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3話「もし人間でないとしたら」

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 よくよく考えてみれば、なぜ納得できたのか謎だ。

 いきなり「人間でない」と言われて、誰がそれを信じるだろう。きっと誰もが、嘘をついているか認識が変な人なのかだろう、と思うに違いない。疑ってしまって当然だ。

 でも、この時の私は、疑う気持ちにはならなかった。

 それは多分、彼の外見がそれらしいものだったからだろう。

 平凡な見た目の人が人間でないと言っても信じられない。が、地上の人たちと明らかに違うような外見の者が人間でないと言ったなら、信じられることもある。

 きっとそういうからくりだ。

「ローテさんは何者なのですか? 人でないとしたら……」
「悪いね、それはここでは言えないんだ」

 ローテはきっぱり言ってのける。

「そんな。気になります」
「なら、僕についてきてくれる? そうすれば話せるよ」

 これはついていって大丈夫な案件だろうか……いや、駄目な案件かもしれない。
 小さい頃に習った、子どもを対象とした犯罪の手口に、心なしか似通っている気がする。彼の正体は気になるけれど、迷いなく信頼しきって良いものかどうか。

「……迷っているのかい?」
「はい」
「僕が怪しいから? まぁ、それもそうだね。怪しくないとは言わないよ、僕は人間ではないから」

 でも、ここまでの交流の中では、悪人と思われる要素はなかった。浮世離れしてはいるが悪い存在とは思えない。これまでの彼の言動をまとめて考えると、信じられる気もしてくる。

 どうせ踏み込んでしまったのだ、もういっそ突っ走ってしまっても悪くないのではないか。

 失うものなんてない。縛りもない。ならば己の心に従っても問題はないだろう。己の心が望む道を選択して進んでも構わないのではないか。

「決めました、ついていきます。そこで貴方の正体を聞かせて下さい」
「度胸はあるんだね」
「一度気になりだしたら、知りたくて知りたくて、どうしようもないので」
「面白いことを言うね。……じゃ、案内するよ」

 こうして私は、ローテにどこかへ連れていかれることとなった。

 この道の先はまだ見えない。光が待つのか、闇が待つのか、それすらはっきりはしない。それでもただ進む。今は強く心を決めることができているから、きっと、このまま突き進んでゆける。
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