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前編
しおりを挟む「ど、どうして、こんなこと……」
その夜、婚約者アドゼフの自宅前にて目撃してしまった。
「なっ……!? なぜここにお前が……」
「聞きたいのはこちらですよ。どうして貴方はそんな風に女性を抱き締めているのですか? 婚約者がいる身だというのに」
――そう、アドゼフが美しい金髪の女性を抱き締めているところを。
「ちょーっとぉ、アドゼフ、これは一体どういうことなのぉ?」
「あ! いや! 違うんだ! いや、違って、これはっ……」
どうやら女性には婚約者のことは黙っていたようだ。
どこまでも狡い男だ。
二人同時に手を出すなんて。
話にならない。
誠実さの欠片もない。
「どういうことよぉ、婚約者はいないって言っていたじゃないのぉ。もしかして……アドゼフ、嘘をついていたのぉ?」
「う、嘘じゃない! こいつとは冷えきっているんだ!」
「そうなのぉ? 本当にぃ?」
「本当だよ! 嘘はつかないッ」
「じゃあまぁべつにそれでもいいけどぉ……でも、婚約者がいる身でこんなことをしてるような人とは関わりたくないからぁ……」
やがて女性はアドゼフから身を離す。
そして。
「ごめんだけどぉ、ばいばい」
さらりとそんなことを言った。
「え……」
「アドゼフとはもう会わないわぁ」
「ちょ、ど、どうして! どうして!? お願い待ってよ! まだまだ一緒にいたいのに!」
「婚約者がいるんでしょ? だったらその人に誠実に生きなさいよ」
金髪女性は意外にドライな人だった。
想定外の展開だ。
しかし女性はアドゼフを切り捨てた。
まさかの流れであった。
女性は去ってゆき、夜の闇に私とアドゼフだけが残される。
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