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後日談
8.ある三人の男2
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場面は変わり、いわゆる「魔性の森」から少し離れた、しかし最も近い人間の街。
「一枚、二枚、三枚……フフ……フフフ」
とある薄暗い酒場の片隅で、眼鏡を掛けた聖職者風の男が、手元の小さな金属を弄りながらブツブツと呟いている。
「……あー、旦那の持病だ。また数えてらあ」
「今日は金ですかい、勲章ですかい?」
その異様な姿を認めた大柄な男が二人、残念なものを見る顔で彼に近づいた。
「グレッグ、ゲスラー。随分と遅かったではないですか。お前たちを待つ間に、先日の報酬で頂いた金貨を三回は数え終わりましたよ」
「ああ、金の方だったか」
「あのクソめんどくせえクエストな……あんたが好んで引き受けるお貴族様の依頼は、無茶が多くていけねえや」
それぞれグレッグ、ゲスラーと呼ばれた大男たちは眼鏡の男の小言には答えるでもなく、彼の向かいの席にドカリと座った。
「ブレインの旦那よ。こんなところ堅気の連中に見られたら、せっかくご丁寧に作り上げた聖人君子の仮面が木っ端微塵になりますぜ」
「フン、私がそんなヘマをするものですか……それより、情報収集の方は首尾よくこなしてきたのでしょうね?」
半端な報告は許さないとでも言いたげに、眼鏡の男──ブレインの瞳がギラリと光る。
「もちろんでさあ。あんたの指示どおり、この近辺で最近起きた事件やら何やらは、粗方」
「もっとも、あんたが喜ぶ情報かどうかは俺たちの頭じゃ分かりやせんがね」
「構いません、初めからお前たちに知恵など期待していませんので。さあ、御託はいいから、さっさと成果を提示なさい」
そう言い切ると、急かすようにトントンと指先でテーブルを叩いた。
「また随分と前のめりじゃねえか。あんたらしくもねえ」
「当然でしょう。奴を討伐するほどの実力を示せば、間違いなく各国の有力者の目に留まります。上手く立ち回ればそこから大国のお抱えとなり、貴族に成り上がることも夢ではないのですから」
「へえへえ、相変わらずお盛んなこって。じゃあ本題に入りやすぜ。まずはこの街……というより、森を挟んだ隣街の話になりまさあ。少し前にとある呪術師が一人、変死しているとのことで」
「ほう?」
「その呪術師ですがね。裏通りの金工が言うには、例の屋敷の主人から頻繁に仕事を受けていたようで。どうも役人どもの目を盗んで、奴隷用の呪具を卸していたらしいですぜ」
「例の屋敷……そこもまた主人が変死体で見つかったという話でしたね」
ふむ、と思案げに顎を撫でるブレイン。
「変死の日付とおおよその時刻は? ……なるほど、おそらくほぼ重なるだろうと……となれば、二つの事件が関係している可能性 は十分にあり得ますね。まあ、その呪具絡みで何か揉め事かイレギュラーが起こったと考えるのが順当でしょうが。……死んだ呪術師の実力はいかほどで?」
「ギルドの連中の話では、ゴールド寄りのシルバーランクってとこだそうで。俺たちからすればまあ三下ですが、この周辺ではそれ以上の術師はいないんだと」
「そうですか。……シルバー帯程度の施す術など、例えば、奴には児戯にも等しいだろう……ああいえ、何でもありません。現状判明している最後の行方不明者は、その例の屋敷の使用人でしたね。……我々が唯一遺体の発見に至っていない人物です」
「ああ、ろくな扱いも受けてねえ、地味で無愛想で面白味の欠片もない女だって話だ」
生きて見つかったとしてもこっちの役には立ちそうにねえなあ、と下品に笑い合う手下二人は無視して、ブレインはひとり考え込んだ。
「待てよ、確か……主人の死とほぼ同時期にその女性が消えたあと、主人の愛人から上級使用人、果ては下働きに至るまで、その屋敷の関係者が何人も不審死を遂げていたはずです。死に方は様々で、彼ら同士で争った形跡や何者かに締め上げられた痕跡など、どれもこれも随分悲惨であるという点以外に統一性はありませんが……」
「それも『奴』の仕業だって言いたいんですかい? また何で?」
怪訝そうな二人に何を説明するでもなく、ただブツブツと呟き続ける。
「……ふむ……これまでの調査で、奴がそういった行動を見せた記録は……しかし、もし……だとすれば、非常に都合の良い……」
「おい旦那、返事ぐらい……」
「やめとけよグレッグ。無駄だ、これも持病だぜ」
一切の反応を見せずにひとしきり呟いたあと、ブレインは突然ガタッ! と大きな音をたてて立ち上がった。
「うおっ!」
「びっくりした!」
「お前たち、調査です。行きますよ」
それだけ言って、脇目も振らずスタスタと歩き出すブレイン。
