24 / 63
(元)人妻姫菜さん26歳。初デートです。
初夏の風が心地よい時季ですわ
しおりを挟む
雲城院姫菜さんからの手紙が届いたのは、リュウが伝言メッセージを吹き込んでから約2日後のことであった。
リュウの住む下宿風アパートは、建物の出入り口のすぐ横の外壁に、各号室のポストがずらっと取り付けてある。リュウが帰宅し、玄関から建物に入る前に自室のポストを開くと、女子からのプライベートな信書であることが明らかな一通の封書が入っていたのであった。
メッセージを入れてからまだ2日である。メッセージを聞いて気に入ってくれ、すぐに手紙を書いて投函してくれたことが窺える。開封する前から、リュウは嬉しく思った。
リュウが使う伝言ダイヤルの広告は、主に女性向けの雑誌に出稿されている。それらの雑誌は、オシャレなものや意識高い系のものではない。
リュウの書店でのリサーチによると、いわゆる「レディースコミック」要するにOL向けのエロいコミック誌、かなりハッキリ性をテーマにしている女性向けのエッチな月刊誌、ティーン向けの一般誌(ただし性知識に関する記事や投稿がかなり多いもの)、などが多いようであった。
広告のコピーも、「カッコよくてちょっぴりエッチな男性がいっぱい!」とか「タイプの男の子が必ず見つかるヨ!」といったものであった。
そして、首都圏近郊の各都道府県別・男女別の電話番号がリストされているのである。女性向けの番号はフリーダイヤル、男性向けの番号は有料のQ2ダイヤルなのであった。
姫菜さんからの手紙は、だいたい以下のような内容であった。リュウには、上記事実とのギャップが意外だ。
「拝啓 リュウ様。
初夏の風が心地よい時季となってまいりました。
リュウ様におかれましては、如何お過ごしでしょうか。
さて、突然ではございますが、
私は雲城院姫菜と申します。
お手紙さしあげる失礼をお許しください。
先日、梅雨の間の晴れ間の青空のような、
リュウ様の爽やかなメッセージを拝聴し、
思わずペンを取ってしまいました。
乙女座の26歳です。
趣味は音楽と読書です。
現在は実家で両親と暮らしております。
ここ数年は、
絵を描いたり、読書をしたり、
合間に家事手伝いなどをして、
毎日を何事もなく過ごしております。
お洗濯物を畳むのが綺麗であるとか、
アイロン掛けが上手であるとか、
母はよく褒めてくれるのですよ。
ふふ、自慢をしてしまいましたね。失礼いたしました。
このような毎日ですので、
学生時代の友人達とのたまのランチなどを除きますと、
両親以外とあまりお話をする機会もございません。
リュウ様より少し年上になってしまいますが、
もしお嫌でなければ、ペンパルになりまして、
私と楽しくお手紙の交換などいたしませんか?
私の写真を同封いたしますね。
成人式の日に、自宅の前で父に撮ってもらった写真です。
最近の写真でなくてお許しくださいませ。
それでは、お返事をいただけましたら幸甚です。
いそぎませんので、お時間のある時にでも書いていただけましたら。
でも楽しみにお待ちしておりますね。
かしこ。
雲城院姫菜」
「ペンパル」…もはや死語である。
手紙を読み終えるとリュウは、上品で落ち着いた色・柄の便箋を、窓からの光にかざすして透かすように、しげしげと眺めた。間違いなく若い女性のものと一目でわかるが、実に達筆である。
「まぁでも、言っちゃ悪いけど、低俗な雑誌の、エロ記事の隣りに掲載してあるような広告を見て、」
「それで伝言メッセージ聞いて、俺のこと気に入って、手紙書いてきてるんだよなぁ…」
「女子ってわからないなぁ…。」
リュウはしみじみとそう思った。
伝言ダイヤルを実際に使ってみていろんな女子と会ってみると、遊んでいるようなタイプの娘は、全然いない。真面目で大人しい、地味な女子が多いのであった。その中には、本当とも思えないが、処女を自称する女子も多かった。
リュウは同封されていた写真を眺めた。振袖を着て、にっこりと佇んでいる。髪も着付けもバッチリきまっていて、かなり可愛いのではなかろうか。
「バックに写っているのが自宅か…。」
自宅はかなり大きそうに見える。住所からすると、都内ではなく、かつ郊外であり、そのあたりでは特別広いというわけではないのかもしれないが、パッと見える範囲内だけでも、敷地内に車が何台も止められそうだ。
「両親から大事にされている、箱入り娘のお嬢様なのかな?」
