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第二章 救いを追い求めて
軌跡
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ゴスリック、ケメルダ、オーヴェンデと並んで、ラトウィット大陸で栄えている街といえば残すはここ、エストルテンだ。ディルクは再びゴスリック王国の領内に入ることになる。
アマデウスはディルクの付き人として何とか余計な書類審査なく入国することに成功する。そうして二人が目指すはもちろん書店だ。
魔導書を扱う闇市の情報は未だ手に入っていなかったが、オーヴェンデの書店――あの癖の強い老婆に魔導書を持ち込んだとされる人物がいたことは確か。そうなればおそらくある程度の規模の街に売りに行くことは確かなため、大きな街を虱潰しに探すのもそう悪くはないだろう。
一応検問をやっている騎士に事情を説明して怪しい人物が入国していないか確かめてもらったのだが、そちらは惜しくも空振りだった。とはいえ、絶対にここには来ていないとは言い難い。
警備体制はきちんとしている筈だが、この規模の街を完全に見まわるのは難しい。街を守る壁はあるが、無理をすれば登れないこともないので、どうにかしてこの街に侵入した可能性はあるのだ。
闇市に関しても聞きたいことがあるので、二人は街の奥にある書店に足を踏み入れた。決めてある手筈通り、まずはアマデウスが本屋の店主に声をかける。
するとその声に反応したのは、20歳前後でブラウンの髪色が似合ったポニーテールの女性で、カウンターの向こうから可憐な笑みを浮かべて対応してくれる。しかしその顔はすぐに何とも言えない表情へと変わってしまった。
「古臭い本……ですか?」
「ああ。たぶんお前さんには読み辛い古代の文字が書いてあるような本なのだが」
「そのような本は……あっ。そういえば先日この店にそんな本を持ってきた方がいらっしゃいましたね」
「本当か!? その本は今どこにあるのだ?」
「ええっと。どこだったかしら。あー……お父様!」
女性は奥の部屋へと引っ込んでお父様とやらを呼びに行ったようだ。店主だと思ったその女性は店主の娘だったのだろう。
しばらくして奥から戻ってきたのはその娘ではなく、40代後半くらいの中年の男性だった。
「娘から聞きましたが、古臭い本をお探しだとのことでしたね。先日持ち込まれたそれらしき本は……何というか……あまり大っぴらにできない内容の本ですよ。そんな本のことよりもウチには昔からある書物もたくさんありますから――」
店主が露骨に話を逸らそうとするので、ディルクが仕方なく割って入る。
「私はゴスリック王国元騎士団長のディルクという者だ。訳あって危険な魔導書を探している。大っぴらにできない内容の本と言うのはそういうことだな?」
「いえ、そういうわけでは……」
言い渋る店主に国の印章を押した書類を出して突きつける。
「魔導書を一時的にでも取り扱ったことは大目に見てやる。だから本当のことを話してもらいたい」
「わたしからもお願いしたい。ゴスリックで起きた大量虐殺事件は知っておるだろう? その事件を起こした犯人の手掛かりなのだ」
すると店主はハッとした表情で何かを察したようだった。
「それならば……仕方がないのか……」
店主はブツブツと独り言のようにそう呟いたが、どうやら覚悟を決めたらしく二人に内情を話し始めた。
「その本は茶色の髪を結った細身の男が持ってきたのです。私は魔術には詳しくありませんが、あれが魔導書であるということぐらいはわかりました。なにせ表紙には真語で《冥界の魔導書》と書かれていましたから」
「やはり――その本は俺たちが追っている魔導書で間違いないな。続けてくれ」
「はい。その男はそれが魔導書だと知ってか知らずか早く手放したいようだったので、適当な金額でそれを買い取りました。魔導書の所持は罪になりますが、それを高額で買い取ってくれる当てがあることを思い出したので、欲に負けてしまったのです」
「して、その本は今はどこにあるのだ?」
「残念ながらここにはもうありません。兄に頼んで買い取ってくれる人に届けてもらうことにしたので、その本は今兄が持っています」
「どこに行けばあなたのお兄さんに会える?」
「それが……今頃は乗船所にいるかと。買い取ってくれる当てというのは大陸を跨いだ先にありまして……」
「なんと! それは急がなくては。船が出てしまったら最悪の事態になりかねん」
