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第1章 幼少期~暗闇と救済編~
11 わたしとシャルルの心配
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ちょっと短めです。
書き出しの書き方を少し変えてみました。
*
紙を捲る音静かに響いていた。
カチカチと時計の音が鳴り、時を刻んでいく。
温かい日差しが注ぐ窓の近くにあるテーブルに座るのは白金の髪の少女と薄い水色の髪の少年。
二人ともお互いの目の前にある本から目を離さず、字を目で追っていた。その目の色はとても似ているが、白金の髪の少女の瞳の方が濃く、深い色合いをしている。
少年の方が読み終わったのか、本から顔を挙げ、隣に用意された紅茶を飲む。そして、少し苦い顔をしながら少女の方を見た。
「なあ、ちがくない?」
「なあに?」
「さいきん、会いに来ても本ばっかりじゃない?」
「だめなの?」
「いや、だめじゃないけどさ…」
少女の眼は本から離れないため、少年は丁寧な動きでもう一度、紅茶を口に運んだ。
「というか、ティーはなんでそんなむずかしそうなのよんでるの?」
「シャルのほんがかんたんすぎなだけだよ」
そう言ってティファニアは顔を挙げた。そして、淑やかな動きでティーカップを手に取り、口に運ぶ。
「いやいや、5歳がよむ本じゃないから」
「そう? じゃあ、シャルもよめばいいんじゃないかな? ねっ?」
「むずかしくって、わかんないよ!」
そう、ティファニアの手元にある本は5歳児が読む本では決してない。そして、本でもない。資料である。
ウルタリア侯爵邸にティファニアが来て、既に半年が経ち、ティファニアも5歳になった。目の前のシャルルも先月に誕生日を迎え、既に5歳になっている。そんなシャルルは週に1回はティファニアの家を訪れ、一緒に遊んだり、本を読んだりしている。
しかし、シャルルは最近、一緒にいても本を読む時間が大幅に増えた気がしている。彼も本を読むのは嫌いじゃないが、やはり子供であり、外で遊びたい。それを強く言えないのは、ティファニアと前に外で遊んでいて、彼女が倒れたからだ。その日は日差しが強かったため、長時間外にいたことで熱中症になり、ティファニアの意識はログアウトしてしまったのだ。突然、人形の糸が切れたかのようにぱたりと倒れたティファニアをシャルルは死んだかと思った。あんな自分の心臓が止まりそうな経験はこりごりであるため、シャルルは室内で本を読むことに文句が言えないのだ。
「ねえ、そういえば、今日さ、みたよ」
「なにを?」
「ティーのお義母さま」
ピクリとティファニアの眉が動いた気がしたが、興味なさげに返事する。
「ふーん、アドリエンヌ様ね」
アドリエンヌに最初に打たれてから、もう2度部屋に呼び出され、同じことをされた。アリッサには止められたが、ルシアの家族が心配だったので、ティファニアは何の恐怖もなくアドリエンヌの部屋に行った。そのときにうっかりお義母さまと呼んでしまったら、頬を数度叩かれ、「汚らわしいあなたの母親になった覚えはないわ」と言われたので、アドリエンヌ様と呼ぶようにしている。
「なんだ、気にならないのか?」
「べつに。どうでもいい」
本当にどうでもいいので、ティファニアは正直に、突き放すように言う。ティリアとはあれ以来内緒で何度も会っているので気になるが、アドリエンヌはティファニアを見ていない。自分を見ようともしない人を何度も気にかけるほどティファニアの人生は暇じゃないのだ。
「そう。それならこっちもなにも言わないけど」
「うん。そうしてちょうだい」
「……ねえ、ティー、あの女になにかされたでしょう?」
ティファニアは表情を変えずに、ふいっとシャルルから顔を背けた。
「なにも」
シャルルはアドリエンヌの話題を出すとティファニアの表情が抜けるのを前から知っていた。それ以外の話は基本的に無邪気な顔なのに、あの女の話だけは違った。
「そう?」
「うん、そう」
抑揚のない声でティファニアは返事をする。シャルルは笑ってはいるが、目が冷めているため、ティファニアは何故だか尋問されている気分だ。
「ふーん、じゃあ、これは?」
そう言って、シャルルはティファニアの首の美しいチョーカーのような紋様をそっと触った。
びくりと肩が上がり、ティファニアは冷や汗をかいた。アドリエンヌから受けた傷は紋様のお陰で治っているはずなのに、何故か背中がジンジンと痛んだ気がした。ティファニアはなるべく悟られないように、しかし、喉から絞るように声を出す。
「……なんのこと?」
「べつに。なんでもないよ。ただ、この間、僕のいえの図書室で『まじない』の本をみつけたんだ」
がばりと顔を上げ、悲痛そうな顔をティファニアは浮かべた。
「みた、の?」
「すこし」
「そっ、か。……きもち、わるいでしょ?」
「べつに」
「………そう」
「だいたい、僕のいえだって『まじない』の紋様をつけるし。僕はまだないけど、お父様はあるよ?」
「うん。……しってる」
「じゃあ、いいんじゃない?」
「………うん。ありがとう」
シャルルは励ましたつもりだが、今のティファニアにはあまり意味なかったようで、まだ顔色は暗い。
「だからさ、本当に辛くなったら言って」
シャルルは優しくティファニアの手を握って言った。ティファニアの指先は冷たく、僅かに震えている気がした。
しかし、ティファニアは何も言わずにいつもの綺麗な紫の瞳と共に少し諦めの混じった曖昧な笑みを返した。
(ありがとう、シャルル。だけど、だけどわたしは………)
*
エスパーシャルルですね。
二人の会話は割と淡白です。
ストレートに話し合うとそうなっちゃうんですよね。
