プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.53 帰還からの意外な紹介

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 あれからも私はクイーンズキャッスル内にて生活している。

 ここは静かだ。以前一度攻め込まれはしたが、それ以来特には何もなく、平穏だけがある。とはいえ、前に比べると少しだけ賑やかになった。それはミクニが共にいてくれるようになったから。彼女がここにいるようになってから、静寂の中一人、ということはなくなった。

 今ではミクニと関わることにもすっかり慣れた。
 元敵だなんて嘘のようだ。
 そのくらい、私たちは普通に関わり合えている。

「へぇ、そうしたら、元は人間として生きていたのね。それで、そういうことがあって、ここへ来たのね」
「そうなんです。だから本当に色々分かっていなくて――あっ」

 連絡が入ったようだ。
 誰からだろうか、心当たりはないが。

「すみませんミクニさん、ちょっと」
「どうぞどうぞ」

 嫌な報告でなければ良いのだが。
 思いつつ、私は応答することを選んだ。

『……いきなり失礼』
「え」

 宙に浮かぶパネル、そこに映り込んだ人物の姿に、私は後ろ向きに吹っ飛んだ。

「え、え……どうして……?」
『帰還した』
「と、と、ととと時のプリンスさん……? です、よね……? 確か……」

 すぐ傍にいたミクニに「と、何回言うのよ」とさりげなく突っ込みを入れられてしまったが、正直それどころではない。

「生きて……いらっしゃったんですね……」
『無事だ』

 あの……これだけ言わせてほしい……。

 なぜ私に連絡した?

 いや、べつに、一応味方ではあるわけだから、間違っていないと言われればそれまでなのだが。たとえ交流がほぼなかったとしても、同陣営なのだから、ここへ連絡するというのもおかしな話ではないし。

 でも!

 私より親しい人物はいくらでもいるだろうに。

「それは良かった……です、ね……?」
『嫌みか』
「それはないです」
『ふん。……まぁいい、本題がある』
「何でしょうか」
『帰還を報せたい。どこへ連絡すればいい』

 そんなことを言われても、と思いつつも、私は方法を考える。
 そして。

「ではこちらから皆さんに連絡してみます」

 そう言ってみた。

『頼む』
「はい、そうします」

 一旦通話が切れる。
 安堵の溜め息をついた。

「情けないわね、クイーンさん?」
「うう……言わないでください」

 ミクニはいつもこうだ、すぐにおちょくるようなことを言ってくる。
 でも気にする必要はない。
 彼女は遊びで言っているだけ、流しておけばそれでいいのだ。

 それよりもしなくてはならないことがある。皆に連絡し時のプリンスについて伝えること、それが今の最優先事項だ。

 誰に一番に連絡すべきか考えて――森のプリンセスに決めた。
 彼女ならきちんと話を聞いてくれるだろう。

『あら! フレイヤちゃんじゃない! どうしたのー? 何か困ったのかしらー?』

 森のプリンセスはすぐに対応してくれた。
 予想通り、彼女は優しい。

「実はお伝えしたいことが……」
『何かしらー?』
「時のプリンスさんから連絡がありまして。帰還したそうです」

 それまで満面の笑みでいた森のプリンセスは、話の内容を聞いた瞬間、急に真面目な面持ちになった。

『本当なの?』
「はい。本人から連絡がありました」
『生きていたのね……』
「そうみたいです。それで、私が皆さんに伝えることになったので、連絡させていただきました」

 すると彼女は眉間にしわを寄せる。

『彼はフレイヤちゃんにそんなことを押し付けたの?』

 まずい。誤解が。

「ち、違うんです! どこへ連絡すればいいかと尋ねられて、それで私が、皆さんに連絡してみますと言ったんです!」

 すると彼女は柔らかな優しい顔つきに戻った。

『そうだったのー。なら良かった、安心したわー』

 怒らせると怖いからな……。

『わたしから皆に連絡するわ。もしかしたらまた皆で話すことになるかもしれないわね。その時は伝えるわねー?』
「ありがとうございます!」

 森のプリンセスとの通話は終了。

 しかし休憩することはできず。
 少し経つと、皆で話すことになったと連絡を受けた。

『悪いわね、また集まってもらってー』

 第一声は森のプリンセス。

 本来であれば杖のプリンセスが司会的な立ち位置になって話を進めてくれたのだろうが……今は無理だ。

 ただ、今回は、比較的揃っている方だ。
 敵に操られている剣と杖のプリンセス以外は全員参加である。

『わ! わわわわ! ほんとーっに! 時プリさんが、いるっ!!』

 いきなり騒ぎ出すのは愛のプリンセス。
 彼女はまだ森のキャッスルに留まっているようだ。

『うっせーよ、騒ぐな』
『ええーっ。騒ぎますよ! だってだってだって! いなかった人がいるんですよ!?』

 相変わらず賑やかというか何というか……。

『それで、時のプリンス。よく戻ってきたわね。でも生きていたとは思わなかったわー』
『嫌みか』
『えぇ、嫌みよー? ふふふ』
『……はぁ』
『ま、死なれるよりは良かったわー』

 それらしいことを言う森のプリンセスだが、その表情は冷めきったものだ。いや、むしろ、汚いものを見てしまったような表情をしていた。発言内容もそこそこ酷いが、発言と表情に差があり過ぎる。

 それを考えれば。
 盾のプリンスはあれでも一応良い扱いをされていたのか。

『時プリさん! あのですね! 実は……実はっ、アイアイ、次に会ったら謝ろうと思っていたんです!』
『……何か』
『次会う時は死後だろうなって思ってたので……死んだらもう実体がないから恐れませんからーって! 今まですみませんでしたって、言うつもりだったんです!』

 酷い。

『…………』
『でも! ごめんなさいっ! まだ生きてるみたいなので……仲良しは難しいです!!』

 時のプリンスは言葉を見つけられなかったようだ、黙っている。

『まぁいいわー。話を進めましょうー』
『報告がある』
『報告? 何かしら。まだ何かあるのかしら』

 森のプリンセスは眉を寄せる。
 すると時のプリンスが何者かを自分の前に出した。

 紺色の服を着た小柄な女性。裾は切り揃えられているが右にゆくにつれ長くなっている前髪とその上に這う三つ編み、後ろで結んでいるようだが房は二股に別れて――印象的な髪型をしていて、しかも髪全体が青い。

 女性が映り込むや否や、森のプリンセスの瞳が輝き出した。
 分かりやすい。

『……彼女を』

 時のプリンスは少々気まずそうに発し、三秒ほど間を空けて続ける。

『連れてきた』

 彼が最後まで言ってから数秒、今度は女性が緊張した面持ちで名乗る。

『アオと申します。よろしくお願いします』
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