紫房ノ十手は斬り捨て御免

藤城満定

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小手斬り左門次の探索〜其の参。

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 小手斬り左門次から香油の匂いがしたのなら、江戸中の油問屋や油屋、油店を虱潰しに探せば直ぐに手掛かりが掴める筈だと思っていたのだが、三日経っても手掛かりは掴めなかった。
「山中。今日も駄目か」
「申し訳ございません。香油を扱う店は全て当たりましたが、手掛かりになるようなものは一向に」
「ふむ。担ぎ売りはどうじゃ」
「は。其方も一向に」
 申し訳なさそうに項垂れる筆頭同心山中忠吾の顔には疲れが見える。
 それを見ては、いくら伝三郎でも責める事は出来なかった。
「女の線はどうじゃ」
 無理を承知で問うと、首を横に振る。
「だろうな。いや、済まぬ。つまらぬ事を言ったな」
 香油を買い求める女など、この江戸の町には掃いて捨てる程にいるのだ。そこから手掛かりを掴む事など不可能だ。
 伝三郎は首を捻って唸る。
 油問屋から担ぎ売り、果ては岡場所にまで探索の手を伸ばしたのに手掛かりとなるものが全く掴めないとは夢想だにしなかった。
 小休止とばかりに煙管に莨を詰めて一服していると、とある事が閃いた。
「山中。吉原はどうじゃ」
「吉原、でございますか。吉原は」
 と言いかけた山中が膝を叩いた。
「成る程!吉原とは盲点にございました。確かに吉原には探索の手を入れておりませんでした。そうか、吉原か!」
 合点がいったのだろう。
 山中忠吾という男は、のんびりしているように見えて、かなり頭が切れる男で、一を言えば十を理解する事ができるのだ。
 そう。吉原には油問屋ではなく、香油のみを扱う店があるのだ。櫛、簪、笄、白粉、紅、その他必要な物のみを扱う店がある。
 吉原なら遊女、芸者、禿に至るまで香油を使うし、一夜の夢を見たのなら匂いが衣服に着いたとしても不思議ではないし、四郎兵衛会所の若衆にも香油を使っている者もいるだろうし、男客に頼まれて買いに行く事もあるだろう。
「そうと分かれば」
 と早速吉原に聞き込みに行こうとする山中を引き止めた。
「待て、山中。今から行っても吉原は眠っておるぞ」
 時刻は昼の九つ半。
 吉原の遊女達は夜の疲れを癒やすために未だ寝ている時刻である。
「会所の四郎兵衛殿に探索を頼んでも動くに動けまいて。夜になるまで待つ事だな」
「は。これは然り。つい、血気に逸りまして」
 山中忠吾は恥じ入るように顔を赤く染めた。
「それよりも、殺害された剣客達に繋がりはあったのか」
「さて。今はまだ何の繋がりも見付けられてはおりませぬ」
「左門次の流儀も分からぬか」
「さて、それも」
「左様か」
 両小手を斬り落としておいてから首筋を刎ね斬るとは珍しい斬り方だ。その独特の剣術から何らかの手掛かりが掴めるかもしれないと思っていたのだが、未だに流儀すら判明していない。
「我流でございましょうか」
「無くもないが、それでも元になった流儀があるはずだ。左門次はかなりの遣い手。なればこそ必ず何処かの道場で学んでいた筈。でなければ名だたる剣客を斬る事など出来ようはずもない」
「確かに」
 とは言えこの江戸の町には数多の剣道場があり、それを虱潰しに探すのは香油の手掛かりを掴むのよりも遥かに難しい事である。
「山中。これはひょっとすると俺達が思っているよりも遥かに根が深いのやもしれぬぞ」
 伝三郎と山中忠吾は難しい顔をする。
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