互いに顔を見合せ、諦めたように肩を竦めながら、グレッグとゲスラーは訳もわからずついていくのだった。
「一枚、二枚、三枚……フフ……フフフ」
とある薄暗い酒場の片隅で、眼鏡を掛けた聖職者風の男が、手元の小さな金属を弄りながらブツブツと呟いている。
「……あー、旦那の持病だ。また数えてらあ」
「今日は金ですかい、勲章ですかい?」
その異様な姿を認めた大柄な男が二人、残念なものを見る顔で彼に近づいた。
「グレッグ、ゲスラー。随分と遅かったではないですか。お前たちを待つ間に、先日の報酬で頂いた金貨を三回は数え終わりましたよ」
「ああ、金の方だったか」
「あのクソめんどくせえクエストな……あんたが好んで引き受けるお貴族様の依頼は、無茶が多くていけねえや」
それぞれグレッグ、ゲスラーと呼ばれた大男たちは眼鏡の男の小言には答えるでもなく、彼の向かいの席にドカリと座った。
「ブレインの旦那よ。こんなところ堅気の連中に見られたら、せっかくご丁寧に作り上げた聖人君子の仮面が木っ端微塵になりますぜ」
「フン、私がそんなヘマをするものですか……それより、情報収集の方は首尾よくこなしてきたのでしょうね?」
半端な報告は許さないとでも言いたげに、眼鏡の男──ブレインの瞳がギラリと光る。
「もちろんでさあ。あんたの指示どおり、この近辺で最近起きた事件やら何やらは、粗方」
「もっとも、あんたが喜ぶ情報かどうかは俺たちの頭じゃ分かりやせんがね」
「構いません、初めからお前たちに知恵など期待していませんので。さあ、御託はいいから、さっさと成果を提示なさい」
そう言い切ると、急かすようにトントンと指先でテーブルを叩いた。
「また随分と前のめりじゃねえか。あんたらしくもねえ」
「当然でしょう。奴を討伐するほどの実力を示せば、間違いなく各国の有力者の目に留まります。上手く立ち回ればそこから大国のお抱えとなり、貴族に成り上がることも夢ではないのですから」
「へえへえ、相変わらずお盛んなこって。じゃあ本題に入りやすぜ。まずはこの街……というより、森を挟んだ隣街の話になりまさあ。少し前にとある呪術師が一人、変死しているとのことで」
「ほう?」
「その呪術師ですがね。裏通りの金工が言うには、例の屋敷の主人から頻繁に仕事を受けていたようで。どうも役人どもの目を盗んで、奴隷用の呪具を卸していたらしいですぜ」
「例の屋敷……そこもまた主人が変死体で見つかったという話でしたね」
ふむ、と思案げに顎を撫でるブレイン。
「変死の日付とおおよその時刻は? ……なるほど、おそらくほぼ重なるだろうと……となれば、二つの事件が関係している可能性 は十分にあり得ますね。まあ、その呪具絡みで何か揉め事かイレギュラーが起こったと考えるのが順当でしょうが。……死んだ呪術師の実力はいかほどで?」
「ギルドの連中の話では、ゴールド寄りのシルバーランクってとこだそうで。俺たちからすればまあ三下ですが、この周辺ではそれ以上の術師はいないんだと」
「そうですか。……シルバー帯程度の施す術など、例えば、奴には児戯にも等しいだろう……ああいえ、何でもありません。現状判明している最後の行方不明者は、その例の屋敷の使用人でしたね。……我々が唯一遺体の発見に至っていない人物です」
「ああ、ろくな扱いも受けてねえ、地味で無愛想で面白味の欠片もない女だって話だ」
生きて見つかったとしてもこっちの役には立ちそうにねえなあ、と下品に笑い合う手下二人は無視して、ブレインはひとり考え込んだ。
「待てよ、確か……主人の死とほぼ同時期にその女性が消えたあと、主人の愛人から上級使用人、果ては下働きに至るまで、その屋敷の関係者が何人も不審死を遂げていたはずです。死に方は様々で、彼ら同士で争った形跡や何者かに締め上げられた痕跡など、どれもこれも随分悲惨であるという点以外に統一性はありませんが……」
「それも『奴』の仕業だって言いたいんですかい? また何で?」
怪訝そうな二人に何を説明するでもなく、ただブツブツと呟き続ける。
「……ふむ……これまでの調査で、奴がそういった行動を見せた記録は……しかし、もし……だとすれば、非常に都合の良い……」
「おい旦那、返事ぐらい……」
「やめとけよグレッグ。無駄だ、これも持病だぜ」
一切の反応を見せずにひとしきり呟いたあと、ブレインは突然ガタッ! と大きな音をたてて立ち上がった。
「うおっ!」
「びっくりした!」
「お前たち、調査です。行きますよ」
それだけ言って、脇目も振らずスタスタと歩き出すブレイン。
互いに顔を見合せ、諦めたように肩を竦めながら、グレッグとゲスラーは訳もわからずついていくのだった。
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