僕は彼女に話しかけられない

四季

文字の大きさ
4 / 5

第四回 冬

しおりを挟む
 二学期は色々な行事があった。

 クラス全員が一丸となって戦う体育大会では、僕はクラス対抗リレーの三走として出場。

 一走二走が頑張って一位になっていたにもかかわらず、僕の番で一気に追い抜かれてしまい、結果は最下位。苛めめられこそしなかったものの、周囲から冷たい視線を向けられた。

 続く学園祭では、合唱コンクール。そこでも、二年C組は下から二番目という振るわない結果だった。

 そんなパッとしない秋。
 しかし、僕は毎日楽しかった。

 なぜなら杏がいるからである。

 彼女がいればいい。彼女と同じクラスで過ごせるなら、良いことがあろうが悪いことがあろうが、楽しいことに変わりはないのだ。


 そして、冬が来た。
 冬服をしっかり着ていても寒い、そんな冬が。


「何か今日特に寒ない!?」
「急に冷えたなー。びっくりやで」

 それは、そもそもかなり寒い冬の中でも特に寒さの厳しい、ある日のこと。
 僕は二限目と三限目の間の休み時間に、物凄く大きなくしゃみをしてしまった。それはもう、涙は溢れ鼻水が顎まで垂れるほどのくしゃみを。

 その時、奇跡が起きたのだ。

「……使う?」

 そう声をかけてくれた杏の手には、色気のない真っ白なポケットティッシュ。

 僕は彼女の優しさに、暫し何も返せなかった。

 これは大きなチャンスだ。日々頑張っている僕へ神様がくれた、細やかな贈り物に違いない。このチャンスを上手く活かせば、僕は彼女と友達になれるかもしれない。

 ——だが、無理だった。

 僕には勇気がなかったのだ。

 憧れの女の子がティッシュを貸そうとしてくれているというのに、僕は「いや、いいよ」と愛想なく返してしまった。

「そう」

 杏は小さくそう言って、差し出していたポケットティッシュを引っ込める。

 あああああ……。
 これは人生最大のミスになるだろう。


 一生に二度あるかどうかも分からないような大きなチャンスを、僕は台無しにしてしまった。

 やり直したい。けれど無理だ。
 時を巻き戻すなんて、人間には不可能。


 こうして、僕の一日はまた終わってゆくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

処理中です...