初夏が来るたび、貴方を想う。~ただ、貴方の傍で、帰りを待っていたかった~

四季

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初夏が来るたび、貴方を想う。~ただ、貴方の傍で、帰りを待っていたかった~

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「貴女との婚約、破棄します」

 婚約者の彼からそんな風に告げられたのは、まだ浅い夏の日だった。

「そんな、どうして……」
「そうしようと思ったからです。慰謝料なら払います、身勝手なことを、すみません」

 私には彼が分からなかった。

 どうして急に?
 ずっと仲良しだったのに。

 そんな風に色々考えてしまう。

「私に、足りないところがありましたか?」
「いいえ。絶対に、絶対に、そんなことはありません」
「そう、ですか……」

 足りないところがあるわけではないのに関係を解消されるということは、もう、きっとどうしようもない理由でのことなのだろう。

「分かりました……」

 私はその場で泣いてしまった。

 でも縋りつくようなことはしなかった。
 そんなのはみっともないと思ったから。
 彼のことを愛している、それは事実だけれど、彼が拒否するのならそれはそういうものとして受け入れる外ない。

「さようなら……愛していました……」


 ◆


 あの後私は知ることとなった。

 彼がなぜ私を捨てたのか。
 どうして急に婚約破棄なんてしたのか。

 ――彼は己の死を想っていた。

 戦場へ行くこととなっていた彼は、敢えてそのことを隠し、己が悪者となることで私を自分から解放しようとしたのだった。

 でもどうして?
 本当のことを言ってくれれば良かったのに。
 そうすればきっと理解できた。
 悲しみはあったかもしれない、でも、彼を一瞬でも嫌いになりかけるようなことはなかったのに。

「……最後に嘘を残していくなんて、酷いですよ」

 初夏が来るたび、貴方を想う。

 墓の前に一輪の花を。

 そうやって私は生きてゆく。

 ――ずっと、愛しています。


◆終わり◆
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