僕は彼女に話しかけられない

四季

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第三回 秋

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 長い夏休みが終わった。

 一学期の終業式から、一ヶ月と少し。僕は夏の間にかなりたるんだ体で、久々に学校へと向かう。

 教室へ着くと、クラスメイトたちが仲良さげに話す姿が、視界に入る。けれども、僕に話しかけてくる者は一人もいない。久しぶり、さえ言われなかった。

 それはなぜか?

 簡単なことだ。
 僕には友達がいないから、である。

 だが、寂しいとは思わない。

 気軽に話せるクラスメイトがいなくても、傍で語らえる親しい友人がおらずとも、僕には杏がいる。

 彼女と僕は、ほぼ他人だ。
 こちらはいつも見つめているから杏を知っている。が、杏は僕を知らないだろう。

 ただ、それでもいい。

 僕は多くを望んだりはしない。

 隣の席に座っていられるなら、同じ教室で生活していられるなら、それで十分。満足だ。

「今日は始業式やぞー。式の間は静かにしとけよー」

 ホームルームの時間になると、担任がやって来る。そしてそれが終わると、始業式に参加するべく、体育館へ向かった。


 始業式は退屈だ。これといった重要な話があるわけでもないのに長い時間を要するところが、極めて非効率的だと思う。

 しかし、今日は別だ!

 僕は何とか上手くやり、杏の後ろという素晴らしい場所を手に入れた。

 二つに結んだ杏の髪からは、女性らしい柔らかな芳香が漂ってくる。言葉を交わすより、こちらの方がずっと幸せだ。

「本日より二学期が始まりますが——」

 校長がマイクを通して何やら話しているが、これまで何度も聞いたような話を真剣に聞くほど、僕は真面目ではない。

 すぐそこに憧れの女の子である杏がいるのだから、なおさらだ。

「怪我や病気などに気をつけ、勉学に励んで——」

 それにしても、この位置は素晴らしい。

 杏の白いうなじがよく見えるのだ。
 言葉では語り尽くせない、文句なしの絶景。本当に素晴らしい。

「二学期には、体育大会や学園祭も——」

 杏の肌はなぜこうも柔らかなのだろう。こんなにも美しく、シルクのように滑らかなのだろう。

 僕や他の生徒たちと、同じ人間だとは思えない。
 もしかしたら、彼女は異星人なのではないだろうか? なんてくだらぬことを考えてしまうほどに、彼女の肌は白く滑らかで柔らかだ。

「では次は、ダンス部やソフトテニス部の表彰へ移り——」

 校長の話はようやく終わり、司会の教師へとマイクが戻る。
 それに伴い、体育館内のざわめきが大きくなった。

 もっとも、校長の話の間も静かではなかったのだが。

 うるさいなぁ、と心の中で漏らしつつ杏を凝視していると、彼女がふわぁとあくびする場面を見ることができた。

 やはり、退屈しているのは僕だけではないようだ。

 杏も僕と同じように退屈している——これは、嬉しすぎる事実である。


 今日は、始業式後に少しばかり清掃とホームルームがあり、すぐに下校だった。


 こうして、また一日が終わる。
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