穏やかな日をこれからも貴方と。

四季

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穏やかな日をこれからも貴方と。

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 かつて私は一度死にかけた。

 いや、厳密には、私が自らの手でこの命を捨てようとしたのだ――愛していた人から婚約破棄を告げられた衝撃で衝動的にこの世から去ろうとしてしまったのだ。

 しかし私は死ななかった。

 今ここに生きていること、それがその証明である。

 私は今日も普通に生きている。
 愛する夫グリズーの隣で。

「おはよう、グリズー」
「ああ、もう起きてたんだ」
「ええ」

 今日もまた朝が来る。
 至って普通な平凡な朝。

 一日が始まってゆく。

 でも、あの時グリズーに出会っていなかったら――そして彼に支えてもらっていなかったら――きっとこんな穏やかな朝を迎えることもなかったのだろう。

「おはよう。いつも早いねセリーネ」
「ふふ」
「何笑ってるの?」
「ううん……幸せだなって思って」
「また唐突な」
「そうよね、変なこと言ってるわ。でもね、これ、本気なのよ? 私、本当に、貴方に巡り会えて良かったって思っているの」

 ちなみに元婚約者の彼はというと、既にこの世にはいない。
 何でも、趣味だったパラシュートで降下する競技をしている最中に事故に遭い亡くなったのだそうだ。

 もっとも、もはや何の関係もないことだが……。

「ありがとう、本当に」

 穏やかな日をこれからも貴方と。


◆終わり◆
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