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第9話 カゲロウの押しかけ女房
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「ふーっ、やっといなくなったか。一時はどうなるかと思ったぜ。影郎のやつ無責任だな。逃げ足だけは早いでやんの」
「ちょっと、バクさん! あなたどこに隠れていたの! ずっといない振りしてたでしょ!」
すっかり存在感を消していたバクさんが、今になって業務用冷蔵庫の影からひょっこり姿を現した。客がいないのをいいことに、人型を解いて獏の姿に戻っている。
「あんな手強いのが来たら人型も保てないって。影郎くらいしか太刀打ちできない。でもあいつすら逃げるとは。俺たちが相手すると変に刺激するかもしれないから、お前に対応してもらった。悪いことをしたな」
「あやつはいなくなったか? ふう、よかったよかった」
こっちは少女の姿のままだが、店の奥にある居間から出て来た。どうやらちゃぶ台の下に隠れていたらしい。
「二人とも! 正体も教えないまま私を矢面に立たせるなんてひどい! 一番ひどいのはこっそり逃げたカゲロウだけど! さっきの人は何者なの? っていうか、人間じゃないでしょ!」
「そうだ。あやかしと言うのも間違ってないが、どちらかと言うと、影郎と同じく神の部類に近い。オラたちもよく知らんがのう、影郎ならば詳しいんじゃが」
「神様みたいなもんだから力も強いんだ。俺たち普通のあやかしとは違う。だからこんなちっちゃな店の中でキレられたらすぐに建物が崩壊してしまう。最後の方なんか、術を隠すのも忘れてそのまま姿を消したくらいだから危ないところだった。相当頭に来てるんだろう」
「名前は何て言うの? 名前くらいあるんでしょ?」
「あやつの名を口にするのもためらわれるが……おとは、と言う。本当の名は誰も知らんがの」
おとは……気性が荒い割りにはかわいらしい名前じゃないの。そのおとはがカゲロウとどんな因縁があるのだろう。ポン太とバクさんは、言いにくそうにしながらも、ぽつぽつと説明してくれた。
「おとははのう、昔影郎の妻じゃった」
「妻? 奥さん? 夫婦だったってこと? 今は離婚したの?」
「あやかしの世界にも離婚という制度があるのか知らんがの、今は離れてる。だが、おとはは影郎にまだ未練があるんじゃろ。仲睦まじかった頃は『せくしー』とか言われてたんじゃろが、見ての通り嫉妬深いからの、千代ちゃんもあらぬ疑いかけられておったわ」
「でも、千代ちゃんはあの通りおおらかな性格だろう? さすがのおとはも毒気を抜かれてしばらくは落ち着いていた。でもましろは若いおなごだからな……もしかしたら変な疑いをかけられたかも?」
「え? おとはさんが私に嫉妬するってこと? ないない。こっちはカゲロウのこと貧乏神呼ばわりしてるんだからそれだけはないわよ」
「それでもあちらさんはどう思うかの……『セクシー』な旦那に若いおなごがくっついていたら気が気じゃなかろうな……ああ、またやって来そうな気がする」
「こら、ポン太! 縁起でもないことを言うな!」
ぶるっと震えるポン太をバクさんがたしなめる。そんなやり取りをしていると、店の入り口からカゲロウが姿を現わした。片手を着物の袖に入れながら、もう片方の手で頭をポリポリ搔き、下駄の音をカランコロンと響かせる。こちらが呆れ返るほどのんきな登場だ。
「やあ、みんなすまなかったな。おとはがここを見つけるとは思わなんだ。わしも油断していたらしい。よく見たら結界に綻びがあった。直しておいたからもう大丈夫じゃ」
「こらーっ! カゲロウ! おぬしどこ行っとったんじゃ! ましろが大変な目にあったんじゃぞ!」
「そうだそうだ! 俺たちも生きた心地がしなかったし、元はと言えばお前が蒔いた種だろ、それなのにいの一番に逃げるとは」
「だからすまんと言っとるじゃろう。急に奴の気配を感じたもので、こっちも逃げることしか考えられなくてのう。ただ、ああ見えて破れかぶれなことはせん奴だから、何とかなると思った」
「それなら最初から逃げるなー!」
私は黙って彼らのやり取りを聞いていたが、どうしても気になることをカゲロウに聞いてみた。
「ねえ、さっきのおとはさんはあなたの奥さんと聞いたけど、どうして別れちゃったの?」
「お? ましろ、お前妬いてるのか?」
「ば、ばかっ! 違うわよ! ただ、あなたと夫婦だったというのが想像できないし、あやかしでも離婚とかあるんだなあ……って」
「なあに、よくある価値観の不一致というやつじゃよ。人間もよくこの表現使うじゃろ? 見ての通り嫉妬深くての、あれでは千年の恋も冷めると言うものだわ」
