僕は彼女に話しかけられない

四季

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第二回 夏

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 あと一週間もすれば、夏休み。
 定期考査及びその返却も終了し、教室に流れる空気はどこか浮かれている。

 振り返れば、色々なことのあった一学期だった。

 春には新しいクラスになり、憧れの女子生徒である杏と同じクラスになれた。あれは、今考えても奇跡だったと思う。しかも最初は隣同士の席だったという幸運ぶりだ。

 あの後、席替えがあって、僕は杏と少し離れてしまった。が、今はまた隣同士に戻れている。試験期間中だけは、出席番号順の席に戻るからだ。

 そのこともあって、今年だけは試験が楽しみで仕方ない。


 僕はあれからも、日々、杏の様子を観察していた。そして気づいたことがある。それは、彼女の読む本の内容には統一感がまったくないということだ。


 ある日は『みったちゃん』という折り紙くらいのサイズの絵本。

 ある日は『記者会見中に突如、頭に納豆をかぶった美初老が現れて、一緒に謝罪してくれたが?』というライトノベル。

 ある日は『ぼくたんたまねぎ』というコミックエッセイの五巻。

 ある日は『仏教対談』というハードカバーの本。

 ある日は『芦屋川マツカレハ』という曲のCDの歌詞カード。

 ある日は『ポケットからハエトリグモくん登場! ~殺虫剤で大激突~』という児童向け。

 ある日は『先人に学ぶ、偉大な迷言』という知識本。

 ある日は表紙にイケメンのイラストが描かれた『誰でもできるよさこい開発』という漫画の特装版の三十八巻。

 ある日は『みんな歩き方ガイド~ミュン編~』という海外旅行ガイドブック。

 ある日はビーバーの写真がたくさん載った『ヴィーヴァー』というA4サイズの写真集。

 ある日は『昆布だしでクッキン』という料理本。

 ある日は『何を以て独裁者とするか』という白黒表紙の文庫本。

 ある日は『おたまじゃくし集め隊』という翻訳小説。


 ……と、とにかくバラバラだ。

 それゆえ、杏の趣味はまったく分からない。
 どういったジャンルが好きなのか、あるいは苦手なのか。まったく掴めないのである。

 だから、話しかけづらい。
 どんな話を振ればいいのかよく分からない。

 けれど、まだ諦めるつもりはない。絶対に友達になってみせる。いつかは、だが。


 こうして、また一日が終わるのだった。
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