恋愛栽培 ―A Perfect Sky ―

明智紫苑

文字の大きさ
10 / 25
本編

甘い腐敗臭の女

しおりを挟む
 秀虎はラジオを聴いている。「寂しくないように」という、加奈子の心遣いだ。普段聴いているFMラジオ局は、様々なジャンルの音楽を流すので、退屈はしない。
 今流れているのは、BONNIE PINKの「A Perfect Sky」。加奈子が好きな曲だ。
「完璧な空」。自分も彼女と見たい。手を取り合って。
 体の芯が出来つつある。骨らしき堅い芯。内臓組織も順調に育っている。後は、筋肉と皮膚だ。
 しかし、いつまでかかるのか?
 まだ未完成…未再生の体が火照っている。体の芯から熱がある。風邪などの病状とは違う。根本的な生命力が発する「熱」なのだ。
 彼が思うのは加奈子の事ばかり。早く元の体を取り戻し、この手で抱きしめたかった。
 時が経つのが、さらに長く感じられた。



「どす黒いモジャモジャした気配…この辺なんだなぁ」
 黒のライダースジャケットに黒のジーンズに黒のエンジニアブーツというバイカーファッションに身を包んだ男は、繁華街をうろついていた。
「この辺、どうやら違法風俗店があるみたいだな…いかにもいかがわしい」
 その「いかにもいかがわしい」雑居ビルから、一人の若い女が出てきた。明るい茶髪を緩く巻いて、背中に垂らしている。身長は、だいたい165cmくらいだ。
 いかにも「ギャルギャルしい」服装に身を包み、女は歩いている。男は数メーター離れて、さりげなく後を追った。女は男の気配に気づく素振りを見せない。
「何だか、いかにもギャル系ファッション誌の読者モデルみたいだな…判で押したような」
 あまりにも自己主張が強過ぎるアイメイクと、アニマルプリントの服。派手なオシャレのおかげで「美人度」や「ブス度」が曖昧な女。しかし、男は彼女からただならぬ気配を感じた。
 間違いない。この女が臭い。
 おそらく、このビルに入っている違法風俗店の従業員だ。そして、おそらく、花川加奈子を恨んで陥れようと企んでいる奴だ。
「あの女があの子と何らかの関係があるか、調べるか…」
 まずは、彼女自身について探ってみよう。
 男は光の玉に姿を変え、消えた。



《今日は、3月3日。桃の節句♪ 女の子の日だから、当然あたしの日だにょん♪》
 女は、今日も確信犯的妄想ブログを更新していた。
 腹黒白雪姫と「小人」たち…「ヴァーチャル枕営業」でつなぎ止めたブログ友達の阿諛追従おべっか
「…つまんね」
 彼女はネットでの「お姫様ゴッコ」に飽きていた。どうせネット上で出会う人間とは、あくまでも文字のみでの付き合いだし、どうでもいい。あくまでも、ただの他人。気にする必要はない。
 ただ、一人の女を除いて。
 中学校の卒業アルバムは、とっくの昔に捨てた。いや、母親が捨てたのだ。あの「毒親」め。再婚相手は「客」で、都合のいい時だけ母親面する女は「やり手婆」だった。
 卒業アルバム…あの元クラスメイトの女の顔立ちは、どことなく母親の若い頃に似ていた。だからこそ、大嫌いだった。ついでに、その女に似たグラビアアイドルも嫌いだった。
 彼女は、そのクラスメイトの女の写真を黒く塗りつぶした。ついでに、その女の親友二人の写真も塗りつぶした。そして、アルバムをほったらかしていたら、いつの間にか捨てられていた。
 母親が「客」と離婚したのは、娘のためではない。「客」が他の女になびいて、自分たち親子を捨てたのだ。母親は娘を逆恨みし、家から追い出した。
 彼女は男たちの家を転々とした。その間に違法薬物の味を覚え、気がついたら「夜の女」になっていた。
「あいつらのせい」
 母親は、娘が「稼げる」ようになると、しばしば金の無心をした。お互いに、相変わらず男漬け。娘はホストとできちゃった結婚をしたが、夫は借金取りから逃れるために雲隠れ、わずか3か月の名ばかりの結婚生活。
 彼女は、未婚の母同然に産んだ一人娘を母親に押し付け、一人、身を削って「女」を売っていた。そんな彼女の現実逃避として、ネットとクスリがあった。
 彼女は「オリジナル小説」の書き換えをしていた。この小説は自分と同じ仕事の女が主人公だが、元の作者は素人だろう。だから、「本職」の自分が手直しすれば、リアリティが増すハズだ。
 これが入選すれば、あの女に勝てる。
《あたし、小説の新人賞に応募します! 皆さん、応援してね♪ にょん!》
 女は、違法薬物をほおばり、ビールを飲み干した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...