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前編
しおりを挟む不思議なことってあるものだなぁ、と思う。
今朝幼馴染みで婚約者でもあったヴェットランから婚約破棄を宣言された私はその帰り道倒れていた魔族の男性を助けた。
すると、目が覚めた彼に勘違いされて――君が誓いの乙女だね――そんなことを言われ求婚されてしまったのだ。
何でも、彼の出自と関係のある魔族には、誓いの乙女という伝説があるらしい。それは魔族王家の男性の前にある時急に現れる存在らしくて。その縁は大抵男側が助けてもらうところから始まるそうなのだが、その乙女と結婚することにより一族が順調に反映すると言われているのだそうだ。
「ごめんなさい、私、多分それではないと思います」
「そうか? この出会い、間違いなくそうだと思うのだが! 現に僕は君に助けてもらっている」
「それはたまたまですよ! 私が貴方を助けたのは倒れていらっしゃったからで……」
私はそのような特別な存在ではない、そう理解してほしくて言葉を並べるのだけれど。
「それこそが誓いの乙女の言い伝えと重なっているんだ!」
「えええ……」
彼には何を言っても無駄だった。
「どうか! 我が妻となってほしい!」
「え、いや、ですからそれは……」
「そんなに嫌か!?」
物凄い勢いで顔を近づけてこられる。
「待ってください、あまりにも急で」
「もう少し待てば許されるのか?」
「え、ま、まぁそうですね……さすがに、今日と言われてぱっとは……そういうわけにはいきませんので……」
「そうか分かった。では時間を与えよう。一週間ほど。その間にイエスかノーか考えてくれるだろうか?」
ああ、意外とまともなところもあるんだ。
私を言いなりにしたいわけじゃないんだ。
そんな風に見直して――それからハッとする。
乗せられている。
あまりにも単純すぎる。
少し時間をくれたからそれだけで良い人みたいに思うなんて。
「分かりました。では考えます」
「ありがとう! 助かる!」
でも、彼は悪い人ではなさそう。
魔族だけれど邪悪ではない。
それに、時折見せる純真な笑みは、個人的には好きな部類である。
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