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23話 自由という翼を手にして
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今私は自由だ。
自由という名の翼を得て、どこへでも行ける。
楽しいこと望むことを、躊躇うことなくできる。それがどれだけ命を輝かせてくれるのか、身をもって体験している。
何にも縛られない。
それは、私にとっては不思議なことで。
けれども、嫌だとは思わなかった。
人は変わることを恐れると、人は変化に反発すると言うけれど——今は逆。
これは、嬉しい変化だ。
その後もいくつかの乗り物に乗った、私とリンツ。
夕方が近づき、園内のベンチで再び休憩。
「はぁー! 乗れた乗れた!」
リンツはベンチに腰掛け、体の力を抜く。
だらりと座っているリンツが王子だとは、とても思えない。道行く人たちだって、誰一人として、彼が王子だなんて気づいていないだろう。
見た感じ、完全にただのおじさんだ。
「リンツさんは、いつもお一人でこういう活動を?」
「ん? もちろん。そうだとも」
「結構ハードですね」
二人でだから楽しいが、これをすべて一人でこなすとなると、少々しんどそうな気がするのだが。
「そうかね?」
「はい。結構……疲れました」
……あっ。
しまった、うっかり本心が。
一人密かに焦っていた時、リンツは突如立ち上がり、目を大きく開きながら言ってきた。
「なっ! キャシィさんはもう疲れたのかね!?」
何も、そんなに驚かなくても。
「若いというのに、もう疲れたのかね!?」
二回も言うなんて、ちょっと失礼じゃない?
「はい! 疲れました!」
「おぉ……。それはそれは、気づかず申し訳ない。何か飲むかね」
リンツは穏やかな表情を浮かべたまま提案してきた。
言われてみれば、喉が渇いているような気もする。ここで一杯何か飲むというのも、悪くはないかもしれない。
「良いですね、何か飲みたいです。飲み物、どこに売っていますか?」
「僕が買ってくるよ」
「そんな、結構です。たまには私が行きます」
任せてばかりというのも問題かもしれないので、一応そう言ってみた。しかしリンツは頷かなかった。彼は、首を左右に振りながら返してくる。
「いやいや。そういうのは年上の仕事だよ」
徐々に沈みゆく夕陽の中、彼は微笑んでいた。
「年上の? 普通は逆に、年下がするべきことなのでは……」
「したいのだよ、僕が」
少しの静寂。
そして、彼は続ける。
「僕が君のために何かしたい。ただそれだけのことなのだよ」
嵐の後のような顔つきで、リンツははっきりと述べた。
柔らかな声質。しかしながら、芯はある。リンツの純粋さや真っ直ぐさを見事に表した声だった。
心が震える。
けど、何と返せばいいのか分からない。
そんな風に戸惑っていると。
「さて! では買いに行ってくるとするか!」
リンツは急に頬を緩めた。
先ほどまでの真剣さはどこへやら。いつもの呑気で明るいリンツに戻っている。
「ちなみにキャシィさん」
「はい」
「トゥガラスィソーダとプィスタティオブラック、どっちがいいかね?」
……え。
トゥガラスィソーダ? プィスタティオブラック?
