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前編

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「将来絶対結婚しような!」

 幼馴染みアドレッドはたびたびそう言ってくれていた。

「うん!」

 私もその気でいた。
 彼のことは嫌いではなかったから。

 そうして私たちは婚約した、のだが――。

「俺さ、彼女と生きることにしたから」

 二十歳になって数ヶ月が経ったある日のこと、アドレッドは女連れで私の前に現れそんなことを言ってきた。

「え……」
「婚約は破棄な」

 言って、彼は隣の女と見せつけるようにキスをする。

「俺たち、愛し合ってるんだ」
「ごめんなさいねぇ? 婚約者さん。でもぉ、本当に愛されてるのはわたしだと思いますぅ」

 ――私には撤退しか選択肢がなかった。

 だがその後、アドレッドの両親が息子の身勝手な婚約破棄宣言を知り激怒。父親は特に怒っていたようで。怒りの感情の波に乗った父親を止められる者はどこにもおらず、最終的に、アドレッドとあの女は別れさせられることとなったそうだ。

 そして私はアドレッドの両親から謝罪を受けることとなる。

 それ自体は受け入れた。彼の両親の「申し訳ない」という気持ちには理解できる部分が多かったからである。それに、単に謝罪されているだけなのにそれを受け入れない理由もない。謝られればその意思は受け入れる、世の中そういうものだろう。

 ただ「もう一度婚約する」という提案は拒否した。

 だって私はもうアドレッドを愛せない。
 とうに彼は裏切り者となってしまったから。

 償いの金だけ貰って、私は未来へと進むことを選択した。

 未知である未来へ一人で行くのは怖い。
 けれども過去に縋りつくのは嫌で。
 だから私はただ前だけを見据えて歩いてゆくことを選択したのだ。

 悲しみは胸の奥にしまって。

 新しい物語の幕を開けよう。
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