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26話 城へ帰って
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ほぼまる一日かけて遊園地を満喫した私とリンツは、真っ直ぐに城へと帰った。
その夜。
私は、姉から貰った金の花束が目立つ自室で、ローザと話をする。
「お出掛けはいかがでしたか、キャシィ様」
「楽しかったわ!」
私はベッドの端に腰掛けて話す。
一方ローザはというと、ゆったりとした手つきでティーカップにハーブティーを注いでいっている。ハーブティーを注がれたばかりのカップからは、ほくほくと湯気が立ち上っている。
「ふふ。楽しまれたなら、何よりです」
「気にかけていただけて嬉しいです。ありがとうございます」
「いえいえ。それが侍女の務めですから」
なるほど。確かに。
「リンツ王子が何かやらかしてはいないかと、少々心配していたのですが……」
言いながら、ローザはティーカップをお盆に乗せて、ベッドまで運んできてくれた。
「どうぞ、こちらを」
「ありがとう」
私はティーカップを受け取る。
湯気に乗り、森林のような自然な香りが上ってきた。
「……で、リンツ王子が迷惑をおかけするようなことはありませんでしたか?」
濡れて水玉柄のようになってしまっているワンピースは、脱いだ後ローザに渡した。だから、外出中に私が水に濡れたということは、彼女も知っているはずである。
「はい。大丈夫でした」
「それなら良かったのですが……」
「以前、何かなさったことがあるのですか?」
こんなことをこちらから聞くのは失礼かもしれない。そう思いはするのだが、彼に関することを知ってみたいという気持ちはあるので、質問してみることにしたのだ。
嫌な顔をされるかと不安だったが、案外そんなことはなく。
ローザは何事もなかったかのように答えてくれた。
「そうなんです。リンツ王子がまだお若かった頃、一度ご友人とお出掛けなさったのですが……」
食い入るようにしてローザの話を聞く。
「リンツ王子が紅茶をひっくり返してしまい、しかもそれがご友人にかかってしまったらしく、それ以来二人は疎遠そえんに」
そんなことだけで疎遠になるものなのだろうか?
私だったら、水浸しにされたことに怒りはしても、その程度で離れるようなことはないと思うのだが。
「その時は酷く落ち込んでいらっしゃいましたので……また同じことが起きたらと、密かに心配していたのです」
「なるほど。そうだったんですね」
ティーカップの端を唇に当て、カップの下部をくいと上げる。すると、温かい液体が口内に流れ込んできた。顔面にかかるふわっとした香りの湯気。
「あ、美味しい」
「気に入っていただけたなら、何よりです」
会話は一旦中断。
私は、ローザが淹れてくれたハーブティーを最後まで飲み干す。
「ふぅ」
ティーカップが空になるまで、一気に飲み干してしまった。
こうも一気飲みしてしまったのは、ひとえに、ハーブティーが美味しかったからである。
女体のように柔らかでうっとりするような香り。まろやかながら芯のある、くっきりした爽やかな味。
それらが合わさった時に生み出されるハーモニーが、たまらない。
「……けれど、安心しました」
ハーブティーを堪能しうっとりしていた私に、ローザがそっと言ってくる。
「キャシィ様は広いお心を持っていらっしゃるようなので……貴女が相手なら、リンツ王子も何とかやっていけそうですね」
ローザがリンツに対して抱いているもの——それは多分、母親が息子に抱いだくような感情なのだろう。
「そんな! こちらこそ、リンツさんにはいつもお世話になっています」
確かに、リンツに迷惑をかけられることはある。が、それだけではない。逆に私の方が迷惑をかけてしまっていることだってあるはずだ。
そう考えると、お互い様である。
「これからもリンツ王子の傍にいて差し上げて下さいね、キャシィ様」
穏やかな笑みを浮かべつつ、ローザはそんなことを言ってきた。
「はい。もちろん」
私ははっきりと答えた。