いつもの飄々とした態度でそう述べるカゲロウの横顔を、私は複雑な思いで見つめた。
「でも向こうはまだあなたのこと好いているんでしょう? もう少し話し合ってみれば?」
「おーい、どれだけ時間があったと思っとるんじゃ? お前が生まれるより遥か昔の話じゃぞ。話し合いもたくさんしたし、派手な喧嘩もやった。それこそ小さな山が一つ吹っ飛ぶくらいのやつを。それでもうまくいかなかったんだからもう終わりじゃよ」
「でも、あなただってセクシーと言われてまんざらでもなかったんでしょ? 顔がにやついていたわよ」
「こらっ! わしをからかうものではないぞ? とにかくあやつの話は終わりにしてくれ。気配を嗅ぎつかれたらたまったものではない」
カゲロウはそれだけ言うと、こちらに背を向けた状態で居間の畳の上にごろんと寝転がってしまった。私は何となくモヤモヤした気持ちを抱えたまま、肩をすくめるしかなかった。
**********
それから数日後、私は材料の仕入れをするために外出していた。仕入れ元はおばあちゃんの頃から懇意にしていた店を使うことにしている。これより安い店を見つけてそちらに変えようとしたら、「はした金を惜しんでそれまでの縁を切ると、いざという時融通してもらえなくなる」と皆から助言されたのだ。
最初聞いた時はそんなもんかなーとしか思わなかったけど、いざ店を切り盛りすると、しばしば不測の事態に遭遇するようになった。その時、彼らの発言の真意を思い知った。代々お世話になっているよしみだからと、こちらの急な変更や、時にはわがままな依頼も聞いてくれる。今では、縁を切らなくてよかったと私も実感している。
用件を終えた私は、運転していた車を店の裏側に停めた。そこから降りた時、ふと道路の向こう側を見やると、先日店に押しかけたおとはさんが、足を大きく開きながら縁石に腰かけてたばこをふかしていた。
人通りの少ない裏道とは言え、その姿はあまりにも異様だったため、私は慌てて彼女の元へ駆け寄った。化粧もばっちりで、できる女オーラを出している人が縁石に座って喫煙なんてどこのヤンキーなんだ。やはり、こういうところ普通じゃない。
「ちょっと、こんな場所で煙草なんて吸ってたら変な人扱いされちゃいますよ!」
「あら、あなた、千代さんのお孫さんじゃない。私なんか構ってる暇あったら、影郎にさっさと結界を解けって言ってちょうだい」
「そんなこと言っても無駄ですよ。あっちは全然その気ないですから。おとはさん、でしたっけ? どうしてここまで仲がこじれてしまったんですか?」
すると、おとはさんはむっとした顔になった。
「私に質問するなって言ってるでしょ? 生意気な人間ね」
「でも、おばあちゃんとは仲が良かったって聞いてましたよ。それなら孫の私とも話してくれたっていいじゃないですか?」
「あなた言うわね。そう言うところも千代さんにそっくり。そっかー。千代さん亡くなったんだー。あの人が生きてれば、まあ違ったのかもしれないわね」
おとはさんは、空を仰ぎながらそう言うと、煙草を踏みつけてぽつりぽつりと話し始めた。
「人間なんて大体どいつもこいつもクソだけどね、千代さんだけは例外だった。包容力があってね、私の愚痴も辛抱強く聞いてくれた。影郎との仲介もしてくれたわ」
確かにおばあちゃんはそういう人だ。誰にでも分け隔てなくおおらかな態度だった。それを思い出して、私の胸はチクリと痛んだ。
「なのに、影郎の奴ってば、千代さんがいなくなった途端、元のすげない態度に戻って許せない! 昔は私にも会ってくれたのに、結局千代さんの顔を立てるだけだったのね。薄情な奴!」
「そんな薄情な奴なのに、どうして未練があるんですか?」
「そりゃ夫婦だからよ。人間と違って、私らは婚姻制度なんてないの。一度夫婦の契りを結んだらずっと続くものなのよ。それなのに、あいつはのらりくらりと逃げてばかりで」
「お二人に何があったか詳しくは知りませんが、おばあちゃんみたいにはいかないかもだけど、私でよければ仲介しましょうか? カゲロウにも、もっと話し合えばいいのにとは言ったんですが、もう終わったからいいみたいに言われてしまって……」
「あなた、協力してくれるの? さすが千代さんのお孫さんね! ごめんなさいね、二人の仲を疑って」
おとはさんは、さっきまでやさぐれていたのが嘘のように、顔をぱっと輝かせ、私の両手をぎゅっと握った。
「協力も何も、私が若いからって疑ってません? 私、カゲロウみたいのはタイプじゃないんで大丈夫です。バクさんみたいなビジュアルが好みなんです」
「ええ!? あなた獏が好きだったの? なかなか変わってるわね?」
「もちろん人型に決まってるじゃないですか! 獏そのものじゃありませんよ!」
