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前編
しおりを挟む「君が我が国を繁栄させてくれるのか?」
「どうやらそのようです。と言いましても、私自身そこまで詳しく分かってはいないのですが」
聖女の力を受け継ぐ私ミッシェラは十九歳の時に王子フレグロンスと婚約することとなった。
「そうか」
「はい」
思えばあの頃は希望に満ちていた。
フレグロンスとゆくゆく夫婦になれる。
なぜだから分からないけれど、そのことに嬉しさを感じていたのだ。
「ではよろしく頼むぞ」
「はい!」
もしかしたらあの頃の自分は馬鹿だったのかもしれない。だからこそ敷かれたレールを希望を持って辿ることができた。とても自分の意思とは言えぬその道を、希望という名の光を携えて突き進むことができたのだろう。
愚かさゆえに。
――だがそのような甘い幻想はすぐに打ち砕かれた。
「こんなことしてていいの? 婚約者は?」
「いいんだよあいつは。どーせ形だけの婚約だから。彼女に気を遣う必要なんてないない」
「ふぅん、そうなの」
「だからさ! 今夜も全力で楽しもうぜ!」
「そうねそうしましょう」
フレグロンスには私よりも愛している女性がいたのだ。
そう、私との婚約には結局愛など欠片ほどもなかったのだ。
――それから数ヶ月が経ったある日、私はフレグロンスに珍しく呼び出されたのだが。
「悪い、彼女と結婚することにした」
「え!?」
「まぁ……つまり、そういうことだ」
「ええっ」
「ということで、ミッシェラ、君との婚約は破棄とする!」
そんな風に告げられてしまった。
しかもフレグロンスの隣にはあの時愛しいちゃついていた女性がいる。
「君はもう必要ないよ。だから去ってくれ。な? それでいいだろう」
「……そんな、どうして」
「国を護ることより愛を貫くことを優先することにしたんだ」
「そう、ですか……」
ああ、見つめていた希望が崩れてゆく……。
でも仕方ない、か。
ここで何を言っても彼の心を手に入れることなどできやしないのだから。
「分かりました」
すべてを諦め、私はそれだけ返した。
もっと気の利いたことを言ってやれたなら良かったのだけれど、思考がとまってしまっているのでそれ以上のことは何も発せなかった。
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