こればかりは迷いなんてない。むしろ、こちらから「これからも一緒にいてね」と言いたいくらいなのだから。
その夜。
私は、姉から貰った金の花束が目立つ自室で、ローザと話をする。
「お出掛けはいかがでしたか、キャシィ様」
「楽しかったわ!」
私はベッドの端に腰掛けて話す。
一方ローザはというと、ゆったりとした手つきでティーカップにハーブティーを注いでいっている。ハーブティーを注がれたばかりのカップからは、ほくほくと湯気が立ち上っている。
「ふふ。楽しまれたなら、何よりです」
「気にかけていただけて嬉しいです。ありがとうございます」
「いえいえ。それが侍女の務めですから」
なるほど。確かに。
「リンツ王子が何かやらかしてはいないかと、少々心配していたのですが……」
言いながら、ローザはティーカップをお盆に乗せて、ベッドまで運んできてくれた。
「どうぞ、こちらを」
「ありがとう」
私はティーカップを受け取る。
湯気に乗り、森林のような自然な香りが上ってきた。
「……で、リンツ王子が迷惑をおかけするようなことはありませんでしたか?」
濡れて水玉柄のようになってしまっているワンピースは、脱いだ後ローザに渡した。だから、外出中に私が水に濡れたということは、彼女も知っているはずである。
「はい。大丈夫でした」
「それなら良かったのですが……」
「以前、何かなさったことがあるのですか?」
こんなことをこちらから聞くのは失礼かもしれない。そう思いはするのだが、彼に関することを知ってみたいという気持ちはあるので、質問してみることにしたのだ。
嫌な顔をされるかと不安だったが、案外そんなことはなく。
ローザは何事もなかったかのように答えてくれた。
「そうなんです。リンツ王子がまだお若かった頃、一度ご友人とお出掛けなさったのですが……」
食い入るようにしてローザの話を聞く。
「リンツ王子が紅茶をひっくり返してしまい、しかもそれがご友人にかかってしまったらしく、それ以来二人は疎遠そえんに」
そんなことだけで疎遠になるものなのだろうか?
私だったら、水浸しにされたことに怒りはしても、その程度で離れるようなことはないと思うのだが。
「その時は酷く落ち込んでいらっしゃいましたので……また同じことが起きたらと、密かに心配していたのです」
「なるほど。そうだったんですね」
ティーカップの端を唇に当て、カップの下部をくいと上げる。すると、温かい液体が口内に流れ込んできた。顔面にかかるふわっとした香りの湯気。
「あ、美味しい」
「気に入っていただけたなら、何よりです」
会話は一旦中断。
私は、ローザが淹れてくれたハーブティーを最後まで飲み干す。
「ふぅ」
ティーカップが空になるまで、一気に飲み干してしまった。
こうも一気飲みしてしまったのは、ひとえに、ハーブティーが美味しかったからである。
女体のように柔らかでうっとりするような香り。まろやかながら芯のある、くっきりした爽やかな味。
それらが合わさった時に生み出されるハーモニーが、たまらない。
「……けれど、安心しました」
ハーブティーを堪能しうっとりしていた私に、ローザがそっと言ってくる。
「キャシィ様は広いお心を持っていらっしゃるようなので……貴女が相手なら、リンツ王子も何とかやっていけそうですね」
ローザがリンツに対して抱いているもの——それは多分、母親が息子に抱いだくような感情なのだろう。
「そんな! こちらこそ、リンツさんにはいつもお世話になっています」
確かに、リンツに迷惑をかけられることはある。が、それだけではない。逆に私の方が迷惑をかけてしまっていることだってあるはずだ。
そう考えると、お互い様である。
「これからもリンツ王子の傍にいて差し上げて下さいね、キャシィ様」
穏やかな笑みを浮かべつつ、ローザはそんなことを言ってきた。
「はい。もちろん」
私ははっきりと答えた。
こればかりは迷いなんてない。むしろ、こちらから「これからも一緒にいてね」と言いたいくらいなのだから。
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