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episode.13 星月の武人と癒しの天女
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アザ・ト・レディーは倒された。
突如現れた謎の美女によって。
周囲から聞こえてくるのは人々の安堵の声。巨大なる敵が沈黙したことで弱き者たちの日常に僅かながら平穏が戻る。そしてその波は次から次へと伝播してゆくのだ、人々を安堵という綿で包み込むかのように。
私はすぐに大通りへと向かった。
ノワールと合流したい、その一心で。
しかし、もう少しで彼の前に出られる、という時になって――私は衝撃的な光景を目にしてしまった。
「ノワ様ぁ、またこうしてお会いできて嬉しいですぅ~!」
先ほど圧倒的な強さを見せた美女が、まだ地面に尻をついたままのノワールに抱きついていたのだ。
「またこうしてお会いできて嬉しいですぅ~!」
またしても出た……。
今度は新しい人によるぶりっこアンドいちゃいちゃ……。
どうして今日はこんなにいろんなぶりっこ系女子に出会うのだろう!?
しかし二人の視界に入る距離まで足を進めてしまっていたので、今さら見なかったふりで別の方向へ進むことは難しい。
「あのさ……離れて、くれない?」
「ええー!? どうしてっ!?」
「……見られてるんだけど」
その言葉に、美女はくるりとこちらを向いた。
やはり美しい人だ。
近くで見てもなお、凛々しさをはらんだ美しさがある。
藍色を薄めた濃いグレーのような髪は肩につかない程度の長さで、しかし、頭部の後ろでは一ヶ所で結ばれていてハーフアップになっている。また、左耳を上がっていった辺りの位置には、月と星と二枚の羽根が合体したような髪飾りをつけていた。
瞳は華やかで鮮やかなやや青みがかったピンク色をしていて、睫毛はほどよく長い。紅は落ち着いたレッドだが、嫌みのない色みで、女性人気もありそうなかっこよく魅力的な顔立ちが完成している。
「あらぁ、アンタ誰? 何見てるのかしら」
「……あ、す、すみません急に」
「一般人よね? アタシに何か用かしら」
するとそこでノワールが「ボクの知り合い」と先に答えを発した。
「あら。ノワ様の?」
「ソレアっていうんだ」
「ソレア……ってまさか、アザ・ト・レディーが言っていた女!?」
月星の模様のタイトな衣装をまとっている彼女は勢いよく数歩で接近してくる。
「アンタ、ノワ様の何なの?」
近づける限り近づいてきたうえ、競争心を抱いたような目で見下してくる。
……怖いなぁ、いきなり。
「ちょっとルナ! 喧嘩売るなって」
ノワールはゆっくりと立ち上がると手袋を拾うために勝手に歩き出した。
「ノワ様? どうしてそんなこと仰るのですかぁ~!?」
「……あのさぁ、そういうのいいから」
「ああっ、心ないっ……! 好きィッ……!」
ルナと呼ばれた美女はあっさりした接し方をされてもなおうっとりしていた。
やがて、手袋を回収したノワールがこちらへ歩いてくる。
「ごめんソレア、厄介なことになって」
「いえ……無事で何よりよ」
「彼女はルナ。フルネームは、ルナ・ト・レック――魔の者なんだ」
ルナは腕組みをして不満げでありつつもどこか勝ち誇っているような顔をしてみせた。
「ま、そういうことよ。で、ノワ様とはどういう関係なのかしら。距離感が近くて不愉快なのだけれど」
「え……」
「何よ黙って。問いには答えなさいよ」
