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episode.7 ある朝
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「おはようございます!」
その日の朝、想定外の出来事は突然やって来た。
起きたばかりのまだ早い時間に急に誰かが扉をノックしてきて、恐る恐る開けてみたところ、前に一度会ったことのある黒髪男性が立っていた。
「あ。貴方は確か」
「はい! 以前一度お会いしましたよね、あのアイスクリーム屋の前で! あの時の者です」
そう、彼は、シテキ・ス・ルージュに襲われた時に駆けつけた魔の者討伐隊の男性隊員。あの時は短い時間しか見ていなかったけれど、それでも記憶と繋がった。あの時筒のようなものを抱えていた隊員と今目の前にいる彼は同一人物だろう。
「自分、コルトと申します! 魔の者討伐隊の隊員です!」
少々独創的なデザインの白色の制服は洗濯されたばかりであるかのように清潔だった。
朝から驚くくらい元気いっぱいだ。
爽やかを絵に描いたような人である。
「コルトさん、ですか」
「はい! こちらはソレアさんというお方の部屋だそうですね?」
「ソレアというのは私です」
「そうでしたか! 初めまして、お会いできて嬉しいですっ」
コルトと名乗る男性隊員はその面にどんな時も爽やかな笑みを浮かべている。しかしだからこその不気味さもあった。そもそもいきなりここへ来ているというのが不自然だし、何かしらの企みがあるとしか思えない。いや、企みは言い過ぎかもしれないけれど。しかし、訪問に何らかの意図があることは確かだろう。
「男性も同居されているとのことですね」
真っ直ぐに背筋を伸ばして笑顔で立っているコルトには理想的な爽やかさがあって、だからこそ不気味に感じてしまう。
「はい、そうですけど……あの、何か?」
「そちらの男性について少しお話を聞かせていただきたいのです」
「お話? ですか」
「はい、実は少しお聞きしたいことがありまして」
どうやら彼はノワールに用があるようだ。
ノワールを呼ぼうと振り返ってみたところ、彼は既に私のすぐ後ろにまで来ていた。
「もういる!?」
「……聞こえてる、二人して声大きいし」
彼はそれだけ言って私の横を通過した。
自らコルトの方へ向かっていった。
「ボクに用?」
「はい、その通りです!」
「……何さ」
「実はですねー、少し、お話を聞かせていただきたいことがあるのです」
「断るよ。厄介なことは嫌いなんだ」
するとコルトは笑みに微かな黒さを含ませた。
「拒否するのですか? ならば、強制力を使わせていただくことになりますよ」
急に雰囲気が変わって驚いた。
このコルトという人……本当に善良な青年なのだろうか? 見ていて段々不安になってきた。もしかして、善良そうなのは表層だけなのでは? 本当のところはまったく違うのでは? 一度そんな風に思えると、段々、見た目をそのまま信じられなくなってくる。それと同時に生まれる不信感は、一種の怖さを生み出して。付き合っていいの? こうして関わっていていいの? ……ついそんな風に思ってしまう。
「我々魔の者討伐隊には市民への協力要請の権限がありますので、それを行使することとなりますよ」
「……どうやっても付き合わせる気?」
「ええ、そうです。なんせ我々にはこの国の者を護るという尊い役割がありますから」
するとノワールは「分かった」と発した。
もっと断り続けると思っていたけれど、その読みは間違っていた。
「……仕方ないな、行くよ」
「ご協力に感謝します! 助かります!」
でも、一人で行かせて大丈夫なのだろうか?
ノワールは少し変わったところがある。それこそ、若干この世界に馴染んでいないというか。悪い意味ではないのだが、どこか普通でない雰囲気があるのだ。
そんな彼を一人で行かせて大丈夫?
「あ、あのっ」
――駄目だ、そう思って。
「何ですか? ソレアさん」
「私も……私も同行することはできませんか!?」
するとコルトは一瞬だけ冷めたような目つきになったけれど――二秒くらいの間の後に穏やかな笑顔に戻った。
「ええ、構いませんよ」
その後私はノワールに付き添って魔の者討伐隊の地区基地となっているところへ向かうこととなった。
外へ出てみたところ、コルトの仲間と思われる人たちが複数人いた。その人たちはもしもの時に私たちを護る役割の人たちなのだとコルトは言っていたけれど、正直なところその言葉をそのまま信じることはできなかった。
……どうしてこんな罪人みたいに扱われなくてはならないの?
魔の者討伐隊はあの強大な敵から人々を護る。
私も何度かお世話になった。
だからその存在を疑っているわけではない。
……でもこれは何かがおかしい。
話を聞きたい、それだけなのに、移動にここまでするものだろうか。
私もノワールも暴れているわけではないし真面目に歩いているのに、まるで犯罪者を移送する時かのように何人もで取り囲んで。
こんな形で道を歩くのは目立ってしまって恥ずかしい。
でも大丈夫、一人じゃないから。
「……何でついてきたの」
「一人だったら危ないでしょう?」
「あのさ……キミはボクを何だと思ってるわけ」
「大切な人!」
「……呆れた」
「一緒にいれば大丈夫ですよ、もし貴方の身に何かあっても私がきっと癒します!」
「相変わらず呑気だね……」
透き通るような空の下を歩く。
今はお出掛けのように軽やかな足取りにはなれない。
でもついてきて良かった。
あのままノワールを一人で行かせていたら、きっと、今頃凄く気になって心配になっていたと思う。
――やがて建物へ到着、ノワールは奥の部屋へ通されたが私はそちらへは行かせてもらえなかった。
「あの、コルトさん、私も……」
「すみませんが、こちらでお待ちください」
私はそれ以上奥へは入れてもらえなかった。廊下の長椅子に座っていなくてはならないことになってしまった。引き裂かれることに不満を抱きつつも、無理は言えないのでそこで一旦待機しておくことにした。
「では自分は一旦あちらへ行って参ります、また後ほど」
少しして、コルトも奥の部屋へ行ってしまった。
その日の朝、想定外の出来事は突然やって来た。
起きたばかりのまだ早い時間に急に誰かが扉をノックしてきて、恐る恐る開けてみたところ、前に一度会ったことのある黒髪男性が立っていた。
「あ。貴方は確か」
「はい! 以前一度お会いしましたよね、あのアイスクリーム屋の前で! あの時の者です」
そう、彼は、シテキ・ス・ルージュに襲われた時に駆けつけた魔の者討伐隊の男性隊員。あの時は短い時間しか見ていなかったけれど、それでも記憶と繋がった。あの時筒のようなものを抱えていた隊員と今目の前にいる彼は同一人物だろう。
「自分、コルトと申します! 魔の者討伐隊の隊員です!」
少々独創的なデザインの白色の制服は洗濯されたばかりであるかのように清潔だった。
朝から驚くくらい元気いっぱいだ。
爽やかを絵に描いたような人である。
「コルトさん、ですか」
「はい! こちらはソレアさんというお方の部屋だそうですね?」
「ソレアというのは私です」
「そうでしたか! 初めまして、お会いできて嬉しいですっ」
コルトと名乗る男性隊員はその面にどんな時も爽やかな笑みを浮かべている。しかしだからこその不気味さもあった。そもそもいきなりここへ来ているというのが不自然だし、何かしらの企みがあるとしか思えない。いや、企みは言い過ぎかもしれないけれど。しかし、訪問に何らかの意図があることは確かだろう。
「男性も同居されているとのことですね」
真っ直ぐに背筋を伸ばして笑顔で立っているコルトには理想的な爽やかさがあって、だからこそ不気味に感じてしまう。
「はい、そうですけど……あの、何か?」
「そちらの男性について少しお話を聞かせていただきたいのです」
「お話? ですか」
「はい、実は少しお聞きしたいことがありまして」
どうやら彼はノワールに用があるようだ。
ノワールを呼ぼうと振り返ってみたところ、彼は既に私のすぐ後ろにまで来ていた。
「もういる!?」
「……聞こえてる、二人して声大きいし」
彼はそれだけ言って私の横を通過した。
自らコルトの方へ向かっていった。
「ボクに用?」
「はい、その通りです!」
「……何さ」
「実はですねー、少し、お話を聞かせていただきたいことがあるのです」
「断るよ。厄介なことは嫌いなんだ」
するとコルトは笑みに微かな黒さを含ませた。
「拒否するのですか? ならば、強制力を使わせていただくことになりますよ」
急に雰囲気が変わって驚いた。
このコルトという人……本当に善良な青年なのだろうか? 見ていて段々不安になってきた。もしかして、善良そうなのは表層だけなのでは? 本当のところはまったく違うのでは? 一度そんな風に思えると、段々、見た目をそのまま信じられなくなってくる。それと同時に生まれる不信感は、一種の怖さを生み出して。付き合っていいの? こうして関わっていていいの? ……ついそんな風に思ってしまう。
「我々魔の者討伐隊には市民への協力要請の権限がありますので、それを行使することとなりますよ」
「……どうやっても付き合わせる気?」
「ええ、そうです。なんせ我々にはこの国の者を護るという尊い役割がありますから」
するとノワールは「分かった」と発した。
もっと断り続けると思っていたけれど、その読みは間違っていた。
「……仕方ないな、行くよ」
「ご協力に感謝します! 助かります!」
でも、一人で行かせて大丈夫なのだろうか?
ノワールは少し変わったところがある。それこそ、若干この世界に馴染んでいないというか。悪い意味ではないのだが、どこか普通でない雰囲気があるのだ。
そんな彼を一人で行かせて大丈夫?
「あ、あのっ」
――駄目だ、そう思って。
「何ですか? ソレアさん」
「私も……私も同行することはできませんか!?」
するとコルトは一瞬だけ冷めたような目つきになったけれど――二秒くらいの間の後に穏やかな笑顔に戻った。
「ええ、構いませんよ」
その後私はノワールに付き添って魔の者討伐隊の地区基地となっているところへ向かうこととなった。
外へ出てみたところ、コルトの仲間と思われる人たちが複数人いた。その人たちはもしもの時に私たちを護る役割の人たちなのだとコルトは言っていたけれど、正直なところその言葉をそのまま信じることはできなかった。
……どうしてこんな罪人みたいに扱われなくてはならないの?
魔の者討伐隊はあの強大な敵から人々を護る。
私も何度かお世話になった。
だからその存在を疑っているわけではない。
……でもこれは何かがおかしい。
話を聞きたい、それだけなのに、移動にここまでするものだろうか。
私もノワールも暴れているわけではないし真面目に歩いているのに、まるで犯罪者を移送する時かのように何人もで取り囲んで。
こんな形で道を歩くのは目立ってしまって恥ずかしい。
でも大丈夫、一人じゃないから。
「……何でついてきたの」
「一人だったら危ないでしょう?」
「あのさ……キミはボクを何だと思ってるわけ」
「大切な人!」
「……呆れた」
「一緒にいれば大丈夫ですよ、もし貴方の身に何かあっても私がきっと癒します!」
「相変わらず呑気だね……」
透き通るような空の下を歩く。
今はお出掛けのように軽やかな足取りにはなれない。
でもついてきて良かった。
あのままノワールを一人で行かせていたら、きっと、今頃凄く気になって心配になっていたと思う。
――やがて建物へ到着、ノワールは奥の部屋へ通されたが私はそちらへは行かせてもらえなかった。
「あの、コルトさん、私も……」
「すみませんが、こちらでお待ちください」
私はそれ以上奥へは入れてもらえなかった。廊下の長椅子に座っていなくてはならないことになってしまった。引き裂かれることに不満を抱きつつも、無理は言えないのでそこで一旦待機しておくことにした。
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少しして、コルトも奥の部屋へ行ってしまった。
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