母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?

四季

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7話「朝と手伝い」(2)

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 それからかなり時間が経ち、昼が近づいてきた頃。
 トウロウがやって来た。

「あー、やっと起きれましたよ」

 彼はまだ寝巻きのまま。家族以外の他人の前に出るような服装ではない。毛もボサボサになったままだし、服装もだらけている感じがたっぷりだ。きちんとしている要素は欠片も存在していなかった。変な意味ではないが、とにかくだらしない。

「トウロウさん……! 自力で起きたのですね」

 彼が部屋から出てきた時、私は入り口から入ってすぐのところにあるテーブルを拭いている最中だった。特にすることがなく暇だったので、アカリに言って手伝いをさせてもらっていたのである。布巾でテーブルの上を綺麗に拭いていく、という作業の最中だった。

「起きれましたー」
「……まだ起こしに行けてなくてすみません」
「いや、べつにいいですよ。元々期待してはなかったんで」

 腹立つ! 何よ、その言い方! ……と苛立ちつつも、涼しい顔で会話を続ける。

「で、それは何してるんですか? 労働?」

 トウロウは私がテーブル拭きをしていることに気づいたらしく、おかしなものを見たかのような顔をする。

「労働じゃありません! お手伝い、です!」

 ここで「労働」なんて言ったら、まるでアカリが私を働かせているかのような感じになってしまう。だから私ははっきりと「お手伝い」と言っておいた。お手伝いという表現であれば、誤解も生まれないはずだ。

「アカリさんどこか知ってます?」
「あ、キッチンの方に」
「なるほど。分かりましたー」

 私とトウロウの会話は相変わらず素っ気ない雰囲気。特別仲が悪いわけではないはずなのだが、楽しい雰囲気にはどうしてもなれない。私とて、彼といつまでも険悪でいたいわけではないのだけれど。


「マコトさん、どこか出掛けません?」

 テーブル拭きが終わりホッとしていると、トウロウがいきなりそんなことを言ってきた。
 私はつい怪しむような視線を向けてしまう。

「……これまた唐突ですね。私のこと、嫌だったんじゃないんですか」

 一言余計なものを付け加えてしまう。
 必要ないと分かっていても、止められはしない。

「あー、まぁ、そうですね。見た感じ、好みではなかったです。でも、アカリさんに怒られたんで、心はもう入れ替えました」

 トウロウは私が吐き出した毒にもさほど動じなかった。心を乱すことなく、冷静さはある程度保って、さらりと言葉を返してくる。言葉の毒は彼には効かないのかもしれない。

「あの時はすみませんでした。いきなり」

 私は内心驚いた。
 彼がすんなり謝罪してきたからだ。

「……謝るんですね、意外です」

 私がそう述べると、トウロウは眉をひそめる。
 ……あくまで位置的にであって、そこが本当に眉なのかどうかははっきりしないが。

「何ですかそれ。こっちこそ、失礼じゃないですか。僕だって謝る時は謝りますよー」
「私、口が悪いので。貴方の思い通りにはならないと思います」
「それで、どうなんですか? 出掛けるか出掛けないか、はっきりして下さいよ」

 トウロウは相変わらずだ。一切躊躇することなく、言いたいことを言ってくる。相手への思いやりや配慮なんて、小指の爪ほどもない。
 ただ、私もさすがに、そろそろ慣れてきた。
 最初の頃はことあるごとに苛立っていたけれど、今なら流すことができる気がする。

「出掛けるって、どこへ行くんですか?」
「……いやー考えてなかったです」
「考えていない!? 考えもせずに誘ったんですか!?」
「あぁ、はい。まぁ……そうですけど」

 行きたいところがあって誘ってきているのかと思っていたのだが、そうではなかったらしい。

 でも、出歩いてこの世界のことを知るのは悪くないかも?

「分かりました。行きましょう」

 いつになったらこの和風に似た服を脱ぐことが認められるのだろうか。この格好は動きづらいので、散策するなら元の服装に戻りたい。が、今まとっている服をここで脱ぎ出すわけにもいかないから、まだしばらく元の服には戻れそうになかった。諦めるしかないのか。

「では、二人で出掛けると、アカリさんに伝えてきますね」
「もう言ってますよー」
「え! そうなんですか!」
「はい。あとは出発するだけーです」
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