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第二章 救いを追い求めて
徒足
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三人の死体を越えてさらに深部へと進んでいくと、段々と手の凝った装飾の柱が増え、壁にも岩を切り出した文様が現れ始めた。確実に中心部へと足を踏み入れていっているということなのだろう。
意匠を凝らした職人の技術はここ最近では類を見ない程のもので、もはや物語のようになっている彫り絵もたくさんある。
蛇やサソリなど付近にいる動物やそれを捕らえる人間の様子。ここから離れた遠くの土地の海と月。森に棲む奇妙な鳥や小動物などの絵もある。
どれも素晴らしい表現力を持った作品なのだが、カイルにはどうでも良いもののようだ。
やがてそんな通路にも終わりが見えてくると、何人かの人間が広い空間にいるのがわかる。それを目視したカイルはあえて浮遊移動をやめ、足音を立てながらその空間に足を踏み入れる。
そうすれば当然、誰だ!? と身なりの悪い男たちが奥の玉座に座る人物を守るように身構えた。最初のうちは数が四人だったのだが、奥からわらわらと仲間が現れて、今では10人になっている。
中心にいる人物は参謀タイプらしき細身の男性で、彼は茶色の髪を後ろで結って怪訝そうに目を細めている。残りの取り巻きたちは、豪快にヒゲを生やした男や戦化粧をしている男など、容姿は様々だが粗野な見た目なのは共通している。
さらに彼らは朱い土を溶かした染料を使って顔や腕など体のパーツに文様を描いているようで、それが彼らの仲間の証のようだった。怪しい人物の来訪に騒ぎ立てる男たちを差し置いて、玉座に座っていたリーダー格の男が問う。
「見張りがいたはずなのですがね……まあいいでしょう。こんな場所に一体何の用ですか?」
「我は魔導書を奪いに来た。寄越せ」
「はて、魔導書とはなんのことでしょうな。しかも奪いに来たとは面白い冗談だ。わたしたちの住処に土足で上がり込んでくるのですから、覚悟はできているのでしょう? お前たち、存分にもてなしてあげなさい!」
それを合図に取り巻きたちが武器を構えてカイルに襲いかかってきた。十人の屈強な男たちが一斉に向かって来れば、重なる足音がまるで地響きのようになって地を揺らす。
しかしカイルが一つ溜め息を吐いただけで、その地響きは完全に止まり辺りは不自然なほど静まった。カイルの左手に現れた黒い魔力の塊から、黒い表紙の荘厳な魔導書が召喚される。そしてそれが開かれて青紫の光を放ち、空気が刺すように張りつめた。
【咆える雷の渦】
真語の美しい響きと共に現界の魔導書の魔術が顕現する。カイルを中心に広がる雷の渦。
それは空気中で凄まじい音を立てて地上を巡り走った。効果範囲にいた男たちはたちまち痙攣して雷の洗礼を受け、青白い閃光を放ちつつ痛ましく命を散らした。
ぐるりぐるりと円を描くように存在する雷の球体から、また別の球体へと雷が幾度となく放電を続けたのち。
やがて収まった雷の範囲を見渡せば、消し炭になった人間の跡が無残に残されているのみ。ただ一人、少し離れたところにいて無事だったリーダーの男は、並々ならぬ光景に唖然としながらもガクガクと震えている。
「なっ……なんだ……これ、は……」
少しずつ歩いて近づいてくるカイルに恐れをなして、ようやく逃げ惑う彼にカイルは容赦なく魔術を放つ。
カイルが右手を少しかざしただけでいきなり現れた石壁にぶつかった男は、空中で踊らされてカイルに向き合うように石壁に固定された。その手足を石の拘束具に捕まれて一切身動きが取れなくなる。
「魔導書を渡せ」
ただそれだけの言葉なのに、男は完全に怯えきって首をフルフルと振った。
「ま、魔導書なんて知らない。確かにこの遺跡にはいくつか本が残されていたが、オーヴェンデとエストルテンの書店に分けて売り払った」
カイルは深呼吸をするかのように目を閉じて集中した。そうやって魔導書の場所を感知し、すぐに目を見開いて不機嫌さを露わにする。
「余計なことをしたな。愚かな貴様にはもう用はない。死をくれてやる」
「や、やめ――ッ」
男の弁解も空しく、石壁から現れたおびただしい数の鋭い石の棘がすぐさま彼の全身を貫いた。
