プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.29 ハートでバトル

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 かつて盾のキャッスルでの戦いの際に見かけた顔――確か名は、ミクニ。

「かわされてしまうなんて……驚き、そして、意外ね」

 凛々しさと艶やかさが同時に存在しているような目つき、青く塗られた瞼、血のような口紅。派手な凹凸のある身体つきではないものの、かっこよさも含まれているかのような独特の色気をまとっている。

 ミクニはその場でゆっくり立ち上がると、身体の前面を私たちの方へと向ける。
 長い髪がさらりと流れた。

「情けをかけて一撃で仕留めてあげようと思っていたのに……」
「な、な、何なんですか! 貴女! いきなり攻撃してくるなんて最低ですーっ!!」

 ミクニの言葉を遮るように声を発したのは愛のプリンセス。
 彼女はいつの間にか私の身体から離れていた。
 敵を恐れている、というような言動をしていたのが嘘のようだ。先ほどまでとはまったく違う顔つきになっている。涙で潤んでいた目もとには力が宿り、眉尻がぐっと上がっている。

「うるさい小娘ね」
「はいっ!? うるさいとかさすがに腹立ちますよ!! ここはアイアイのキャッスルですから! 貴女のキャッスルじゃないですから! いい加減にしてくださいーっ!」

 愛のプリンセスは驚きの長台詞を一息で吐いた。
 ミクニは馬鹿にするように小さく、ふっ、と笑みをこぼす。それから、携えている武器の尖った部分を、威嚇するかのように私たちの方へ向けてくる。

「あたしの復活祭に花を添えてちょうだい」

 武器を持っているのとは逆の手、左手の指をぱちんと鳴らす。
 するとミクニの背後に全身黒の敵が多数出現する。

「さぁ!」

 ミクニが圧をかけるように放つ。
 それを合図として、全身を黒いもので覆っている者たちが一斉にこちらへ進んできた。

「愛のプリンセスさん! 来ますよ!」
「大丈夫! フレレは後ろにいてください!」

 妙に威勢がいい。

「アイアイを怒らせたこと、後悔させてやりますーっ!」

 敵たちは迫り来る。が、愛のプリンセスは恐れも怯みもしない。開いた二つの手のひらを敵たちの方へと突き出せば、そこからピンクのリボンが大量に発生する。不思議な原理で発生したリボンそれぞれが敵たちを縛り上げる。

 これが愛のプリンセスの力なのだろうか。

 そんなことを考えていたのも束の間、武器を携えたミクニが愛のプリンセスに向かって直進していっているのが見え密かに焦る。

 が、愛のプリンセスは大きなピンクのハートを出し、ミクニの武器の先をとめた。

「なっ」
「アイアイをあまり怒らせないでください。……せーのっ」

 ほんの僅かに間を空け。

「はっ!」

 愛のプリンセスが発するのとほぼ同時に、武器を受け止めていたハートからピンクの光線が放たれた。

 ミクニはすかさず盾のような部分で防ぐ。
 その次の瞬間、ミクニはピンクのリボンに全身を拘束されていた。

「っ……!」

 詰まるような息をこぼすミクニ。

「企みは何なんですか? いきなり攻撃してくるなんて失礼じゃないですか」

 愛のプリンセスは動けないミクニに真剣かつ冷ややかな視線を向ける。
 溌剌とした平常時の彼女とは明らかに様子が違っている。

 しかしながら愛のプリンセスの戦い方法には驚いた。特殊な力を随分使いこなしているではないか。雑魚敵の群れをリボンであっさりと無力化したと思ったら、実力者ミクニの動きまで止めてしまった――それも、いとも容易く。

 この感じだと私の出る幕はないかもしれない。
 もっとも、できるならばその方が良いのだが。

「企み? いいわ、教えてあげる。あたしたちの目的はすべてのキャッスルを奪い取ることよ」
「何ですかそれー。最低ですね」
「ふん、何とでも言っていなさい」
「はいーっ? 強がって馬鹿みたいですねっ。アイアイがその気になって攻撃すれば貴女は死ぬんですよ? それを分かって――ッ!!」

 愛のプリンセスの頭上から凄まじい勢いで何かが降りてくる。
 何かがぶつかり合うような音が響く。
 降下してきていた女性が右手に着用している爪のような武器と、愛のプリンセスが咄嗟に出した防御に使えるピンクのハート――どうやらそれらがぶつかり合ったということのようだ。

 ここにきてまたしても新手とは。

「あぁもう、次々鬱陶しいですねーっ! ……って、あれ?」

 きょとんとする愛のプリンセスをよそに、女性はミクニの方へと駆ける。そして、拘束されたミクニの近くにまで辿り着くと、爪でリボンを引っ掻いた。それによってミクニを拘束していたものが切れて飛び散る。ミクニは自由を取り戻してしまった。

「ミクニ様! ご無事で?」
「えぇ」
「援護します」
「ありがとう、助かったわ」

 ミクニの表情に余裕が戻る。

「同時に仕掛けるわよ」
「はい」

 ミクニは女性と視線を合わせ互いに頷く。
 そして二人同時に愛のプリンセスへ向かってゆく。

「ああもう面倒臭いーっ!」

 愛のプリンセスは大きな声でそんなことを言いながら攻撃してくる二人の相手をする。

 一対二となれば不利かもしれない。いや、きっと不利になるだろう。よほどの力の差がない限り数で不利になると厳しい、それは世の常である。

 とはいえ、私が出ていっても役には立たないだろう。

 フローラとの鍛錬によって以前よりかは身体能力は高まったかもしれないが、戦闘能力が高まったかというと……。

 こちらにも援護がいる――考えて、通信で助けを求めればいいということに気づいた。

 私が力になれないのなら、力になってくれそうな誰かを呼べばいい。
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