「兄はこの街を出て西に行った乗船所からラベール大陸に向かう手筈になっています。追うのならできるだけ急いでください」
「わかった。情報に感謝する」
二人は少々気疲れしている店主を気遣ってから、魔導書を持った兄を追うため大急ぎで書店を後にした。
アマデウスはディルクの付き人として何とか余計な書類審査なく入国することに成功する。そうして二人が目指すはもちろん書店だ。
魔導書を扱う闇市の情報は未だ手に入っていなかったが、オーヴェンデの書店――あの癖の強い老婆に魔導書を持ち込んだとされる人物がいたことは確か。そうなればおそらくある程度の規模の街に売りに行くことは確かなため、大きな街を虱潰しに探すのもそう悪くはないだろう。
一応検問をやっている騎士に事情を説明して怪しい人物が入国していないか確かめてもらったのだが、そちらは惜しくも空振りだった。とはいえ、絶対にここには来ていないとは言い難い。
警備体制はきちんとしている筈だが、この規模の街を完全に見まわるのは難しい。街を守る壁はあるが、無理をすれば登れないこともないので、どうにかしてこの街に侵入した可能性はあるのだ。
闇市に関しても聞きたいことがあるので、二人は街の奥にある書店に足を踏み入れた。決めてある手筈通り、まずはアマデウスが本屋の店主に声をかける。
するとその声に反応したのは、20歳前後でブラウンの髪色が似合ったポニーテールの女性で、カウンターの向こうから可憐な笑みを浮かべて対応してくれる。しかしその顔はすぐに何とも言えない表情へと変わってしまった。
「古臭い本……ですか?」
「ああ。たぶんお前さんには読み辛い古代の文字が書いてあるような本なのだが」
「そのような本は……あっ。そういえば先日この店にそんな本を持ってきた方がいらっしゃいましたね」
「本当か!? その本は今どこにあるのだ?」
「ええっと。どこだったかしら。あー……お父様!」
女性は奥の部屋へと引っ込んでお父様とやらを呼びに行ったようだ。店主だと思ったその女性は店主の娘だったのだろう。
しばらくして奥から戻ってきたのはその娘ではなく、40代後半くらいの中年の男性だった。
「娘から聞きましたが、古臭い本をお探しだとのことでしたね。先日持ち込まれたそれらしき本は……何というか……あまり大っぴらにできない内容の本ですよ。そんな本のことよりもウチには昔からある書物もたくさんありますから――」
店主が露骨に話を逸らそうとするので、ディルクが仕方なく割って入る。
「私はゴスリック王国元騎士団長のディルクという者だ。訳あって危険な魔導書を探している。大っぴらにできない内容の本と言うのはそういうことだな?」
「いえ、そういうわけでは……」
言い渋る店主に国の印章を押した書類を出して突きつける。
「魔導書を一時的にでも取り扱ったことは大目に見てやる。だから本当のことを話してもらいたい」
「わたしからもお願いしたい。ゴスリックで起きた大量虐殺事件は知っておるだろう? その事件を起こした犯人の手掛かりなのだ」
すると店主はハッとした表情で何かを察したようだった。
「それならば……仕方がないのか……」
店主はブツブツと独り言のようにそう呟いたが、どうやら覚悟を決めたらしく二人に内情を話し始めた。
「その本は茶色の髪を結った細身の男が持ってきたのです。私は魔術には詳しくありませんが、あれが魔導書であるということぐらいはわかりました。なにせ表紙には真語で《冥界の魔導書》と書かれていましたから」
「やはり――その本は俺たちが追っている魔導書で間違いないな。続けてくれ」
「はい。その男はそれが魔導書だと知ってか知らずか早く手放したいようだったので、適当な金額でそれを買い取りました。魔導書の所持は罪になりますが、それを高額で買い取ってくれる当てがあることを思い出したので、欲に負けてしまったのです」
「して、その本は今はどこにあるのだ?」
「残念ながらここにはもうありません。兄に頼んで買い取ってくれる人に届けてもらうことにしたので、その本は今兄が持っています」
「どこに行けばあなたのお兄さんに会える?」
「それが……今頃は乗船所にいるかと。買い取ってくれる当てというのは大陸を跨いだ先にありまして……」
「なんと! それは急がなくては。船が出てしまったら最悪の事態になりかねん」
「兄はこの街を出て西に行った乗船所からラベール大陸に向かう手筈になっています。追うのならできるだけ急いでください」
「わかった。情報に感謝する」
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