思わず私が顔を真っ赤にして言うと、おとはさんは大きな口を開けて快活に笑った。何だ、笑うと普通にきれいじゃん。初めて見たのが怒った顔だったので、私は思わず見とれてしまった。
「影郎も頭が固いから期待はしてないけど、とりあえずありがとう。気持ちだけでも嬉しいわ。じゃあ、また何かあったらこの辺ウロウロしているから声かけてちょうだい。結界があるからこれ以上近づけないのよ」
おとはさんはそう言ってから、思い出したように付け加えた。
「ごめんなさい、そういやあなたの名前聞いてなかった。教えてくれる?」
「ましろと言います。都築ましろ」
「ましろ……聞いたことあるような気がする。よろしくね、ましろ」
そう言って、おとはさんはハイヒールをコツコツ言わせながら、裏道の角を曲がっていなくなった。
「ちょっと、バクさん! あなたどこに隠れていたの! ずっといない振りしてたでしょ!」
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「あんな手強いのが来たら人型も保てないって。影郎くらいしか太刀打ちできない。でもあいつすら逃げるとは。俺たちが相手すると変に刺激するかもしれないから、お前に対応してもらった。悪いことをしたな」
「あやつはいなくなったか? ふう、よかったよかった」
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「そうだ。あやかしと言うのも間違ってないが、どちらかと言うと、影郎と同じく神の部類に近い。オラたちもよく知らんがのう、影郎ならば詳しいんじゃが」
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「名前は何て言うの? 名前くらいあるんでしょ?」
「あやつの名を口にするのもためらわれるが……おとは、と言う。本当の名は誰も知らんがの」
おとは……気性が荒い割りにはかわいらしい名前じゃないの。そのおとはがカゲロウとどんな因縁があるのだろう。ポン太とバクさんは、言いにくそうにしながらも、ぽつぽつと説明してくれた。
「おとははのう、昔影郎の妻じゃった」
「妻? 奥さん? 夫婦だったってこと? 今は離婚したの?」
「あやかしの世界にも離婚という制度があるのか知らんがの、今は離れてる。だが、おとはは影郎にまだ未練があるんじゃろ。仲睦まじかった頃は『せくしー』とか言われてたんじゃろが、見ての通り嫉妬深いからの、千代ちゃんもあらぬ疑いかけられておったわ」
「でも、千代ちゃんはあの通りおおらかな性格だろう? さすがのおとはも毒気を抜かれてしばらくは落ち着いていた。でもましろは若いおなごだからな……もしかしたら変な疑いをかけられたかも?」
「え? おとはさんが私に嫉妬するってこと? ないない。こっちはカゲロウのこと貧乏神呼ばわりしてるんだからそれだけはないわよ」
「それでもあちらさんはどう思うかの……『セクシー』な旦那に若いおなごがくっついていたら気が気じゃなかろうな……ああ、またやって来そうな気がする」
「こら、ポン太! 縁起でもないことを言うな!」
ぶるっと震えるポン太をバクさんがたしなめる。そんなやり取りをしていると、店の入り口からカゲロウが姿を現わした。片手を着物の袖に入れながら、もう片方の手で頭をポリポリ搔き、下駄の音をカランコロンと響かせる。こちらが呆れ返るほどのんきな登場だ。
「やあ、みんなすまなかったな。おとはがここを見つけるとは思わなんだ。わしも油断していたらしい。よく見たら結界に綻びがあった。直しておいたからもう大丈夫じゃ」
「こらーっ! カゲロウ! おぬしどこ行っとったんじゃ! ましろが大変な目にあったんじゃぞ!」
「そうだそうだ! 俺たちも生きた心地がしなかったし、元はと言えばお前が蒔いた種だろ、それなのにいの一番に逃げるとは」
「だからすまんと言っとるじゃろう。急に奴の気配を感じたもので、こっちも逃げることしか考えられなくてのう。ただ、ああ見えて破れかぶれなことはせん奴だから、何とかなると思った」
「それなら最初から逃げるなー!」
私は黙って彼らのやり取りを聞いていたが、どうしても気になることをカゲロウに聞いてみた。
「ねえ、さっきのおとはさんはあなたの奥さんと聞いたけど、どうして別れちゃったの?」
「お? ましろ、お前妬いてるのか?」
「ば、ばかっ! 違うわよ! ただ、あなたと夫婦だったというのが想像できないし、あやかしでも離婚とかあるんだなあ……って」
「なあに、よくある価値観の不一致というやつじゃよ。人間もよくこの表現使うじゃろ? 見ての通り嫉妬深くての、あれでは千年の恋も冷めると言うものだわ」
いつもの飄々とした態度でそう述べるカゲロウの横顔を、私は複雑な思いで見つめた。
「でも向こうはまだあなたのこと好いているんでしょう? もう少し話し合ってみれば?」
