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4話「独自の?」
しおりを挟むバルブシーズと過ごしているうちに涙は消えていた。
あの後彼に仕事が入ったために別れることとなったのだけれど、その時の私は少しだけ心が変わっていて――もしまた会えたらどんな話をしようかな、なんて思うようになっていた。
これって、彼との時間が楽しかったということ?
自分でも驚きだ。
だって、彼と関わる気なんてなかった。それよりも早くあちらの世界に戻りたくて。ここの世界で誰かとつるむ気なんてなかったし、仲良くなりたいとも欠片ほども思っていなかった。心なく扱われるよりからは丁重にもてなされる方が良いことは事実だとしても、この世界の者とそれ以上の関わりを持とうなんて少しも考えてはいなかったのだ。
でも、気づけば私の心は少し変わっていた。
ちょっと話しただけなのに、馬鹿ね――そう思うけれど、今、バルブシーズのことが若干気になっている。
それで、彼のことを知ろうと思ってこっそり活動していたところ、彼には少し前まで婚約者がいたということが判明した。
まぁ当然か、国王なのだから。
若いとはいえ国の頂に立つ者だ、妻だって必要だろう。
ただ、その婚約は破棄となったらしい。
何でも、その女性に好きな人ができたのだとかで。
それでバルブシーズは一方的に婚約破棄された、というような話が流れていた。
国王との婚約を勝手に破棄するなんてことができるのだろうか?
疑問に思って、今度会ったら直接聞いてみようと考えていたら――。
「エノミヤ殿、今夜食事はどうだろう」
意外な提案が飛び込んできた。
「共に、食事をしないか?」
「私と……ですか」
「ああそうだ」
「えっ、と……それは、その……構わないのですか? 私などがご一緒するなんて」
「こちらが誘ったのだから問題はない」
でも、これはチャンスかもしれない。
二人で食事をすれば気になっていることについて尋ねることだってできるかもしれない。
「では……ぜひ」
「よし! 決まりだな」
バルブシーズは子どものように嬉しそうな顔をしていた。
――そして、食事の間にて。
「ではいただこうではないか」
「そうですね」
食事を前に、自然と「いただきます」と言ってしまって。不思議な生き物を見たような目をされてしまう。この国には「いただきます」に似たような文化はないみたいだ。
「それはあちらの国の風習か?」
早速尋ねてくるバルブシーズ。
「そうですね、食事の前にすべてのものに感謝を」
国には国の風習があるものだ。
この国にだって、きっと、この国独自の風習があるはず。
「おお……! 宗教儀式か」
「いえ、そこまではいきません。ただ、大体は、家で親からそう言うように習うものなのです」
「ほう。暮らしに根付いた風習なのだな」
「そのような感じです」
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