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12話「この力、愛するもののために使います」

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 だがその日以降状況が一変した。
 ルミッセルや国王のいるあの国が、クロミヤスに攻め込んできたのである。

 近く平穏を脅かすと思われる魔物を一掃する。

 それがかの国が言っている侵攻理由であった。

 つまり、魔物を滅ぼそうとしているのである――もっとも、本当の理由はそこではないのだろうが。

 その日は朝から皆いつもと様子が違っていた。城内は何だか騒々しくて。また、ありとあらゆる空間が緊迫感のある空気で満たされているようで。話を聞く前から異変に気づいたほどであった。

「バーレットさん! 侵攻だなんて……大丈夫なのですか!?」

 私は思わず彼に会いに行ってしまった。

 迷惑と分かってはいて。
 でもじっとしていられなくて。

「ああローゼマリン様」
「聞きました、あの国が攻めてきていると」
「おや、もう情報がいっていたようですな。実に早い」
「はい。何だか様子がおかしかったのでプレアさんに質問してみたのです。それであの国が攻めてきていることを知りました」

 今は愛おしく思っているこの国の危機、それは私にとっても重大なことだ。

 だから放っておくことなんてできない。

「そうでしたか」
「あの……私、戦います!」
「おや」
「魔法を使います、この国のために」

 生まれてこのかた戦闘なんてしたことがない。
 それでも強力な魔法は使える。
 この力、今クロミヤスのために使わずしていつ使うというのか。

 バーレットだって、最初からそれを求めていた。

「力にならせてください!」

 破壊的な、破滅的な、この力。
 どうせなら護るために使いたい。

 ――そう、この居場所を護るために。

 だが。

「……気が早いですな」

 バーレットにはそんな風に言われてしまった。

 けれども、彼が言おうとしていることは、私が思っていたこととは僅かにずれていて。

「どうして……」
「まだ今はその時ではありません」
「そういうこと、ですか」
「いずれその時は来るでしょう。よければその時に――偉大なるお力、お借りしたいものですな」

 私は「必要ない」と言われているのではなかった。

 むしろ、一つの切り札として考えられていた。

「はい! いつでも! 必要であれば、任せてください」

 嬉しかった、必要とされていて。

 この力はこれまで私を救ってはくれなかった。そして光へ導いてもくれなかった。正直なところ、この力のせいで災難に巻き込まれているくらいで。私にとってこの魔法の才というものは迷惑と思ってしまうような存在だった。

 でも、ここでなら、きっとこれは役に立つ。

 愛する人、愛する国、そういったものを護るためにこれが使えるのなら――そんなに幸せなことはない。

「本当に、助かりますよ。ありがとうと申し上げるべき、ですな――ローゼマリン様」
「いえ、私も、ここを護るため魔法を使えるなら嬉しいです。こちらこそ……生きる意味をくださってありがとうございます」

 これからどうなるのだろう、そんな不安は確かにある。
 でも、それでも、今は未来を信じられる。
 そして、その信じた未来のために生きようと思う心もまた、確かにこの胸に宿っているのだ。

 乗り越えよう、何が起きても。

 きっとその先に光があるから。
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