「おーい、どれだけ時間があったと思っとるんじゃ? お前が生まれるより遥か昔の話じゃぞ。話し合いもたくさんしたし、派手な喧嘩もやった。それこそ小さな山が一つ吹っ飛ぶくらいのやつを。それでもうまくいかなかったんだからもう終わりじゃよ」
「でも、あなただってセクシーと言われてまんざらでもなかったんでしょ? 顔がにやついていたわよ」
「こらっ! わしをからかうものではないぞ? とにかくあやつの話は終わりにしてくれ。気配を嗅ぎつかれたらたまったものではない」
カゲロウはそれだけ言うと、こちらに背を向けた状態で居間の畳の上にごろんと寝転がってしまった。私は何となくモヤモヤした気持ちを抱えたまま、肩をすくめるしかなかった。
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それから数日後、私は材料の仕入れをするために外出していた。仕入れ元はおばあちゃんの頃から懇意にしていた店を使うことにしている。これより安い店を見つけてそちらに変えようとしたら、「はした金を惜しんでそれまでの縁を切ると、いざという時融通してもらえなくなる」と皆から助言されたのだ。
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「あら、あなた、千代さんのお孫さんじゃない。私なんか構ってる暇あったら、影郎にさっさと結界を解けって言ってちょうだい」
「そんなこと言っても無駄ですよ。あっちは全然その気ないですから。おとはさん、でしたっけ? どうしてここまで仲がこじれてしまったんですか?」
すると、おとはさんはむっとした顔になった。
「私に質問するなって言ってるでしょ? 生意気な人間ね」
「でも、おばあちゃんとは仲が良かったって聞いてましたよ。それなら孫の私とも話してくれたっていいじゃないですか?」
「あなた言うわね。そう言うところも千代さんにそっくり。そっかー。千代さん亡くなったんだー。あの人が生きてれば、まあ違ったのかもしれないわね」
おとはさんは、空を仰ぎながらそう言うと、煙草を踏みつけてぽつりぽつりと話し始めた。
「人間なんて大体どいつもこいつもクソだけどね、千代さんだけは例外だった。包容力があってね、私の愚痴も辛抱強く聞いてくれた。影郎との仲介もしてくれたわ」
確かにおばあちゃんはそういう人だ。誰にでも分け隔てなくおおらかな態度だった。それを思い出して、私の胸はチクリと痛んだ。
「なのに、影郎の奴ってば、千代さんがいなくなった途端、元のすげない態度に戻って許せない! 昔は私にも会ってくれたのに、結局千代さんの顔を立てるだけだったのね。薄情な奴!」
「そんな薄情な奴なのに、どうして未練があるんですか?」
「そりゃ夫婦だからよ。人間と違って、私らは婚姻制度なんてないの。一度夫婦の契りを結んだらずっと続くものなのよ。それなのに、あいつはのらりくらりと逃げてばかりで」
「お二人に何があったか詳しくは知りませんが、おばあちゃんみたいにはいかないかもだけど、私でよければ仲介しましょうか? カゲロウにも、もっと話し合えばいいのにとは言ったんですが、もう終わったからいいみたいに言われてしまって……」
「あなた、協力してくれるの? さすが千代さんのお孫さんね! ごめんなさいね、二人の仲を疑って」
おとはさんは、さっきまでやさぐれていたのが嘘のように、顔をぱっと輝かせ、私の両手をぎゅっと握った。
「協力も何も、私が若いからって疑ってません? 私、カゲロウみたいのはタイプじゃないんで大丈夫です。バクさんみたいなビジュアルが好みなんです」
「ええ!? あなた獏が好きだったの? なかなか変わってるわね?」
「もちろん人型に決まってるじゃないですか! 獏そのものじゃありませんよ!」
思わず私が顔を真っ赤にして言うと、おとはさんは大きな口を開けて快活に笑った。何だ、笑うと普通にきれいじゃん。初めて見たのが怒った顔だったので、私は思わず見とれてしまった。
「影郎も頭が固いから期待はしてないけど、とりあえずありがとう。気持ちだけでも嬉しいわ。じゃあ、また何かあったらこの辺ウロウロしているから声かけてちょうだい。結界があるからこれ以上近づけないのよ」
おとはさんはそう言ってから、思い出したように付け加えた。
「ごめんなさい、そういやあなたの名前聞いてなかった。教えてくれる?」
「ましろと言います。都築ましろ」
「ましろ……聞いたことあるような気がする。よろしくね、ましろ」
そう言って、おとはさんはハイヒールをコツコツ言わせながら、裏道の角を曲がっていなくなった。
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