか?
雪奈 水無月
恋愛
雨の夕暮れ、金髪ギャルが道端で固まっていた。
傘も差さず、スマホも財布もないらしい――そんなピンチ女子高生を放っておけるほど、俺・桜井翔真(25)は冷たい人間じゃない。
でも助けた相手が、ツンツンしつつも妙に距離を詰めてくる“ギャル”だなんて聞いてない!
「アンタ、なんか優しいじゃん。……もしかして、アタシのこと好き?」
「いやいやいや、そっちの方向性じゃないから!」
そうやって誤魔化していたのに、次に会ったときはお礼に手作り弁当を渡され、
派手な見た目と裏腹な家庭的すぎる一面を見せられて――俺の心は、ちょっとだけ揺れた。
だけど、25歳と17歳。
年の差も、世間の目も、俺たちの前に立ちはだかる。
これは、ひょんな出会いから始まった“絶対にバレちゃいけない、だけど止められない”年の差ラブコメの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる