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episode.12 女の敵は女
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「もうー……何なのアレ、怖いしキモいしー……」
「恐ろしい」
「やばいって、逃げろ!」
「建物に隠れながら走るのよ!」
「お、おう!」
「いやああああ」
「怖い怖い怖い……無理……」
街は騒然となっている。
私がいる大通りでない道ですら様々な声が飛び交って。
取り敢えず私は物陰に隠れながら移動することにした。なぜなら、アザが放つ光線に当たったら大変だからだ。それを避けるためには、物の陰を上手に利用して動かなくてはならない。怖いからと逃げることだけを考えていたら別の意味で危険なのだ、今回に限っては。
店の軒を利用しつつ、大通りへ少しずつ接近してみる。
あちらへ行ったノワールのことが気になるからだ。
あまり派手に動いてアザに気づかれないようにしなくてはならない、が、彼を放置するのもどうしても嫌で。
葛藤の果てに、少しだけ様子を窺うことにした。
少し近づけば大通りの様子が見えた――もう一般の人は避難したようで一般人はそこにはいない、が、逆に、アザによって操られてしまった人間はその広い場所へと進んでいっている。
目的がノワールを仕留めることだからか、アザの兵となった者たちは彼のところへ集まってきているようだ。
彼らに罪はないのだ……。
本当に、ただ操られているだけで……。
でも、今は敵なのだろう。
「さぁ~ぁ、可愛い兵士ちゃんたちぃ、仕留めちゃってぇ~!」
「……倒す!」
大通りで対峙するアザ・ト・レディーとノワール。
先に動いたのはノワールだった。
彼が左手の手袋を外せば、その手もとに黒い空間の歪みのようなものが発生する。
兵士となってしまった市民たちは一斉にそこへ引き寄せられる。
人間の重量というのはそこそこあるもののはずなのだが、その引き寄せられ方は、まるで紙くずか何かを引き寄せているかのようで。
一定数引き寄せてからその左手を左側へ軽く振り払うように動かす――すると、集められていた元市民たちは一斉にそちらの方向へ飛ばされた。
地面にぶつかった衝撃で正気を取り戻す者が多数いた。
アザは長い両手を振り回して近くにあった建物の一部分を破壊、そうして作り出した瓦礫をノワールに向けて次々飛ばしてくる。対するノワールは左手でそれらを引き寄せ人間への激突を防いだ。
「あのねぇ~、あたちぃ、死んでほしいんですよぉ~」
彼は飛び上がりアザに最短距離で接近。
右手にはアイスピック風の武器が握られている。
核の破壊――そのまま一気に決めるつもりだろうか?
だがアザも馬鹿ではなかった。少なくとも、不潔とか何とかばかり言っていたシテキよりかは知能が高いようで。一撃を狙うノワールの武器の先端を隠し持っていた石壁の破片で防ぎ、さらに腕を振り回してノワールを地面に叩き落とす。
「どうしてどうしてぇ~、本気出さないんですかぁ~? もう人間のふりなんてしてなくていいのにぃ~」
「……うっさいな、黙ってろよ」
「ま、でも、そっかぁ~、ぜ~んぶ吸っちゃいますもんねぇ~? 本気出したらぁ、人間の街なんてあ~っという間に野原になっちゃいますよねぇ~、うっふふ! やっぱりあたち、てんさぁ~い! 街に追い込んでぇ、大正解みたいですねぇ~」
アザはあざとい声で言葉を紡ぎつつノワールを嘲笑う。
「あ! もしかしてぇ、あの女の人本命なんですかぁ~? うふ、そうなんですねそうなんですね? 分かりますよぉ~? もしかしてっ、本当の姿を彼女に見られたくないんですかぁ? ま、彼女、あたちと比べればババアだけどぉ、可愛いですもんねぇ~」
何やら楽しそうなアザ。
「ええとぉ、ソレアさん、ですよねぇ? うふふ、女の子って聞いてるんですよぉ、聞いてないようでもちゃぁ~んとっ」
天まで届くほどの高い笑い方をしたと思ったら、直後、アザは急に地上のノワールに接近。ドレスごと地面へ突っ込み、ノワールを下敷きにして、地上に下り立つ。
「恋っていいですよねぇ~、弱くなるからぁ? お仕事らくち~ん、になっちゃいますよぉ~。うふ、ソレアさんには感謝しなくっちゃあ~」
アザが紡ぐ言葉は人間とさほど変わりないような気もするのだが、その明らかに人ならざる容姿ゆえ可愛いとはとても思えずかなり恐ろしい。
もはやぶりっこなど通り越して一種の狂気を感じる。
「でも、誰かを愛するなら何かを捨てなきゃ? じゃ、さようならぁ~」
握り拳を振り上げ、ノワールを叩き潰すような勢いで振り下ろす――だが。
「こんの……泥棒猫ォッ!!」
突然何かが宙を飛んでアザに突っ込んだ。
巨体が横へ揺らめく。
完全に倒れはせずぎりぎりのところでこらえたけれど。
――次の瞬間、地面に倒されたノワールの前に一人の女性が立っているのが見えた。
背は高く、太ももの横側にスリットの入ったセクシーな服を着ている、肩につくかつかないかくらいの丈の髪の女性だ。
「何やってんのよ!! このアタシを差し置いて!!」
腹の底から出したような力強い女声が空気を揺らす。
次の瞬間、女性は拳による打撃をアザに叩き込む。
するとアザはまた吹っ飛んだ。
とても人間の力とは思えない――しかし女性はノワールを護ろうとしているようなので敵というわけではなさそうだ。
それからの女性の猛攻は凄まじいものだった。
アザはみるみるうちに弱っていく。
周囲からは歓声が放たれる。
女性の活躍を応援し、また、勝利への希望に湧いているのだ。
最終的には女性がアザの耳からぶら下がったハートのイヤリングを引きちぎり握り潰し――それによってアザは倒された。
地面に下り立つ女性。
吹き抜ける一筋の風が、鋼鉄のような色をした髪を揺らす。
「恐ろしい」
「やばいって、逃げろ!」
「建物に隠れながら走るのよ!」
「お、おう!」
「いやああああ」
「怖い怖い怖い……無理……」
街は騒然となっている。
私がいる大通りでない道ですら様々な声が飛び交って。
取り敢えず私は物陰に隠れながら移動することにした。なぜなら、アザが放つ光線に当たったら大変だからだ。それを避けるためには、物の陰を上手に利用して動かなくてはならない。怖いからと逃げることだけを考えていたら別の意味で危険なのだ、今回に限っては。
店の軒を利用しつつ、大通りへ少しずつ接近してみる。
あちらへ行ったノワールのことが気になるからだ。
あまり派手に動いてアザに気づかれないようにしなくてはならない、が、彼を放置するのもどうしても嫌で。
葛藤の果てに、少しだけ様子を窺うことにした。
少し近づけば大通りの様子が見えた――もう一般の人は避難したようで一般人はそこにはいない、が、逆に、アザによって操られてしまった人間はその広い場所へと進んでいっている。
目的がノワールを仕留めることだからか、アザの兵となった者たちは彼のところへ集まってきているようだ。
彼らに罪はないのだ……。
本当に、ただ操られているだけで……。
でも、今は敵なのだろう。
「さぁ~ぁ、可愛い兵士ちゃんたちぃ、仕留めちゃってぇ~!」
「……倒す!」
大通りで対峙するアザ・ト・レディーとノワール。
先に動いたのはノワールだった。
彼が左手の手袋を外せば、その手もとに黒い空間の歪みのようなものが発生する。
兵士となってしまった市民たちは一斉にそこへ引き寄せられる。
人間の重量というのはそこそこあるもののはずなのだが、その引き寄せられ方は、まるで紙くずか何かを引き寄せているかのようで。
一定数引き寄せてからその左手を左側へ軽く振り払うように動かす――すると、集められていた元市民たちは一斉にそちらの方向へ飛ばされた。
地面にぶつかった衝撃で正気を取り戻す者が多数いた。
アザは長い両手を振り回して近くにあった建物の一部分を破壊、そうして作り出した瓦礫をノワールに向けて次々飛ばしてくる。対するノワールは左手でそれらを引き寄せ人間への激突を防いだ。
「あのねぇ~、あたちぃ、死んでほしいんですよぉ~」
彼は飛び上がりアザに最短距離で接近。
右手にはアイスピック風の武器が握られている。
核の破壊――そのまま一気に決めるつもりだろうか?
だがアザも馬鹿ではなかった。少なくとも、不潔とか何とかばかり言っていたシテキよりかは知能が高いようで。一撃を狙うノワールの武器の先端を隠し持っていた石壁の破片で防ぎ、さらに腕を振り回してノワールを地面に叩き落とす。
「どうしてどうしてぇ~、本気出さないんですかぁ~? もう人間のふりなんてしてなくていいのにぃ~」
「……うっさいな、黙ってろよ」
「ま、でも、そっかぁ~、ぜ~んぶ吸っちゃいますもんねぇ~? 本気出したらぁ、人間の街なんてあ~っという間に野原になっちゃいますよねぇ~、うっふふ! やっぱりあたち、てんさぁ~い! 街に追い込んでぇ、大正解みたいですねぇ~」
アザはあざとい声で言葉を紡ぎつつノワールを嘲笑う。
「あ! もしかしてぇ、あの女の人本命なんですかぁ~? うふ、そうなんですねそうなんですね? 分かりますよぉ~? もしかしてっ、本当の姿を彼女に見られたくないんですかぁ? ま、彼女、あたちと比べればババアだけどぉ、可愛いですもんねぇ~」
何やら楽しそうなアザ。
「ええとぉ、ソレアさん、ですよねぇ? うふふ、女の子って聞いてるんですよぉ、聞いてないようでもちゃぁ~んとっ」
天まで届くほどの高い笑い方をしたと思ったら、直後、アザは急に地上のノワールに接近。ドレスごと地面へ突っ込み、ノワールを下敷きにして、地上に下り立つ。
「恋っていいですよねぇ~、弱くなるからぁ? お仕事らくち~ん、になっちゃいますよぉ~。うふ、ソレアさんには感謝しなくっちゃあ~」
アザが紡ぐ言葉は人間とさほど変わりないような気もするのだが、その明らかに人ならざる容姿ゆえ可愛いとはとても思えずかなり恐ろしい。
もはやぶりっこなど通り越して一種の狂気を感じる。
「でも、誰かを愛するなら何かを捨てなきゃ? じゃ、さようならぁ~」
握り拳を振り上げ、ノワールを叩き潰すような勢いで振り下ろす――だが。
「こんの……泥棒猫ォッ!!」
突然何かが宙を飛んでアザに突っ込んだ。
巨体が横へ揺らめく。
完全に倒れはせずぎりぎりのところでこらえたけれど。
――次の瞬間、地面に倒されたノワールの前に一人の女性が立っているのが見えた。
背は高く、太ももの横側にスリットの入ったセクシーな服を着ている、肩につくかつかないかくらいの丈の髪の女性だ。
「何やってんのよ!! このアタシを差し置いて!!」
腹の底から出したような力強い女声が空気を揺らす。
次の瞬間、女性は拳による打撃をアザに叩き込む。
するとアザはまた吹っ飛んだ。
とても人間の力とは思えない――しかし女性はノワールを護ろうとしているようなので敵というわけではなさそうだ。
それからの女性の猛攻は凄まじいものだった。
アザはみるみるうちに弱っていく。
周囲からは歓声が放たれる。
女性の活躍を応援し、また、勝利への希望に湧いているのだ。
最終的には女性がアザの耳からぶら下がったハートのイヤリングを引きちぎり握り潰し――それによってアザは倒された。
地面に下り立つ女性。
吹き抜ける一筋の風が、鋼鉄のような色をした髪を揺らす。
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