一体どこの言葉なのだろう。
説明もなしに「どっちがいいか」なんて聞かれても、答えようがない。飲んだことのない飲み物二つからどちらかを選ぶなんて、無理だ。
「すみません、よく分かりません」
「なっ……まさか! 飲んだことがないのかね!?」
「アックスには、そういう飲み物はありませんでした」
「そうか! なるほど。育った国が違うと飲み物も変わってくる、ということだね」
取り敢えず理解してはもらえたみたいだ。
「ではどうしようかね……シンプルに紅茶?」
「それなら飲んだことがあります」
「では、紅茶にしようか。冷たいのがいいかな?」
「はい。それでお願いします」
トゥガラスィソーダだとかプィスタティオブラックだとかは怪しくて怖いため、アイスティーをお願いすることにした。
「本当に……頼んでしまって大丈夫なのですか?」
「任せたまえ! 光の速さで買ってくる!」
「転ばないで下さいねー」
自由という名の翼を得て、どこへでも行ける。
楽しいこと望むことを、躊躇うことなくできる。それがどれだけ命を輝かせてくれるのか、身をもって体験している。
何にも縛られない。
それは、私にとっては不思議なことで。
けれども、嫌だとは思わなかった。
人は変わることを恐れると、人は変化に反発すると言うけれど——今は逆。
これは、嬉しい変化だ。
その後もいくつかの乗り物に乗った、私とリンツ。
夕方が近づき、園内のベンチで再び休憩。
「はぁー! 乗れた乗れた!」
リンツはベンチに腰掛け、体の力を抜く。
だらりと座っているリンツが王子だとは、とても思えない。道行く人たちだって、誰一人として、彼が王子だなんて気づいていないだろう。
見た感じ、完全にただのおじさんだ。
「リンツさんは、いつもお一人でこういう活動を?」
「ん? もちろん。そうだとも」
「結構ハードですね」
二人でだから楽しいが、これをすべて一人でこなすとなると、少々しんどそうな気がするのだが。
「そうかね?」
「はい。結構……疲れました」
……あっ。
しまった、うっかり本心が。
一人密かに焦っていた時、リンツは突如立ち上がり、目を大きく開きながら言ってきた。
「なっ! キャシィさんはもう疲れたのかね!?」
何も、そんなに驚かなくても。
「若いというのに、もう疲れたのかね!?」
二回も言うなんて、ちょっと失礼じゃない?
「はい! 疲れました!」
「おぉ……。それはそれは、気づかず申し訳ない。何か飲むかね」
リンツは穏やかな表情を浮かべたまま提案してきた。
言われてみれば、喉が渇いているような気もする。ここで一杯何か飲むというのも、悪くはないかもしれない。
「良いですね、何か飲みたいです。飲み物、どこに売っていますか?」
「僕が買ってくるよ」
「そんな、結構です。たまには私が行きます」
任せてばかりというのも問題かもしれないので、一応そう言ってみた。しかしリンツは頷かなかった。彼は、首を左右に振りながら返してくる。
「いやいや。そういうのは年上の仕事だよ」
徐々に沈みゆく夕陽の中、彼は微笑んでいた。
「年上の? 普通は逆に、年下がするべきことなのでは……」
「したいのだよ、僕が」
少しの静寂。
そして、彼は続ける。
「僕が君のために何かしたい。ただそれだけのことなのだよ」
嵐の後のような顔つきで、リンツははっきりと述べた。
柔らかな声質。しかしながら、芯はある。リンツの純粋さや真っ直ぐさを見事に表した声だった。
心が震える。
けど、何と返せばいいのか分からない。
そんな風に戸惑っていると。
「さて! では買いに行ってくるとするか!」
リンツは急に頬を緩めた。
先ほどまでの真剣さはどこへやら。いつもの呑気で明るいリンツに戻っている。
「ちなみにキャシィさん」
「はい」
「トゥガラスィソーダとプィスタティオブラック、どっちがいいかね?」
……え。
トゥガラスィソーダ? プィスタティオブラック?
一体どこの言葉なのだろう。
説明もなしに「どっちがいいか」なんて聞かれても、答えようがない。飲んだことのない飲み物二つからどちらかを選ぶなんて、無理だ。
「すみません、よく分かりません」
「なっ……まさか! 飲んだことがないのかね!?」
「アックスには、そういう飲み物はありませんでした」
「そうか! なるほど。育った国が違うと飲み物も変わってくる、ということだね」
取り敢えず理解してはもらえたみたいだ。
「ではどうしようかね……シンプルに紅茶?」
「それなら飲んだことがあります」
「では、紅茶にしようか。冷たいのがいいかな?」
「はい。それでお願いします」
トゥガラスィソーダだとかプィスタティオブラックだとかは怪しくて怖いため、アイスティーをお願いすることにした。
「本当に……頼んでしまって大丈夫なのですか?」
「任せたまえ! 光の速さで買ってくる!」
「転ばないで下さいねー」
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