リュウは丁寧に、よしっ、と心をこめて返事を書き始めた。
リュウの住む下宿風アパートは、建物の出入り口のすぐ横の外壁に、各号室のポストがずらっと取り付けてある。リュウが帰宅し、玄関から建物に入る前に自室のポストを開くと、女子からのプライベートな信書であることが明らかな一通の封書が入っていたのであった。
メッセージを入れてからまだ2日である。メッセージを聞いて気に入ってくれ、すぐに手紙を書いて投函してくれたことが窺える。開封する前から、リュウは嬉しく思った。
リュウが使う伝言ダイヤルの広告は、主に女性向けの雑誌に出稿されている。それらの雑誌は、オシャレなものや意識高い系のものではない。
リュウの書店でのリサーチによると、いわゆる「レディースコミック」要するにOL向けのエロいコミック誌、かなりハッキリ性をテーマにしている女性向けのエッチな月刊誌、ティーン向けの一般誌(ただし性知識に関する記事や投稿がかなり多いもの)、などが多いようであった。
広告のコピーも、「カッコよくてちょっぴりエッチな男性がいっぱい!」とか「タイプの男の子が必ず見つかるヨ!」といったものであった。
そして、首都圏近郊の各都道府県別・男女別の電話番号がリストされているのである。女性向けの番号はフリーダイヤル、男性向けの番号は有料のQ2ダイヤルなのであった。
姫菜さんからの手紙は、だいたい以下のような内容であった。リュウには、上記事実とのギャップが意外だ。
「拝啓 リュウ様。
初夏の風が心地よい時季となってまいりました。
リュウ様におかれましては、如何お過ごしでしょうか。
さて、突然ではございますが、
私は雲城院姫菜と申します。
お手紙さしあげる失礼をお許しください。
先日、梅雨の間の晴れ間の青空のような、
リュウ様の爽やかなメッセージを拝聴し、
思わずペンを取ってしまいました。
乙女座の26歳です。
趣味は音楽と読書です。
現在は実家で両親と暮らしております。
ここ数年は、
絵を描いたり、読書をしたり、
合間に家事手伝いなどをして、
毎日を何事もなく過ごしております。
お洗濯物を畳むのが綺麗であるとか、
アイロン掛けが上手であるとか、
母はよく褒めてくれるのですよ。
ふふ、自慢をしてしまいましたね。失礼いたしました。
このような毎日ですので、
学生時代の友人達とのたまのランチなどを除きますと、
両親以外とあまりお話をする機会もございません。
リュウ様より少し年上になってしまいますが、
もしお嫌でなければ、ペンパルになりまして、
私と楽しくお手紙の交換などいたしませんか?
私の写真を同封いたしますね。
成人式の日に、自宅の前で父に撮ってもらった写真です。
最近の写真でなくてお許しくださいませ。
それでは、お返事をいただけましたら幸甚です。
いそぎませんので、お時間のある時にでも書いていただけましたら。
でも楽しみにお待ちしておりますね。
かしこ。
雲城院姫菜」
「ペンパル」…もはや死語である。
手紙を読み終えるとリュウは、上品で落ち着いた色・柄の便箋を、窓からの光にかざすして透かすように、しげしげと眺めた。間違いなく若い女性のものと一目でわかるが、実に達筆である。
「まぁでも、言っちゃ悪いけど、低俗な雑誌の、エロ記事の隣りに掲載してあるような広告を見て、」
「それで伝言メッセージ聞いて、俺のこと気に入って、手紙書いてきてるんだよなぁ…」
「女子ってわからないなぁ…。」
リュウはしみじみとそう思った。
伝言ダイヤルを実際に使ってみていろんな女子と会ってみると、遊んでいるようなタイプの娘は、全然いない。真面目で大人しい、地味な女子が多いのであった。その中には、本当とも思えないが、処女を自称する女子も多かった。
リュウは同封されていた写真を眺めた。振袖を着て、にっこりと佇んでいる。髪も着付けもバッチリきまっていて、かなり可愛いのではなかろうか。
「バックに写っているのが自宅か…。」
自宅はかなり大きそうに見える。住所からすると、都内ではなく、かつ郊外であり、そのあたりでは特別広いというわけではないのかもしれないが、パッと見える範囲内だけでも、敷地内に車が何台も止められそうだ。
「両親から大事にされている、箱入り娘のお嬢様なのかな?」
リュウは丁寧に、よしっ、と心をこめて返事を書き始めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる