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episode.6 その言葉は救世主
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――刹那、垂直落下してきていた手は何かによって撃ち抜かれ破壊された。
本当に一瞬のこと。
何か弾丸のようなものが飛んできて、それを叩き壊したのだ。
「そこの方、ご無事ですか!?」
飛んでくる声。
それの対象は私ではない、恐らくまさにその場所にいたノワールだろう。
そして声の主は――白い制服を着用した黒髪の男性、魔の者討伐隊の隊員だ。
男性隊員は銀色で筒状の大きな武器を抱えたままノワールに駆け寄る。
「あの! そこの方!」
「……ボク?」
「はい! もしかして魔の者に襲われていたのではないですか? 危なかったですね。でも! 安心ください、もう大丈夫です!」
いきなり積極的に話しかけられノワールは困惑したような表情を浮かべていた。
「倒されてはいたみたいでしたけど、結構大きな魔の者でしたね!」
「……あの、ボクに何か用?」
「え」
「もう……帰っていいかな」
「え。あ、は、はい! もちろんです!」
男性隊員はぴしっと立ち一礼した。
が、その後すぐに何かに気づいたような面持ちになる。
「あれ? ですが、まだこの辺りに何か反応があるようです。微弱ながら魔の者と思われる反応があります……先ほどの魔の者は倒されたはずなのに……」
「……もう行くから」
「あ、はい! お気をつけてっ!」
ノワールはこちらへ流れるような足取りで歩いてくる。
「……行こ」
彼は小さくそう言ってきた。
何やらこの場から離れたそうな様子。もしかして、あの爽やかな隊員が嫌いなタイプだったのだろうか? まぁ……分からないではない。何となく察せる。ノワールのような者にとってはああいう人は不愉快な存在でしかないかもしれない、何となくそんな気がする。
「あ、はい、そうですね! 行きましょう」
そういえば――あの左手は一体何をしていたのだろう?
ふと思い出し疑問を抱く。
でも今は聞いてみる勇気はなくて。
その件はひとまず置いておくことにした。
別段急いで聞かなくてはならないことでもないので、またいつかタイミングがあれば聞けばいい。
◆
「そういえばノワールさん、この前の話なんですけど――シテキ・ス・ルージュを引き寄せていたあれって、結局何だったんですか?」
その夜は退屈な夜だった。
一人きりのすることのない夜はもう何度も過ごしたけれど、二人でいてもなお特に何もない夜もあるのだと気づいたのは今日が初めてだ。
「……どういう質問?」
今日も床に座っているノワール。
静かに面を持ち上げる。
「いえ、特に深い意味はありません。ただ、言葉のままの意味です」
「そう。でも……べつに話すほどのものじゃないよ」
「でも気になります。あれって、何かの魔法ですか?」
「まぁ……そんな感じ、かな」
「おおっ! やっぱり! では、ノワールさんも魔法が使える方だったのですね!」
ノワールはどこか気まずそうな顔をしていた。
もしかしたら、魔法を使えることを隠したかったのかな?
「でも凄いです! 魔の者をあんな風に倒せるなんて」
「……凄くはないよ、べつに」
「そうでしょうか? 私は凄いと思います! だって、一人であんな大きなのを倒せるんですから! ……ああ、私もいつかそんな風になってみたいなぁ」
するとノワールは呆れたように一つ溜め息をついた。
「……もういいよ、そういうの。その……べつに持ち上げてくれなくていいから。そういうことされても嬉しくないし……」
「え、もしかして、お世辞だと思ってます?」
「そうなんでしょ? ……違うの?」
「まさか! 違いますよ! お世辞なわけがないじゃないですかっ」
事実ノワールは強かった。
人々が恐れおののいている魔の者を前にしても怯まないし戦えているし、さらには倒すところまでやってしまえているし。
彼は強い、そして凄い。
その点に関して、お世辞とか嘘とかそういったものは一切ない。
「私、そんな風になってみたかったです」
「……何でさ」
「だって! そんな風に戦えたら、親に会いに行けるじゃないですか! もしかしたらゼツボーノを倒して二人を助けられるかもしれないですし」
つい、想いを隠さず明かしてしまって。
「またそれ?」
冷めた目を向けられてしまった。
「え」
「まだ言ってるんだ、そんなこと」
しばらく一緒にいて、仲良くなれたと思っていた。
でもそれでも時折こうなってしまう。
ノワールはたまに急激に冷ややかな表情を浮かべることがあるのだ。
「相変わらずだね」
どうしてそんな目で見るの?
そう言いたくて。
でもそんなことを言えるわけもなくて。
言葉を紡げず、黙ってしまう。
ああ、どうして、いつもはうるさいくらい喋ってばかりなのにこういう時だけ言葉が出てきてくれないのか……。
暫し沈黙があって、その果てに、ノワールは少し柔らかく口を開いた。
「でも、ま、キミが魔の者を引き寄せてくれるのには助かってるよ」
彼の口から出る言葉から冷ややかさは消えていた。
「えっ……。私、役立てていますか!?」
「ま、そう言えるね。ボクとしては少しでも多く潰したいから」
「やった! なら良かった! 嬉しいです」
魔の者に遭遇しやすい。
厄介なことに巻き込まれやすい。
自分にそういうところがあることは知っていて、そういうところが嫌いだった。
運の悪さというか何というか。
とにかくそれは周囲に迷惑をかけることばかりで。
そんなところがあっても良いことなんて一つもないと、そう思っていた。
でも、ノワールが「助かってる」と言ってくれるなら、それは何よりも大きな救いの言葉だ。
「私、これからもたくさん引き寄せます!」
「……まぁ、ほどほどに」
本当に一瞬のこと。
何か弾丸のようなものが飛んできて、それを叩き壊したのだ。
「そこの方、ご無事ですか!?」
飛んでくる声。
それの対象は私ではない、恐らくまさにその場所にいたノワールだろう。
そして声の主は――白い制服を着用した黒髪の男性、魔の者討伐隊の隊員だ。
男性隊員は銀色で筒状の大きな武器を抱えたままノワールに駆け寄る。
「あの! そこの方!」
「……ボク?」
「はい! もしかして魔の者に襲われていたのではないですか? 危なかったですね。でも! 安心ください、もう大丈夫です!」
いきなり積極的に話しかけられノワールは困惑したような表情を浮かべていた。
「倒されてはいたみたいでしたけど、結構大きな魔の者でしたね!」
「……あの、ボクに何か用?」
「え」
「もう……帰っていいかな」
「え。あ、は、はい! もちろんです!」
男性隊員はぴしっと立ち一礼した。
が、その後すぐに何かに気づいたような面持ちになる。
「あれ? ですが、まだこの辺りに何か反応があるようです。微弱ながら魔の者と思われる反応があります……先ほどの魔の者は倒されたはずなのに……」
「……もう行くから」
「あ、はい! お気をつけてっ!」
ノワールはこちらへ流れるような足取りで歩いてくる。
「……行こ」
彼は小さくそう言ってきた。
何やらこの場から離れたそうな様子。もしかして、あの爽やかな隊員が嫌いなタイプだったのだろうか? まぁ……分からないではない。何となく察せる。ノワールのような者にとってはああいう人は不愉快な存在でしかないかもしれない、何となくそんな気がする。
「あ、はい、そうですね! 行きましょう」
そういえば――あの左手は一体何をしていたのだろう?
ふと思い出し疑問を抱く。
でも今は聞いてみる勇気はなくて。
その件はひとまず置いておくことにした。
別段急いで聞かなくてはならないことでもないので、またいつかタイミングがあれば聞けばいい。
◆
「そういえばノワールさん、この前の話なんですけど――シテキ・ス・ルージュを引き寄せていたあれって、結局何だったんですか?」
その夜は退屈な夜だった。
一人きりのすることのない夜はもう何度も過ごしたけれど、二人でいてもなお特に何もない夜もあるのだと気づいたのは今日が初めてだ。
「……どういう質問?」
今日も床に座っているノワール。
静かに面を持ち上げる。
「いえ、特に深い意味はありません。ただ、言葉のままの意味です」
「そう。でも……べつに話すほどのものじゃないよ」
「でも気になります。あれって、何かの魔法ですか?」
「まぁ……そんな感じ、かな」
「おおっ! やっぱり! では、ノワールさんも魔法が使える方だったのですね!」
ノワールはどこか気まずそうな顔をしていた。
もしかしたら、魔法を使えることを隠したかったのかな?
「でも凄いです! 魔の者をあんな風に倒せるなんて」
「……凄くはないよ、べつに」
「そうでしょうか? 私は凄いと思います! だって、一人であんな大きなのを倒せるんですから! ……ああ、私もいつかそんな風になってみたいなぁ」
するとノワールは呆れたように一つ溜め息をついた。
「……もういいよ、そういうの。その……べつに持ち上げてくれなくていいから。そういうことされても嬉しくないし……」
「え、もしかして、お世辞だと思ってます?」
「そうなんでしょ? ……違うの?」
「まさか! 違いますよ! お世辞なわけがないじゃないですかっ」
事実ノワールは強かった。
人々が恐れおののいている魔の者を前にしても怯まないし戦えているし、さらには倒すところまでやってしまえているし。
彼は強い、そして凄い。
その点に関して、お世辞とか嘘とかそういったものは一切ない。
「私、そんな風になってみたかったです」
「……何でさ」
「だって! そんな風に戦えたら、親に会いに行けるじゃないですか! もしかしたらゼツボーノを倒して二人を助けられるかもしれないですし」
つい、想いを隠さず明かしてしまって。
「またそれ?」
冷めた目を向けられてしまった。
「え」
「まだ言ってるんだ、そんなこと」
しばらく一緒にいて、仲良くなれたと思っていた。
でもそれでも時折こうなってしまう。
ノワールはたまに急激に冷ややかな表情を浮かべることがあるのだ。
「相変わらずだね」
どうしてそんな目で見るの?
そう言いたくて。
でもそんなことを言えるわけもなくて。
言葉を紡げず、黙ってしまう。
ああ、どうして、いつもはうるさいくらい喋ってばかりなのにこういう時だけ言葉が出てきてくれないのか……。
暫し沈黙があって、その果てに、ノワールは少し柔らかく口を開いた。
「でも、ま、キミが魔の者を引き寄せてくれるのには助かってるよ」
彼の口から出る言葉から冷ややかさは消えていた。
「えっ……。私、役立てていますか!?」
「ま、そう言えるね。ボクとしては少しでも多く潰したいから」
「やった! なら良かった! 嬉しいです」
魔の者に遭遇しやすい。
厄介なことに巻き込まれやすい。
自分にそういうところがあることは知っていて、そういうところが嫌いだった。
運の悪さというか何というか。
とにかくそれは周囲に迷惑をかけることばかりで。
そんなところがあっても良いことなんて一つもないと、そう思っていた。
でも、ノワールが「助かってる」と言ってくれるなら、それは何よりも大きな救いの言葉だ。
「私、これからもたくさん引き寄せます!」
「……まぁ、ほどほどに」
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