彼女をぬらす月の滴

内山恭一

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雨は散々降ってなお、まだ降り続いていた。
暗い外の風景に教室の照明がいやに明るい。
昼からの授業もあと一つを残すのみとなって、今授業が始まるチャイムが鳴り響いている。
あかさはいつもと変わらない光景の中に、まだ携帯を出して触り続けている加織をクラスメイトの隙間に見つけ、一人ドギマギしていた。
もう仕舞わないと見つかっちゃうよ!
実際には遠く離れた席なのでそれを伝えることは叶わず、代わりに彼女の隣席の女子が没収の危機を察知して止めてくれたようで、あかさは深くため息をついていた。
「なぁ。最近、変だぞ」
そんなあかさの姿を見て気になったのか、佐村が身を乗り出して小声で話しかけてきた。
「うん、加織でしょ?」
「いや、お前がだよ」
案じているのは加織のことなのに、まさか自分が変だと言われるとは思っていないあかさは驚いたが、すぐに平静を装って、
「どう変なの?」
「授業中寝てないし」
何?その理由。
佐村のにやけた顔に力が抜けて、あかさはあっけらかんとしていた。
「何、止まってるんだよ」
実際、数秒間加織を無意識に見つけようとして目だけを動かしていた自分に気づく。
「いや、別に…」
「ずっと何か考えてるよな?」
と、今度は真顔で聞いてくる。
確かに、最近は加織のことが気になって、あれやこれやと想像しては結局無駄なことをしていると気づいてそれでもまた同じことを繰り返す、そんな日々を送っていた。
当然授業内容も頭に入ってこない。
「そうだね」
と、視線を外した時、教師がパタパタと近づく音をさせていた。
加織は大丈夫だろうか?
頬杖ついて机とにらめっこしている加織の姿は大人びた印象が消え、思春期の少女といった背中を見せていた。
教師が入ってきて授業が始まるが、音にも声にも反応を見せないのが気になった。
やっぱり話を聞きたい。
しつこいって言われるのは怖いけど、知らないままの方が嫌だ。
話してくれるまで、何度でも訊ねよう。
梅雨空と違う、春の陽気に輝く加織の笑顔を取り戻したい。
あかさはそう心に決め、奮い立つと同時に、若干の眠気を感じて睡眠をとる決意をした。
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