年上王子が呑気過ぎる。

四季

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35話 星空を見上げながら

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 サンドイッチを食べながら見上げた空は、美しかった。

 暗い空に散らされた、宝石のような星たち。それは、これまで見たことがないくらい輝きに満ちていて。あのままアックス王国にいたら、こんな景色を見ることはなかっただろうな——そんな風に思うと、ここに来た意味も少しはあったのかもしれないと、現状を前向きに捉えることができた。

「綺麗……ですね」

 溜め息混じりに漏らす。

「気に入っていただけたかな?」
「……はい」

 小さく答え、空に手を伸ばす。

 あの星を一つでも掴み取ってしまえたらいいのに。いつの間にかそんなことを考えている自分に気がついて、私は内心苦笑する。子どもじゃないのだから、と。

「凄く綺麗」
「僕もそう思うよ」

 私たちは感性が近いのかもしれない。そう思えることは、私にとっては嬉しいことだった。

「だがね——」
「え?」

 リンツがいきなり、私の手を握ってきた。
 唐突なことに、きょとんとしてしまう。

「キャシィさんも、この空と同じくらい綺麗だよ」

 リンツの口から飛び出した言葉があまりに非現実的だったため、思わず「はい?」なんて返しをしてしまった。

「君がここへ来てくれて良かった」
「え、あの」
「キャシィさんには辛い思いをさせてしまったかもしれない……それは分かっているんだ。でも、僕は君が来てくれて嬉しいよ」

 温かな言葉をかけてもらえたことは嬉しい。だが、素直に喜ぶことは難しかった。

 だって恥ずかしいんだもの。

「だから、僕は今ここで誓うよ」
「……リンツさん」
「キャシィさんがピシアに来たことを良かったと思えるように、これからもずっと頑張るって」

 そう言って、リンツは柔らかく微笑む。

「……ありがとうございます、リンツさん」

 私は恥ずかしくて仕方がなかった。けれども、恥ずかしいからといってずさんな対応をするのは問題だ。だから、勇気を出してお礼を言った。

 顔が赤くなっていたりしたら、どうしよう。

 ……いや。

 この暗がりでは、相手の顔の色なんて見えないか。

「そんな風に言っていただけて、光栄です」
「光栄? それはこちらのセリフだよ! 僕と結婚してくれてありがとう」
「あ、いえ……それは両親が勝手に決めたことです」
「ガーン!」

 リンツは大袈裟にショックを受けたような振る舞いをしていた。
 もしかしたら笑うべきところだったのかもしれないが、笑って良いのかどうか私には分からず、そのため私は笑わないでおいた。
 この選択が間違いであったなら、少しばかり申し訳ないが。

 高い空に瞬く星々より降り注ぐ、眩い光。それを浴びながら、私たちは、特に何でもないことを話す。

 そこに深い意味なんてなくて。
 でも、楽しいのだ。

 だから、今はもう少し、こんな風にしていたい。

 誰の目も気にすることなく、穏やかに、二人でいる時間を楽しめたなら……それはきっと、素敵な思い出になるだろう。

 時が流れても、ずっと、今日この瞬間を忘れずにいられるはずだ。

「今日は素敵な場所へ連れてきて下さって、ありがとうございました」
「いえいえ。いきなり無理を言ってすまなかったね」
「最初はびっくりしましたけど……でも、案外楽しかったです」

 地面に座ることにはまだ慣れないけど、ね。

「また誘って下さい」
「いいのかね?」
「もちろんです。私としても、ピシアのことをもっと知りたいですし」

 彼となら、もっと色々なところへ行ってみたい。

「それはいい! では、また気軽に誘わせてもらうこととするよ!」

 リンツは笑う。
 屈託のない、子どものような笑みだ。

「さて!」

 明るい笑みを浮かべた後、リンツは、ゆっくりと立ち上がった。

「ではそろそろ、城へ帰るとするかな!」
「そうですね」
「ん? テンションが低くないかね?」
「いえ、そんなことはありませんよ」

 こうして、私とリンツは城へと帰った。

 素晴らしい星空を見られた。それだけでも満足だ。でも、それだけではない。リンツと二人で見られた、というところにも、意味があるのだ。
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