27 / 37
第八話
2
しおりを挟む
***
連休明けの日曜日、「トントン」の店休日に星奈たちは海へ来ていた。
わざわざ店休日に行くことになったのはバイトの主要メンバーが抜けることになるからだけれど、店主の前川が行きたがったからでもある。
というわけで結局、花見のときとほとんど変わらないメンバーで釣りにやって来ている。
「今日はサビキでアジを釣ります」
車を近くの駐車場に止めて波止場にやって来ると、釣り竿を手に金子が説明を始めた。
「撒き餌をこの一番下のカゴに入れて海に投入すると、魚が寄ってくる。で、その撒き餌と針についた擬餌を食べると、魚が引っかかる。そしたら竿がしなるからリールを巻き上げて……って感じで釣り上げます。ちなみに、この擬餌のついた仕掛けをサビキ仕掛けっていうんです」
金子は淡々と説明していたけれど、やってみたほうが早いと思ったのか、一同に背を向けるとヒョイっと竿を振って仕掛けを海へ放り込んだ。
それは無駄のないフォームで、金子がいかに釣りに慣れているかわかる。
星奈たちは歓声を上げてから、竿を握り真剣に海を睨む金子の背中を見守る。すると、そう経たないうちに竿の先端がグッと引き込まれるようにしなった。金子は慌てることなく竿を持ち上げ、リールを巻いていく。
「すごい!」
海から上げられた釣り糸を見て、星奈は思わず感嘆の声をもらした。
八つある針のうち、六つに魚がかかっていた。
「あー……本当は全部の針に魚がかかるのを見せたかったんだけど。まあ、そういうことにこだわると逃げられるから、ほどほどに引いたらリールを巻いて引き上げてください」
言いながら、金子は針から魚を華麗に外し、海水を入れておいたバケツに放った。
「これ、浮きはついてないんだな。俺、釣りってあんまりやったことなくて、仕掛けの違いとかわからないんだけど」
「浮きをつけたほうがより初心者向けになるとは思ったんですけど、そうすると浮きの動きばっかり見て引いたときの感触を覚えないかなって」
「なるほどね。あ、これは錘を糸の先につけてるんじゃなくて、カゴの底に錘がついてるんだ」
「そうです。こっちのほうがたぶん、慣れてない人でも投げやすいですから」
あんまりやったことがないというわりに、前川は金子が用意してきた竿にずいぶん食いついている。尋ねられるとやはり嬉しいのか、金子も熱心に答えている。
金子が華麗に釣り上げるのを見せられている星奈たちは、早くやってみたくてうずうずしていた。だから、二人の話が長引いたらどうしようと思って、みんなで顔を見合わせた。
「金子ー! 早くしようよ。みんな退屈しちゃうよ」
「そうだった」
見かねた夏目が声をあげてくれたことで、ようやく金子は今日の本来の目的を思い出したらしい。
「竿は人数分ないんで、うまく交代しながら釣ってください。時々引き上げて、カゴに撒き餌を補充するのを忘れずに」
「はーい」
「七人に対して竿が四本だから、まずは女子三人にやってもらって、残り一本は……エイジさん、やってみる?」
竿を配りながら、金子がエイジに尋ねた。金子も何かとエイジを気にかけてくれていて、どうやら気が合うらしい。
「俺はいいよ。最初は見てる。アツシは?」
「いいの? やるやるー!」
星奈、幸香、夏目、それから篤志に竿が配られ、四人は並んで釣ることになった。当たり前のようにエイジと前川と金子が女子三人の補助のように背後に立つのを見て、篤志はしまったという顔をした。
「こうなったら、俺は誰より多くアジを釣ってやるぞー」
気合いたっぷりのかけ声と共に、篤志は竿を振って仕掛けの部分を海へ放った。それにならって、星奈たちも竿を振る。
「どうしよう……あんまり遠くに飛ばなかった」
思いきり投げたつもりだったのに、星奈の糸はわりと手前のところに落ちてしまった。