水気を含んだ痛烈な叫び声が遺跡に木霊する。カイルは手元に創り出した石の棘を男の頭部に投げ放って黙らせると、興味を失ったかのように浮遊して古代の遺跡を後にした。
意匠を凝らした職人の技術はここ最近では類を見ない程のもので、もはや物語のようになっている彫り絵もたくさんある。
蛇やサソリなど付近にいる動物やそれを捕らえる人間の様子。ここから離れた遠くの土地の海と月。森に棲む奇妙な鳥や小動物などの絵もある。
どれも素晴らしい表現力を持った作品なのだが、カイルにはどうでも良いもののようだ。
やがてそんな通路にも終わりが見えてくると、何人かの人間が広い空間にいるのがわかる。それを目視したカイルはあえて浮遊移動をやめ、足音を立てながらその空間に足を踏み入れる。
そうすれば当然、誰だ!? と身なりの悪い男たちが奥の玉座に座る人物を守るように身構えた。最初のうちは数が四人だったのだが、奥からわらわらと仲間が現れて、今では10人になっている。
中心にいる人物は参謀タイプらしき細身の男性で、彼は茶色の髪を後ろで結って怪訝そうに目を細めている。残りの取り巻きたちは、豪快にヒゲを生やした男や戦化粧をしている男など、容姿は様々だが粗野な見た目なのは共通している。
さらに彼らは朱い土を溶かした染料を使って顔や腕など体のパーツに文様を描いているようで、それが彼らの仲間の証のようだった。怪しい人物の来訪に騒ぎ立てる男たちを差し置いて、玉座に座っていたリーダー格の男が問う。
「見張りがいたはずなのですがね……まあいいでしょう。こんな場所に一体何の用ですか?」
「我は魔導書を奪いに来た。寄越せ」
「はて、魔導書とはなんのことでしょうな。しかも奪いに来たとは面白い冗談だ。わたしたちの住処に土足で上がり込んでくるのですから、覚悟はできているのでしょう? お前たち、存分にもてなしてあげなさい!」
それを合図に取り巻きたちが武器を構えてカイルに襲いかかってきた。十人の屈強な男たちが一斉に向かって来れば、重なる足音がまるで地響きのようになって地を揺らす。
しかしカイルが一つ溜め息を吐いただけで、その地響きは完全に止まり辺りは不自然なほど静まった。カイルの左手に現れた黒い魔力の塊から、黒い表紙の荘厳な魔導書が召喚される。そしてそれが開かれて青紫の光を放ち、空気が刺すように張りつめた。
【咆える雷の渦】
真語の美しい響きと共に現界の魔導書の魔術が顕現する。カイルを中心に広がる雷の渦。
それは空気中で凄まじい音を立てて地上を巡り走った。効果範囲にいた男たちはたちまち痙攣して雷の洗礼を受け、青白い閃光を放ちつつ痛ましく命を散らした。
ぐるりぐるりと円を描くように存在する雷の球体から、また別の球体へと雷が幾度となく放電を続けたのち。
やがて収まった雷の範囲を見渡せば、消し炭になった人間の跡が無残に残されているのみ。ただ一人、少し離れたところにいて無事だったリーダーの男は、並々ならぬ光景に唖然としながらもガクガクと震えている。
「なっ……なんだ……これ、は……」
少しずつ歩いて近づいてくるカイルに恐れをなして、ようやく逃げ惑う彼にカイルは容赦なく魔術を放つ。
カイルが右手を少しかざしただけでいきなり現れた石壁にぶつかった男は、空中で踊らされてカイルに向き合うように石壁に固定された。その手足を石の拘束具に捕まれて一切身動きが取れなくなる。
「魔導書を渡せ」
ただそれだけの言葉なのに、男は完全に怯えきって首をフルフルと振った。
「ま、魔導書なんて知らない。確かにこの遺跡にはいくつか本が残されていたが、オーヴェンデとエストルテンの書店に分けて売り払った」
カイルは深呼吸をするかのように目を閉じて集中した。そうやって魔導書の場所を感知し、すぐに目を見開いて不機嫌さを露わにする。
「余計なことをしたな。愚かな貴様にはもう用はない。死をくれてやる」
「や、やめ――ッ」
男の弁解も空しく、石壁から現れたおびただしい数の鋭い石の棘がすぐさま彼の全身を貫いた。
水気を含んだ痛烈な叫び声が遺跡に木霊する。カイルは手元に創り出した石の棘を男の頭部に投げ放って黙らせると、興味を失ったかのように浮遊して古代の遺跡を後にした。
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