「私は、その、ある時たまたま出会ってそれで……今は色々あって、ノワールさんと一緒に暮らしているだけのただの女です」
簡単に説明したら。
「はあああ!?」
物凄い形相で大声を出されてしまった。
「ノワ様と一緒に!? 暮らしてる、ですって!?」
「あ、はい、あの……特別な関係なわけではありません」
「馬鹿じゃないの!? 一緒に暮らしてるとか!? もう十分特別な関係じゃないの!!」
ルナは感情を隠さない人だった。
どんな色でもすべて全力で出してくる――潔いくらい。
「あああ、もう……こんなことになってるだなんて……」
「そうでした、ルナさん、お怪我はありませんか?」
「はぁ? 何言ってんの?」
「戦いの後ですから。その……私、治癒魔法が使えますので。いつでも言っていただければ傷癒します」
魔法が使えることなんてどうせすぐにばれるだろう。自分から言ったとしても、そうでなくても、ほぼ同じ。ならばこの際先に言ってしまおう。
――そんな風に思ったのだ。
「そう。それが事実なのだとしたら、やるじゃない。じゃ、いいわ。ノワ様を早く回復して」
「何でボク」
「ほらソレア! できるなら今すぐやりなさいよ!」
なんだかんだで良い人なのだな。
そう思った。
だって、ノワールのことを何よりも優先して考えている。
そんな人だもの、悪い人なわけがない。
「遅いのよ。さっさとやってみせなさいよ」
「は、はい!」
取り敢えず今はルナの言う通りにしよう、そう思った。なぜなら、そうすれば少しは信頼してもらえるかもしれない、と考えたからだ。命令に従えば、嫌われ度を多少は減らせるかもしれない。
彼女がノワールの味方なのなら、知り合いになっておいて損はないだろう。
「ということで、治すわ!」
「……ここでやったら目立つ、恥ずかしいし、いいって」
「ルナさんに見ていただくためにも、ここは協力して!」
「ええー……」
「本当に嫌ならそう言って」
「いや、まぁ、べつに……そこまで嫌ってわけじゃないけど……」
もごもご言いながらも腕を持ち上げてくれたので、ノワールの脇腹付近へ手をやる。どこかのタイミングで地面で擦ったのか、深いグリーンの上着は破れその下に着ている白いシャツが赤く滲んだ状態で露出していた。腕のせいであまり目立っていなかったけれど。
「ではやります」
ノワールはいつものことなので慣れた様子だが、ルナはとても興味深そうに私の手もとをじっと見つめていた。
放たれる光。そして状態が巻き戻る。数秒で傷は癒える。
「治ったわね……」
ルナは怪訝な顔をしていた。
「これがソレアの力なの?」
「はい」
「そう。これは凄いわね……。想像以上だわ」
その後ルナは、魔の者たちのもとから急に去ったノワールを追ってこの街へたどり着いたのだと話してくれた。
突如現れた謎の美女によって。
周囲から聞こえてくるのは人々の安堵の声。巨大なる敵が沈黙したことで弱き者たちの日常に僅かながら平穏が戻る。そしてその波は次から次へと伝播してゆくのだ、人々を安堵という綿で包み込むかのように。
私はすぐに大通りへと向かった。
ノワールと合流したい、その一心で。
しかし、もう少しで彼の前に出られる、という時になって――私は衝撃的な光景を目にしてしまった。
「ノワ様ぁ、またこうしてお会いできて嬉しいですぅ~!」
先ほど圧倒的な強さを見せた美女が、まだ地面に尻をついたままのノワールに抱きついていたのだ。
「またこうしてお会いできて嬉しいですぅ~!」
またしても出た……。
今度は新しい人によるぶりっこアンドいちゃいちゃ……。
どうして今日はこんなにいろんなぶりっこ系女子に出会うのだろう!?
