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4.エピローグ

第42章 エピローグその①

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 地下水道の救出劇から2日経った。マクシミリアンは健康チェックを行い、目立った外傷はなかったものの、しっかり栄養を取ってしばらく休養する必要があると医師が診断したため、王宮に戻ってもすぐには会えなかった。クラウディアは、マクシミリアンの面会許可が出るといち早く彼の居室まで会いに行った。既にリリーやティム母子は午前中のうちにお見舞いに行ったらしい。リリーは侍女長のことを我がごとのように恥じて謝り、ティムは友達になってもらおうと手作りのプレゼントを持って行ったらしかった。二人ともマクシミリアンは歓待し、すぐに仲良くなったとのことだった。



 マクシミリアンはまだベッドに臥せっていた。ずっと幽閉されていたので、身体が衰弱しているのか。時折うーんと小さくうなる声が聞こえたが、悪夢にでもうなされているのだろうか。



「殿下、お休みですか? それならまた出直しますが?」



 クラウディアが小さな声で囁くと「大丈夫だよ」と声がした。クラウディアが恐る恐る近づくと、マクシミリアンは薄目を開けて「クラウディア、もっとよく顔を見せて」と言った。



「こうですか……きゃあっ!」



 クラウディアが身体を近づけると急にマクシミリアンに腕を掴まれてベッドに押し倒された。



「ちょっ……殿下! 騙しましたわね!」



 いつの間にか体勢が逆転していて、クラウディアがベッドに仰向けになり、マクシミリアンが上から組み敷く形になっていた。クラウディアは顔を真っ赤にして抗議したが、マクシミリアンはどこ吹く風と言った様子だった。



「だってこうでもしなきゃクラウディアがよく見えないもん」



 いつの間にこんなに積極的になったのか。それに力も強くなっている。地下水道で簡単に抱き抱えられた時のことを思い出した。漆黒の瞳にじっと見つめられると吸い寄せられそうになった。普通に育っていれば天然タラシ小悪魔系王子として多くの女性を泣かせていたのでは……



「早くこの手を放してください! 誰かに見られたら困ります」



「見られたっていいよ。だって僕の婚約者だもの」



「まだ婚約したわけじゃありません……!」



「もうしたようなものだよ」



 マクシミリアンは何食わぬ顔でそう言うと、クラウディアを自分の方に引き寄せてひしっと抱きしめた。



「ずっとこうしたかった。もうどこへも行かせない。僕のクラウディア」



 まずい。耳元で囁かれるのは刺激が強すぎる。クラウディアは理性が吹っ飛びそうになるのを必死で抑えた。



「殿下……っ! 分かりましたから放してください!」



「嫌だ。僕のことをマックスって呼んでくれなければ」



「殿下!?」



「マックスって言っただろう。本当は父上の次にクラウディアに呼んで欲しかった。ロジャーに認めたつもりはなかったんだ。なのにあいつが勝手に呼ぶから」



「誰が勝手に呼ぶだって?」



 いつの間にかロジャーが扉を開けて立っていて、二人は慌ててぱっと離れた。



「ノックしても返事がないから入ってみればこの有様だ。人の城で何やってるんだよ」



 ロジャーは呆れたようにため息をついた。



「婚約者と何やろうが勝手だろう?」



「まだ婚約者じゃないって言ったでしょう!」



 口を尖らせながら仏頂面で抗議したマクシミリアンを顔が火照ったままのクラウディアがたしなめた。



「元気になったのならとっとと帰れよ。あ、クラウディアは予定通りの期日まで残ってもらうからな」



「どうして!? 僕と一緒に帰るんだよ! もう絶対離れないから!」



「殿下いつからそんな駄々っ子になりましたの? わたくしはまだ学院でやり残したことがありますの。リリー様のサロンよ! ロジャー殿下が握手会に参加して下さるのよ!」



「何? 握手会なんて聞いてないぞ?」



 ロジャーはびっくりして聞き返した。



「あら、サイン会もあるのを忘れてましたわ。とにかくわたくしがアッシャー帝国にいるうちにお願いしますね」



「え? サイン会も? なんでそんな話になってるんだ? そうだ、マックス。ついでだからお前も出ろよ。俺一人じゃ気後れするし……」



「へえ、ロジャーでも気後れすることあるんだ。いいよ、面白そう」



「ええ!? 殿下も出席なさるんですか?」



 かくして、リリーの初めてのサロンは大盛況となった。アッシャー帝国の皇太子とマール王国の王子が同時に参加したのだ。握手とサイン会の列はどこまでも続いた。中でも一番興奮していたのは、ミーハーとは違うんですという態度を取っていた生徒会長のミア・シェネガンだった。特別サービスとして、他のサロンに属している者や、サロンに入る予定のない者でも希望すれば誰でもOKにした。ロジャーだけでなくマクシミリアンも大層な人気で女子生徒のハートを鷲掴みにした。ワイルドな魅力溢れるロジャーに対して、物静かで知的なマクシミリアンという対比もまた評判になった。



「二人とも素敵だわ。もちろんそれぞれいいのですけど、二人並ぶと……こう……」



「まあ、リリー様もお気づきになられました? お二人とてもお似合いですよねえ……まるで生き別れた兄弟のよう……実際は従兄弟ですが」



「兄弟とも少し違うのよね……魂の片割れというか、その何と言うか……」



 リリーとアリッサは二人でこそこそ話をしてキャーッと盛り上がっている。クラウディアは二人の隣にいたが、ふと「禁断の愛」というフレーズが耳に入ってきて仰天した。



「ちょっと! お二人とも何を考えてますの!? まさか……その……殿方同士の恋愛とかそういうことですか……?」



「考えるだけならタダだからいいじゃない。お兄様には内緒にしてね」



「内緒にするしかないじゃありませんか! 絶対秘密にしなければ!!」



 そんなことを噂されているとも知らず、ロジャーとマクシミリアンはファンサービスに明け暮れていた。



「なあ、そろそろ手が痛くなって来たんだが少し休んでもいいか?」



「僕はもう少し平気だよ。案外ヘタレなんだね、ロジャーって」



「誰がヘタレだと!? お前だけには言われたくないその言葉!!」



 二人がやりあう姿を見て女子たちからキャーと黄色い声援が飛んできた。こりゃ駄目だ。クラウディアは天を仰いでため息をついた。



 リリーはアリッサやミアだけでなく、多数のサロンメンバーを得ることができた。握手会について誰でも分け隔てなく門戸を開いたことが好材料になったようだ。これを機にリリーの人となりが広く知られ、積極性や派手さはなくても誠実で温かな人柄が広く知られることとなった。リリーも今回のことで自分に自信が付いたようだった。別にロジャーを利用しなくてもリリーの采配でサロンは回る。そんな予感がした。



「わたくしはこれからのことを見届けられないけど、どうか頑張ってくださいね」



「ええ。サロンだけでなく学院改革も推し進めます。これもクラウディアが来てくれたお陰だわ。ありがとう」



 リリーとクラウディアは固く握手を交わした。

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