書いてて、思ったより暗めの話になっちゃってびっくりしましたw
次回はもっと明るい話です。
書き出しの書き方を少し変えてみました。
*
紙を捲る音静かに響いていた。
カチカチと時計の音が鳴り、時を刻んでいく。
温かい日差しが注ぐ窓の近くにあるテーブルに座るのは白金の髪の少女と薄い水色の髪の少年。
二人ともお互いの目の前にある本から目を離さず、字を目で追っていた。その目の色はとても似ているが、白金の髪の少女の瞳の方が濃く、深い色合いをしている。
少年の方が読み終わったのか、本から顔を挙げ、隣に用意された紅茶を飲む。そして、少し苦い顔をしながら少女の方を見た。
「なあ、ちがくない?」
「なあに?」
「さいきん、会いに来ても本ばっかりじゃない?」
「だめなの?」
「いや、だめじゃないけどさ…」
少女の眼は本から離れないため、少年は丁寧な動きでもう一度、紅茶を口に運んだ。
「というか、ティーはなんでそんなむずかしそうなのよんでるの?」
「シャルのほんがかんたんすぎなだけだよ」
そう言ってティファニアは顔を挙げた。そして、淑やかな動きでティーカップを手に取り、口に運ぶ。
「いやいや、5歳がよむ本じゃないから」
「そう? じゃあ、シャルもよめばいいんじゃないかな? ねっ?」
「むずかしくって、わかんないよ!」
そう、ティファニアの手元にある本は5歳児が読む本では決してない。そして、本でもない。資料である。
ウルタリア侯爵邸にティファニアが来て、既に半年が経ち、ティファニアも5歳になった。目の前のシャルルも先月に誕生日を迎え、既に5歳になっている。そんなシャルルは週に1回はティファニアの家を訪れ、一緒に遊んだり、本を読んだりしている。
しかし、シャルルは最近、一緒にいても本を読む時間が大幅に増えた気がしている。彼も本を読むのは嫌いじゃないが、やはり子供であり、外で遊びたい。それを強く言えないのは、ティファニアと前に外で遊んでいて、彼女が倒れたからだ。その日は日差しが強かったため、長時間外にいたことで熱中症になり、ティファニアの意識はログアウトしてしまったのだ。突然、人形の糸が切れたかのようにぱたりと倒れたティファニアをシャルルは死んだかと思った。あんな自分の心臓が止まりそうな経験はこりごりであるため、シャルルは室内で本を読むことに文句が言えないのだ。
「ねえ、そういえば、今日さ、みたよ」
「なにを?」
「ティーのお義母さま」
ピクリとティファニアの眉が動いた気がしたが、興味なさげに返事する。
「ふーん、アドリエンヌ様ね」
アドリエンヌに最初に打たれてから、もう2度部屋に呼び出され、同じことをされた。アリッサには止められたが、ルシアの家族が心配だったので、ティファニアは何の恐怖もなくアドリエンヌの部屋に行った。そのときにうっかりお義母さまと呼んでしまったら、頬を数度叩かれ、「汚らわしいあなたの母親になった覚えはないわ」と言われたので、アドリエンヌ様と呼ぶようにしている。
「なんだ、気にならないのか?」
「べつに。どうでもいい」
本当にどうでもいいので、ティファニアは正直に、突き放すように言う。ティリアとはあれ以来内緒で何度も会っているので気になるが、アドリエンヌはティファニアを見ていない。自分を見ようともしない人を何度も気にかけるほどティファニアの人生は暇じゃないのだ。
「そう。それならこっちもなにも言わないけど」
「うん。そうしてちょうだい」
「……ねえ、ティー、あの女になにかされたでしょう?」
ティファニアは表情を変えずに、ふいっとシャルルから顔を背けた。
「なにも」
シャルルはアドリエンヌの話題を出すとティファニアの表情が抜けるのを前から知っていた。それ以外の話は基本的に無邪気な顔なのに、あの女の話だけは違った。
「そう?」
「うん、そう」
抑揚のない声でティファニアは返事をする。シャルルは笑ってはいるが、目が冷めているため、ティファニアは何故だか尋問されている気分だ。
「ふーん、じゃあ、これは?」
そう言って、シャルルはティファニアの首の美しいチョーカーのような紋様をそっと触った。
びくりと肩が上がり、ティファニアは冷や汗をかいた。アドリエンヌから受けた傷は紋様のお陰で治っているはずなのに、何故か背中がジンジンと痛んだ気がした。ティファニアはなるべく悟られないように、しかし、喉から絞るように声を出す。
「……なんのこと?」
「べつに。なんでもないよ。ただ、この間、僕のいえの図書室で『まじない』の本をみつけたんだ」
がばりと顔を上げ、悲痛そうな顔をティファニアは浮かべた。
「みた、の?」
「すこし」
「そっ、か。……きもち、わるいでしょ?」
「べつに」
「………そう」
「だいたい、僕のいえだって『まじない』の紋様をつけるし。僕はまだないけど、お父様はあるよ?」
「うん。……しってる」
「じゃあ、いいんじゃない?」
「………うん。ありがとう」
シャルルは励ましたつもりだが、今のティファニアにはあまり意味なかったようで、まだ顔色は暗い。
「だからさ、本当に辛くなったら言って」
シャルルは優しくティファニアの手を握って言った。ティファニアの指先は冷たく、僅かに震えている気がした。
しかし、ティファニアは何も言わずにいつもの綺麗な紫の瞳と共に少し諦めの混じった曖昧な笑みを返した。
(ありがとう、シャルル。だけど、だけどわたしは………)
*
エスパーシャルルですね。
二人の会話は割と淡白です。
ストレートに話し合うとそうなっちゃうんですよね。
書いてて、思ったより暗めの話になっちゃってびっくりしましたw
次回はもっと明るい話です。
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