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2話「猫のような生物に出会いました」
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ふと目が覚めた時、私は知らない場所にいた。
天井と壁は凹凸の多い黒い岩でできていて、明かりは火を灯した蝋燭を器に置いたものが使用されている。私が寝かされているのはどうやら普通のベッドのようだ。ただ、ベッド以外の部分の素材が、明らかに普通でない。
私は過去の記憶を辿る。
アルベール王国を追い出されて、城から出ていって、それで……。
せっかく忘れられそうだったのに、嫌なことを思い出してしまった。もう必要ない、と直接言われた、苦々しく辛い思い出。できれば思い出したくなかった記憶だ。
溜め息を漏らしつつベッドの上にとどまっていると、何かの気配を感じ取った。
何だろう? と思い、そちらへ視線を向ける。
すると、外へ通じていると思われる穴のようなところから、柔らかそうな毛に包まれた黒い生物がやって来ているのが見えた。
頭部だけになった猫に二枚の翼を生やしたような生物。可愛いが謎が多い。
「起きたミャウ?」
おっと、話し方まで謎だ。
語尾にミャウなんて付けている人とは今まで一度も出会ったことがない。いや、そもそも、ミャウと付けることの必要性が掴めない。それ自体に意味はないのだから、付けても付けなくても同じではないのだろうか。
「あ……えっと、あなたは?」
「ボクタンはミャーウーだミャウ!」
「……そのままですね」
「あーっ! 何その言い方、馬鹿にしてるなぁーミャウ!」
語尾に無理矢理ミャウを付けてくる辺り、突っ込みどころ満載である。
「何だか、可愛い方ですね」
一応そう言ってみると、ミャーウーは顔面を赤く染め「ミャウンッ!」と爆発するような声を発した。もちろん、本当に爆発はしていないけれど。どうやら照れているようだ。
「ミャーウーが拾ったミャウ! 感謝するミャウ!」
「あ、そうだったのですか。ありがとうございました」
お礼を述べると、ミャーウーはまたしても「ミャウンッ!」と奇妙な声を発した。
容姿もあいまって何だかおもちゃみたい。見ているだけで自然と癒やされる。不思議なことだけれど、嫌な感じはしない。
いずれにせよ、拾ってもらった恩があることは事実だ。その相手に対して名乗らないというのは、無礼にもほどがあるだろう。そう考え、自ら名乗ることにした。
「私はフレイナ・カモミールといいます」
「ンニャッ!?」
「え……?」
「まっ、ましゃかっ……アルベールの聖女ミャウ!?」
予想外に驚かれてしまった。
「はい、かつてアルベールの聖女でした。でも、今はもう違います」
私ははっきりと述べる。
今はもう聖女でない。そう言うことに、躊躇いはなかった。
いや、むしろ、はっきりと言ってやりたい気分だ。もう聖女ではない、口にすることで多少は心が楽になる……ような気がする。あくまで、気がする、だが。
「私はアルベールから追い出されました。聖女はもう必要ないそうです」
「ンニャ!? ホントミャウ!? 怪しいミャウンッ!!」
「本当です。……つきませんよ、こんな変な嘘なんて」
天井と壁は凹凸の多い黒い岩でできていて、明かりは火を灯した蝋燭を器に置いたものが使用されている。私が寝かされているのはどうやら普通のベッドのようだ。ただ、ベッド以外の部分の素材が、明らかに普通でない。
私は過去の記憶を辿る。
アルベール王国を追い出されて、城から出ていって、それで……。
せっかく忘れられそうだったのに、嫌なことを思い出してしまった。もう必要ない、と直接言われた、苦々しく辛い思い出。できれば思い出したくなかった記憶だ。
溜め息を漏らしつつベッドの上にとどまっていると、何かの気配を感じ取った。
何だろう? と思い、そちらへ視線を向ける。
すると、外へ通じていると思われる穴のようなところから、柔らかそうな毛に包まれた黒い生物がやって来ているのが見えた。
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「起きたミャウ?」
おっと、話し方まで謎だ。
語尾にミャウなんて付けている人とは今まで一度も出会ったことがない。いや、そもそも、ミャウと付けることの必要性が掴めない。それ自体に意味はないのだから、付けても付けなくても同じではないのだろうか。
「あ……えっと、あなたは?」
「ボクタンはミャーウーだミャウ!」
「……そのままですね」
「あーっ! 何その言い方、馬鹿にしてるなぁーミャウ!」
語尾に無理矢理ミャウを付けてくる辺り、突っ込みどころ満載である。
「何だか、可愛い方ですね」
一応そう言ってみると、ミャーウーは顔面を赤く染め「ミャウンッ!」と爆発するような声を発した。もちろん、本当に爆発はしていないけれど。どうやら照れているようだ。
「ミャーウーが拾ったミャウ! 感謝するミャウ!」
「あ、そうだったのですか。ありがとうございました」
お礼を述べると、ミャーウーはまたしても「ミャウンッ!」と奇妙な声を発した。
容姿もあいまって何だかおもちゃみたい。見ているだけで自然と癒やされる。不思議なことだけれど、嫌な感じはしない。
いずれにせよ、拾ってもらった恩があることは事実だ。その相手に対して名乗らないというのは、無礼にもほどがあるだろう。そう考え、自ら名乗ることにした。
「私はフレイナ・カモミールといいます」
「ンニャッ!?」
「え……?」
「まっ、ましゃかっ……アルベールの聖女ミャウ!?」
予想外に驚かれてしまった。
「はい、かつてアルベールの聖女でした。でも、今はもう違います」
私ははっきりと述べる。
今はもう聖女でない。そう言うことに、躊躇いはなかった。
いや、むしろ、はっきりと言ってやりたい気分だ。もう聖女ではない、口にすることで多少は心が楽になる……ような気がする。あくまで、気がする、だが。
「私はアルベールから追い出されました。聖女はもう必要ないそうです」
「ンニャ!? ホントミャウ!? 怪しいミャウンッ!!」
「本当です。……つきませんよ、こんな変な嘘なんて」
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