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11話 どこまでも加速する鼓動
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リンツが倒れたと聞き、ローザと一緒に彼のもとへと走る。その時、私は密かに、これは天からの贈り物なのではないかと感じていた。もっとも、不謹慎だからあまり大きな声では言えないのだけれど。
「まもなく到着します」
「はいっ」
きっとこれはチャンスなのだ。リンツと顔を合わせるきっかけを、天がくれたに違いない。
「着きました」
一枚の扉の前でローザが立ち止まった。
この質素な扉の向こう側にリンツが——そう思うと、なぜか妙に鼓動が速まる。
もしかしたら、私は、自分が考えている以上に緊張しているのかもしれない。そんなことを少し思った。
ローザは扉を軽くノックしてから、ノブを捻り、ゆっくりと押す。どうやら鍵はかかっていなかったらしく、扉は意外とすんなり開いた。
「お入り下さい、キャシィ様」
「ありがとうございます」
私はローザに会釈し、部屋の中へ入る。その瞬間の拍動といったら、激しい運動をした後と同じくらい。
恐る恐る足を進め、入室。
そして、やや俯き加減にしていた頭を、ほんの少し持ち上げる。
「やぁ! 来てくれたのだね!」
頭を持ち上げた瞬間、飛んでたのはリンツの声。
驚きつつ声が聞こえた方へ目をやると、簡易ベッドの上に横たわっているリンツの姿が視界に入った。
「やっとちゃんと会えたね、キャシィさん!」
簡易ベッドに横になり、ベージュの薄手の毛布を被っているリンツは、明るい声色でそんなことを言う。
「え……あの……」
「僕に会うために来てくれたのだろう? 優しい妻で最高だよ」
ちょ、どうなっているの?
待って。まったくわけが分からないのだけど。
「倒れたと聞いたから来たのですが……もしかして嘘だったのですか?」
「嘘? まっさか! 確かに僕は年老いて枯れ気味だがね、そんな卑怯なことをするほど落ちてはいないよ」
「では、倒れたという話は本当なのですね?」
するとリンツは、簡易ベッドに横になったまま胸を張った。
——いや、体勢的には胸を張ったという表現は相応しくないのかもしれないが。
「もちろんだとも!」
自慢げに述べるリンツの顔は、やや赤みを帯びている。
「胸が痛くなったとか、めまいがしたとか、そういった症状ですか?」
私が問うと、彼はにっこり笑った。
「心配してくれてありがとう。けど、大丈夫だよ」
「そうなんですか」
「ただの風邪だったみたいだからね!」
おぉ……風邪……。
拍子抜け感は否めないが、生命に関わるような大事でなくて安心した。
「けど、風邪のおかげでキャシィさんに会えたんだ。この風邪は、僕の命の恩人だよ! いや、もう、本当に。感謝しかないね!」
風邪に対して「命の恩人」は、少し違うのではないだろうか。表現として、若干ずれている気がする。が、彼が言おうとしていることは察せるので、突っ込むことはしないでおいた。
「あっ!」
「……はい?」
「だ、だが、大きな問題に気づいてしまった……!」
どうしたのだろう、唐突に。
「風邪をひいたままでは、キャシィさんに近づけない!」
はぁ。
なぜいちいち、これほどにテンションが高いのか。
「うぅ。盲点だった……」
「いえ、べつに、風邪だから近づけないということはないと思いますけど」
私は一応言っておいた。
事実、相手が病人だから近寄れないなんてことはないのだから、言っておいても問題はないだろう。
「取り敢えず、風邪は早めに治して下さいね」
「おぉ! 優しい妻だね、君は!」
「……そういうのは要りません。それより、風邪の時は大人しくしておいた方がいいと思いますよ」
「まもなく到着します」
「はいっ」
きっとこれはチャンスなのだ。リンツと顔を合わせるきっかけを、天がくれたに違いない。
「着きました」
一枚の扉の前でローザが立ち止まった。
この質素な扉の向こう側にリンツが——そう思うと、なぜか妙に鼓動が速まる。
もしかしたら、私は、自分が考えている以上に緊張しているのかもしれない。そんなことを少し思った。
ローザは扉を軽くノックしてから、ノブを捻り、ゆっくりと押す。どうやら鍵はかかっていなかったらしく、扉は意外とすんなり開いた。
「お入り下さい、キャシィ様」
「ありがとうございます」
私はローザに会釈し、部屋の中へ入る。その瞬間の拍動といったら、激しい運動をした後と同じくらい。
恐る恐る足を進め、入室。
そして、やや俯き加減にしていた頭を、ほんの少し持ち上げる。
「やぁ! 来てくれたのだね!」
頭を持ち上げた瞬間、飛んでたのはリンツの声。
驚きつつ声が聞こえた方へ目をやると、簡易ベッドの上に横たわっているリンツの姿が視界に入った。
「やっとちゃんと会えたね、キャシィさん!」
簡易ベッドに横になり、ベージュの薄手の毛布を被っているリンツは、明るい声色でそんなことを言う。
「え……あの……」
「僕に会うために来てくれたのだろう? 優しい妻で最高だよ」
ちょ、どうなっているの?
待って。まったくわけが分からないのだけど。
「倒れたと聞いたから来たのですが……もしかして嘘だったのですか?」
「嘘? まっさか! 確かに僕は年老いて枯れ気味だがね、そんな卑怯なことをするほど落ちてはいないよ」
「では、倒れたという話は本当なのですね?」
するとリンツは、簡易ベッドに横になったまま胸を張った。
——いや、体勢的には胸を張ったという表現は相応しくないのかもしれないが。
「もちろんだとも!」
自慢げに述べるリンツの顔は、やや赤みを帯びている。
「胸が痛くなったとか、めまいがしたとか、そういった症状ですか?」
私が問うと、彼はにっこり笑った。
「心配してくれてありがとう。けど、大丈夫だよ」
「そうなんですか」
「ただの風邪だったみたいだからね!」
おぉ……風邪……。
拍子抜け感は否めないが、生命に関わるような大事でなくて安心した。
「けど、風邪のおかげでキャシィさんに会えたんだ。この風邪は、僕の命の恩人だよ! いや、もう、本当に。感謝しかないね!」
風邪に対して「命の恩人」は、少し違うのではないだろうか。表現として、若干ずれている気がする。が、彼が言おうとしていることは察せるので、突っ込むことはしないでおいた。
「あっ!」
「……はい?」
「だ、だが、大きな問題に気づいてしまった……!」
どうしたのだろう、唐突に。
「風邪をひいたままでは、キャシィさんに近づけない!」
はぁ。
なぜいちいち、これほどにテンションが高いのか。
「うぅ。盲点だった……」
「いえ、べつに、風邪だから近づけないということはないと思いますけど」
私は一応言っておいた。
事実、相手が病人だから近寄れないなんてことはないのだから、言っておいても問題はないだろう。
「取り敢えず、風邪は早めに治して下さいね」
「おぉ! 優しい妻だね、君は!」
「……そういうのは要りません。それより、風邪の時は大人しくしておいた方がいいと思いますよ」
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