「大丈夫。魚が気づいて来てくれるよ」
「うん。……あ! これ、引いてる?」
エイジに励まされてすぐ、星奈の釣り竿の先端はしなった。
「引いてるよ。落ち着いてリールを巻いたらいいから」
初めての感覚に驚く星奈に、エイジは優しく声をかけてくれた。戸惑いながらもリールを巻いていくと、引き上げた仕掛け部分にはアジが四匹かかっていた。
「すごい! 釣れたよ! 初めてで四匹も釣れた!」
「セナ、やったね。じゃあ、魚を針から外さないと」
「うん。……あれ?」
喜び勇んで魚の口から針を外そうとするも、それはなかなかうまくいかなかった。星奈にとって初めてなのは釣りだけではなく、生魚を触ることもだった。ましてやビチビチとまだ動く魚なんて近くで見たことも初めてで、怖気づいてしまっていた。
「貸して。噛んだりしないから、怖がらなくていいよ」
見かねたエイジが横から手を伸ばして、一匹一匹丁寧に針から外してくれた。金子ほど華麗な手つきではないものの、星奈のようなおっかなびっくりといった覚束なさはない。
「エイジ、上手だね」
「カネコくんほどじゃないけど」
「次、釣る?」
「うん、やってみる」
四匹釣ってちょっとした達成感を味わった星奈は、エイジに釣り竿を渡す。エイジはそれを目をキラキラさせて受け取って、早速きれいなフォームで仕掛けを投げた。
「星奈さん、見て見て! 俺、いきなり八匹釣ったよ」
少し離れたところで釣っていた篤志が、そう言って釣り上げた魚を掲げて見せてきた。
「すごいね! いきなり? 私はまだ四匹」
「俺がもっと釣るからいい。負けない」
「チーム戦なの?」
「うん」
星奈が篤志の釣果に感心すると、横でエイジがボソッと言った。その対抗心むき出しの発言に星奈は笑ったけれど、男性陣にとっては聞き捨てならなかったようだ。
連休明けの日曜日、「トントン」の店休日に星奈たちは海へ来ていた。
わざわざ店休日に行くことになったのはバイトの主要メンバーが抜けることになるからだけれど、店主の前川が行きたがったからでもある。
というわけで結局、花見のときとほとんど変わらないメンバーで釣りにやって来ている。
「今日はサビキでアジを釣ります」
車を近くの駐車場に止めて波止場にやって来ると、釣り竿を手に金子が説明を始めた。
「撒き餌をこの一番下のカゴに入れて海に投入すると、魚が寄ってくる。で、その撒き餌と針についた擬餌を食べると、魚が引っかかる。そしたら竿がしなるからリールを巻き上げて……って感じで釣り上げます。ちなみに、この擬餌のついた仕掛けをサビキ仕掛けっていうんです」
金子は淡々と説明していたけれど、やってみたほうが早いと思ったのか、一同に背を向けるとヒョイっと竿を振って仕掛けを海へ放り込んだ。
それは無駄のないフォームで、金子がいかに釣りに慣れているかわかる。
星奈たちは歓声を上げてから、竿を握り真剣に海を睨む金子の背中を見守る。すると、そう経たないうちに竿の先端がグッと引き込まれるようにしなった。金子は慌てることなく竿を持ち上げ、リールを巻いていく。
「すごい!」
海から上げられた釣り糸を見て、星奈は思わず感嘆の声をもらした。
八つある針のうち、六つに魚がかかっていた。
「あー……本当は全部の針に魚がかかるのを見せたかったんだけど。まあ、そういうことにこだわると逃げられるから、ほどほどに引いたらリールを巻いて引き上げてください」
言いながら、金子は針から魚を華麗に外し、海水を入れておいたバケツに放った。
「これ、浮きはついてないんだな。俺、釣りってあんまりやったことなくて、仕掛けの違いとかわからないんだけど」
「浮きをつけたほうがより初心者向けになるとは思ったんですけど、そうすると浮きの動きばっかり見て引いたときの感触を覚えないかなって」
「なるほどね。あ、これは錘を糸の先につけてるんじゃなくて、カゴの底に錘がついてるんだ」
「そうです。こっちのほうがたぶん、慣れてない人でも投げやすいですから」
あんまりやったことがないというわりに、前川は金子が用意してきた竿にずいぶん食いついている。尋ねられるとやはり嬉しいのか、金子も熱心に答えている。
金子が華麗に釣り上げるのを見せられている星奈たちは、早くやってみたくてうずうずしていた。だから、二人の話が長引いたらどうしようと思って、みんなで顔を見合わせた。
「金子ー! 早くしようよ。みんな退屈しちゃうよ」
「そうだった」
見かねた夏目が声をあげてくれたことで、ようやく金子は今日の本来の目的を思い出したらしい。
「竿は人数分ないんで、うまく交代しながら釣ってください。時々引き上げて、カゴに撒き餌を補充するのを忘れずに」
「はーい」
「七人に対して竿が四本だから、まずは女子三人にやってもらって、残り一本は……エイジさん、やってみる?」
竿を配りながら、金子がエイジに尋ねた。金子も何かとエイジを気にかけてくれていて、どうやら気が合うらしい。
「俺はいいよ。最初は見てる。アツシは?」
「いいの? やるやるー!」
星奈、幸香、夏目、それから篤志に竿が配られ、四人は並んで釣ることになった。当たり前のようにエイジと前川と金子が女子三人の補助のように背後に立つのを見て、篤志はしまったという顔をした。
「こうなったら、俺は誰より多くアジを釣ってやるぞー」
気合いたっぷりのかけ声と共に、篤志は竿を振って仕掛けの部分を海へ放った。それにならって、星奈たちも竿を振る。
「どうしよう……あんまり遠くに飛ばなかった」
思いきり投げたつもりだったのに、星奈の糸はわりと手前のところに落ちてしまった。
「大丈夫。魚が気づいて来てくれるよ」
「うん。……あ! これ、引いてる?」
エイジに励まされてすぐ、星奈の釣り竿の先端はしなった。
「引いてるよ。落ち着いてリールを巻いたらいいから」
初めての感覚に驚く星奈に、エイジは優しく声をかけてくれた。戸惑いながらもリールを巻いていくと、引き上げた仕掛け部分にはアジが四匹かかっていた。
「すごい! 釣れたよ! 初めてで四匹も釣れた!」
「セナ、やったね。じゃあ、魚を針から外さないと」
「うん。……あれ?」
喜び勇んで魚の口から針を外そうとするも、それはなかなかうまくいかなかった。星奈にとって初めてなのは釣りだけではなく、生魚を触ることもだった。ましてやビチビチとまだ動く魚なんて近くで見たことも初めてで、怖気づいてしまっていた。
「貸して。噛んだりしないから、怖がらなくていいよ」
見かねたエイジが横から手を伸ばして、一匹一匹丁寧に針から外してくれた。金子ほど華麗な手つきではないものの、星奈のようなおっかなびっくりといった覚束なさはない。
「エイジ、上手だね」
「カネコくんほどじゃないけど」
「次、釣る?」
「うん、やってみる」
四匹釣ってちょっとした達成感を味わった星奈は、エイジに釣り竿を渡す。エイジはそれを目をキラキラさせて受け取って、早速きれいなフォームで仕掛けを投げた。
「星奈さん、見て見て! 俺、いきなり八匹釣ったよ」
少し離れたところで釣っていた篤志が、そう言って釣り上げた魚を掲げて見せてきた。
「すごいね! いきなり? 私はまだ四匹」
「俺がもっと釣るからいい。負けない」
「チーム戦なの?」
「うん」
星奈が篤志の釣果に感心すると、横でエイジがボソッと言った。その対抗心むき出しの発言に星奈は笑ったけれど、男性陣にとっては聞き捨てならなかったようだ。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾書籍発売中
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる