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前編

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 ノックして婚約者の部屋へ入る。

 刹那、私は目にしてしまった——生まれたままの姿で身を重ねる、婚約者と見知らぬ女の姿を。


 ◆


「彼女はどなたですか? どうしてそんなことになっているのですか?説明してください」

 私、ローズ・フォリアは、婚約者と彼と親しくする女性を逃がしはしなかった。
 何がどうなってこうなったのか説明してもらうまでは自由にさせることはできない。当然だろう。最低でも、話を聞かせてもらう。

「何だよローズ、こんなくらいどうでもいいだろ」
「よくありません」
「喧嘩売ってんのか?」
「それはこちらの台詞です。それより、事情を説明してください」

 婚約者ガイエルはいつもこんな風だ。私が真剣に話そうとしても、ごちゃごちゃ言って話から逃れようとする。少しもきちんと話そうとしない。また、こちらがさらに問い詰めると、大抵大声を発し始める。威嚇するかのように。

 ガイエルの親の頼みで私は彼と婚約した。
 こちらの方が有利な立場だ、私はいつでも婚約破棄を告げることができる。

「あーあーうるせー。遊びだよ、遊び。ちょっと遊んでただけだろ、文句多いな」
「そうなのですか?」

 私は女性の方へと視線を向ける。
 女性は四十代くらいだろうか、地味めな容姿の人である。ただ胸は大きい。もっとも、重力には逆らえず垂れているのだけれど。

「私は彼を好きになったのです。たとえ遊びだとしても……それでも良かった……」

 やはり本気ではないか。

 ガイエルが本気であるか否かは不明。ただ、相手の女性が本気であったことは事実。片方が本気になっているなら、完全に遊びとは言えないだろう。完全に遊びなのだと言うなら、双方がそういうことで納得していなければ。
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