ロボ彼がしたい10のこと

猫屋ちゃき

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第七話

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 合コンは大学の前期の講義の受講登録などが落ち着いた、四月の中旬に開催されることになった。
 名目上、幹事は篤志と星奈ということになっているけれど、店選びや女子側の人選は幸香がやってくれた。ずっと前川に片思いしていたとはいえ、合コンに呼ばれれば数合わせに参加していたらしく、なかなか慣れている感じだった。

「星奈ちゃん、久しぶり~。ちょっと痩せた? でも、ちゃんと大学来てるみたいでよかった」

 最後の講義が終わり、待ち合わせの駅に行くと、今日の合コンの女子メンバーが来ていた。幸香が呼んでくれたメンバー二人のうちひとりは顔見知りの優子で、星奈を見ると心配そうな顔をした。

「優子ちゃん、久しぶり。うん。気持ちも生活ぶりも立て直しまして、何とかやれてます」

 この人にも心配してもらっていたなだなと思って、星奈はペコッと頭を下げた。それを見て、優子はようやくほっとした様子になる。

「よろしいよろしい。あ、この子は同じサークルの千鶴」
「どうもー。牧村さんは知らないかもだけど、実は去年の後期に同じ講義取ってるよ。イギリス文化史のやつ」
「千鶴の趣味は他学科の講義をこっそり聴講することなの。これも縁だから、マイナーな講義への潜入とか付き合ってあげてね」
「わかった。よろしく」

 幸香がいろいろ考えて呼んでくれたメンバーなだけあって、優子も千鶴も気さくで付き合いやすそうな人たちだった。
 合コンという不慣れな場でも、この人たちがいれば楽しめそうだと星奈は安堵した。

「もうひとり、今向かってると思うんだけど……」
「遅くなってすみませんでしたっ!」

 夏目のことを説明しようとしていると、タイミングよく本人が駆けてきた。改札を出てすぐに星奈の姿を見つけたのだろう。手にはまだIC乗車券を握っていた。

「夏目ちゃん、こちらは優子ちゃんと千鶴ちゃん」
「どうも。夏目薫子です。わあ……女子大生だ」

 呼吸を整えると、夏目は礼儀正しくお辞儀をした。それから、感激した様子で優子たちを見ている。

「何? そんなに女子大生が珍しい?」
「私、専門に通ってるんで、周りのみんなファッションが個性的というか何というか……だから、いい匂いがしそうな女子大生のお姉さんたちを見て嬉しくなっちゃってます」
「ちょっとー。男子を釣る前に可愛い子が釣れたよ。上々だね」

 どうやら千鶴は夏目を気に入ったらしい。ニコニコして、今にも肩を組みそうな雰囲気だ。女子メンバーの相性はなかなかよさそうで、千鶴の言うように上々という感じだ。

「夏目ちゃんも、今日すっごく可愛いよ。気合い入ってるね」
「はい。可愛いって思われたいので……」

 夏目は普段、アシメのショートカットにストリートファッションという、個性的な見た目をしている。でも今日は、ガーリーな服装に身を包んでいて、いつもより可愛い雰囲気に仕上がっている。そのことを星奈が耳打ちすると頬を染めるのも可愛らしい。

「じゃあ、行こうか。楽しもうね」
「おー!」

 仲良く掛け声を上げて、星奈たちは待ち合わせの店へと向かった。

 女子たちが和気あいあいとしているため、合コンは和やかな雰囲気の中で始められた。
 男子から女子の順に自己紹介をして、最後にエイジが「見学者のエイジです」と自己紹介すると、その場はどっと沸いた。

「見学者がいる合コンとか初でウケるんだけど」
「でも、留学生が興味持ってくれるっていいね。グローバルだ。これが、ジャパニーズコンパだよ」
「いやいや、ゲイシャとかフジヤマみたいか教え方すんなって」

 篤志が声をかけて連れてきた男子は、とにかくノリがいい松田と、何となくナルシストな雰囲気の坂本という二人だった。
 ツッコミを入れつつイレギュラーな存在のエイジを受け入れてくれているあたり、いい人なのだろう。

「……夏目、何でこんなとこにいるんだよ」
「奇遇だね」

 篤志に無理を言って連れてこられた様子の金子は不機嫌そうに夏目に小声で声をかけ、そこだけ不穏な雰囲気だ。
 とはいえ、まずまずの滑り出しという感じだ。
 それからは自己紹介を掘り下げて、趣味やサークルの話で盛り上がった。
 松田は落語研究会に所属しているらしく、有名な落語のさわりの部分を披露してくれた。坂本は旅行バドミントンというサークルに入っているけれど、実際はただの飲みサークルなのだという実情を面白おかしく語った。篤志は趣味の話ではなく、なぜかお好み焼きについて熱弁を振るう。
 意外はことに男女共に食いつきがよかったのは、金子のアウトドアな趣味の話だった。金子自身が心底楽しんでいるからか、ただキャンプ場でお湯を沸かしてインスタントコーヒーを飲むだけで楽しそうで、すごくおいしそうに聞こえた。
 その話に便乗し、エイジも焚き火グリルで焼き鳥を焼いたことがあると話し、そこからバーベキューの話へと発展していった。
 女子たちも趣味の話を掘り下げなければならないのかと星奈は少し嫌だったのだけれど、男子たちは火起こしスキルや好きな肉の話で盛り上がって、そういった話題が出ることはなかった。

「星奈ちゃん、大変だったね」
「え? ……ああ、うん」

 優子たちがお手洗いに席を外した隙に、松田が星奈の隣に移動してきた。意味ありげに言われ、星奈は一瞬意味がわからなかった。でも、意味がわかっても、どう返答していいかわからない。

「五島くん、亡くなって二ヶ月だっけ? もう立ち直れた?」
「うん、まあ……」
「立ち直ってなきゃ、こんなとこ来ないか」

 同じ大学というだけあって、どうやら松田は瑛一が亡くなったことを知っているらしい。そして、星奈が恋人だったということも。
 松田の顔には笑みが浮かんでいて、口調も柔らかだ。

「俺は何とも思わないけどさ、彼氏が亡くなって二ヶ月で合コンとか来るのをよく思わない人も多いだろうから、もうやめといたほうがいいよ」

 おそらく、責められているわけではないのだろう。
 それでも、星奈は言い知れぬ居心地の悪さと気持ち悪さを感じていた。

「まだ若いしさ、寂しいのはわかるから……俺にしとかない?」

 松田はそう耳元で囁いて、意味深に手を握ってきた。それがあまりに不快で、星奈は思わずその手を払いのけた。

「やめて!」

 一瞬で、全身の血が沸騰するかのような心地がした。久しぶりに、怒りに心が支配されるのを感じた。
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