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後編
しおりを挟む「アドゼフさん、がっかりしました」
「ごめん……ちょっとした遊び心で……」
「遊び心? そんなもの言い訳にはなりません、少しも」
「う、うん……ごめん……」
これはもう言わざるを得ない。
「ということで、婚約は破棄とします」
月の光に照らされながら、私はそう宣言した。
当たり前だろう?
裏切っていたのだから。
関係を続けてゆくなんてことは、どうやってもできない。
「お願いします……許して、ください……もうしません、遊びませんから……お願いです、どうか、どうか……お許し、ください……」
アドゼフは地面に倒れ込むかのように座り込む。
そして両手を地面についた。
頭をゆっくり前向けに倒し謝罪する。
「許すなど不可能です」
だがもう手遅れだ。
私は彼を許さないし許せない。
「そん、な……ごめんなさいと謝っている、のに……それなのに、どうして、どうして……許してくれないんですか……」
「貴方が裏切ったからですよ」
「本当に、ただの、遊びだったんです」
「知りませんよそんなこと。遊びか本気かなんて。――では私はこれで、さようなら」
私は彼の前から去る。
もう共には歩めない――どこまでも強くそう思っていたからこそ、何を言われても振り向かなかった。
◆
あの時アドゼフに執着していなくて良かった。
というのも、あの後良い出会いがあったのだ。
結論から言おう。
急な雨に降られ雨宿りしていたところ偶然出会った彼と親しくなり、そこから関係は順調に進んで、結婚できたのだ。
彼は資産家の子息であり、経済的な苦を知らない人だった。
ただ、大人しさゆえに子ども時代理不尽に虐められていた頃があったそうで、それゆえ人の心の痛みというものには敏感な人である。
傷つけられた経験があるからこそ他者に対して優しくなれるもの。
彼はそれを体現したような人物である。
ちなみにアドゼフはというと、自分に非があって婚約破棄されたという話が世に流れたために評判を大幅に下げることとなったようだ。で、それによってまともな女性からは相手にされなくなってしまって。声をかけても関わろうとしても流されてしまうようになっていったようだ。
孤独に見舞われたアドゼフ。
以降、彼は徐々に心を病んでいったらしい。
◆終わり◆
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