しかし二人の視界に入る距離まで足を進めてしまっていたので、今さら見なかったふりで別の方向へ進むことは難しい。
「あのさ……離れて、くれない?」
「ええー!? どうしてっ!?」
「……見られてるんだけど」
その言葉に、美女はくるりとこちらを向いた。
やはり美しい人だ。
近くで見てもなお、凛々しさをはらんだ美しさがある。
藍色を薄めた濃いグレーのような髪は肩につかない程度の長さで、しかし、頭部の後ろでは一ヶ所で結ばれていてハーフアップになっている。また、左耳を上がっていった辺りの位置には、月と星と二枚の羽根が合体したような髪飾りをつけていた。
瞳は華やかで鮮やかなやや青みがかったピンク色をしていて、睫毛はほどよく長い。紅は落ち着いたレッドだが、嫌みのない色みで、女性人気もありそうなかっこよく魅力的な顔立ちが完成している。
「あらぁ、アンタ誰? 何見てるのかしら」
「……あ、す、すみません急に」
「一般人よね? アタシに何か用かしら」
するとそこでノワールが「ボクの知り合い」と先に答えを発した。
「あら。ノワ様の?」
「ソレアっていうんだ」
「ソレア……ってまさか、アザ・ト・レディーが言っていた女!?」
月星の模様のタイトな衣装をまとっている彼女は勢いよく数歩で接近してくる。
「アンタ、ノワ様の何なの?」
近づける限り近づいてきたうえ、競争心を抱いたような目で見下してくる。
……怖いなぁ、いきなり。
「ちょっとルナ! 喧嘩売るなって」
ノワールはゆっくりと立ち上がると手袋を拾うために勝手に歩き出した。
「ノワ様? どうしてそんなこと仰るのですかぁ~!?」
「……あのさぁ、そういうのいいから」
「ああっ、心ないっ……! 好きィッ……!」
ルナと呼ばれた美女はあっさりした接し方をされてもなおうっとりしていた。
やがて、手袋を回収したノワールがこちらへ歩いてくる。
「ごめんソレア、厄介なことになって」
「いえ……無事で何よりよ」
「彼女はルナ。フルネームは、ルナ・ト・レック――魔の者なんだ」
ルナは腕組みをして不満げでありつつもどこか勝ち誇っているような顔をしてみせた。
「ま、そういうことよ。で、ノワ様とはどういう関係なのかしら。距離感が近くて不愉快なのだけれど」
「え……」
「何よ黙って。問いには答えなさいよ」
「私は、その、ある時たまたま出会ってそれで……今は色々あって、ノワールさんと一緒に暮らしているだけのただの女です」
簡単に説明したら。
「はあああ!?」
物凄い形相で大声を出されてしまった。
「ノワ様と一緒に!? 暮らしてる、ですって!?」
「あ、はい、あの……特別な関係なわけではありません」
「馬鹿じゃないの!? 一緒に暮らしてるとか!? もう十分特別な関係じゃないの!!」
ルナは感情を隠さない人だった。
どんな色でもすべて全力で出してくる――潔いくらい。
「あああ、もう……こんなことになってるだなんて……」
「そうでした、ルナさん、お怪我はありませんか?」
「はぁ? 何言ってんの?」
「戦いの後ですから。その……私、治癒魔法が使えますので。いつでも言っていただければ傷癒します」
魔法が使えることなんてどうせすぐにばれるだろう。自分から言ったとしても、そうでなくても、ほぼ同じ。ならばこの際先に言ってしまおう。
――そんな風に思ったのだ。
「そう。それが事実なのだとしたら、やるじゃない。じゃ、いいわ。ノワ様を早く回復して」
「何でボク」
「ほらソレア! できるなら今すぐやりなさいよ!」
なんだかんだで良い人なのだな。
そう思った。
だって、ノワールのことを何よりも優先して考えている。
そんな人だもの、悪い人なわけがない。
「遅いのよ。さっさとやってみせなさいよ」
「は、はい!」
取り敢えず今はルナの言う通りにしよう、そう思った。なぜなら、そうすれば少しは信頼してもらえるかもしれない、と考えたからだ。命令に従えば、嫌われ度を多少は減らせるかもしれない。
彼女がノワールの味方なのなら、知り合いになっておいて損はないだろう。
「ということで、治すわ!」
「……ここでやったら目立つ、恥ずかしいし、いいって」
「ルナさんに見ていただくためにも、ここは協力して!」
「ええー……」
「本当に嫌ならそう言って」
「いや、まぁ、べつに……そこまで嫌ってわけじゃないけど……」
もごもご言いながらも腕を持ち上げてくれたので、ノワールの脇腹付近へ手をやる。どこかのタイミングで地面で擦ったのか、深いグリーンの上着は破れその下に着ている白いシャツが赤く滲んだ状態で露出していた。腕のせいであまり目立っていなかったけれど。
「ではやります」
ノワールはいつものことなので慣れた様子だが、ルナはとても興味深そうに私の手もとをじっと見つめていた。
放たれる光。そして状態が巻き戻る。数秒で傷は癒える。
「治ったわね……」
ルナは怪訝な顔をしていた。
「これがソレアの力なの?」
「はい」
「そう。これは凄いわね……。想像以上だわ」
その後ルナは、魔の者たちのもとから急に去ったノワールを追ってこの街へたどり着いたのだと話してくれた。
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