ある日突然嫁にされました。

四季

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2.我が家なる場所へ

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 私、澤田 誉は、何も特別な存在ではなかった。ただの日本人で、それ以上でもそれ以下でもなく、平凡ながらも穏やかな生き方してきた。十数年間、それは変わったことがない。

 なのに今、私は見知らぬ男性と共にいる。
 しかも彼の家に案内されているのだ。

 知らない人についていってはいけない。それは、誰もが、幼い頃に習うこと。もちろん、私も習った。それなのに、出会って一時間も経たない相手について行くなんて。もしこの光景を目にしている第三者が近くにいたとしたら、馬鹿だ、と笑っていることだろう。

「もうすぐ到着しますか」
「ははは! もちろん! ゆっくり歩いても十分ほどで到着だ!!」

 敢えて小さめの声で質問したのに、答えは大声で返ってきた。
 私の作戦は完全に無駄だったみたいだ。
 歩くことしばらく、ジルカスが足を止めた。その様子を見て、彼の後ろを歩いていた私も足を動かすことを止めた。

「着いた! ははは!」

 気づけば、目の前に木でできた小屋があった。
 昔の世を舞台とした絵本なんかに出てきそうな、限りなく小屋に近い木造の家。窓の配置から察するに、一階建てだろうか。窓以外の壁の部分は一面茶色で、他の色はない。扉さえも茶色である。

「ここが貴方の家ですか」
「そう! その通り! ここが我が家だァッ!」
「小さな家ですね」
「ぬぁにぃ!? 超正直者ォッ!!」

 紅葉した木々に覆われ、自然に満ち溢れた、色鮮やかな世界。その中にぽつんと建つ、小屋のような一軒家。周囲の環境は確かに美しいところだが、こんなところに普通の人間が住んでいるとは思えない。

「いちいち大声を出さないでいただけますか、耳が痛くなります」

 人のいない場所だからこそ、大声が気になる。不快に感じる。

「す、すまん……」
「聴力はきちんとあるので、いちいち大きな声で言っていただかなくて大丈夫です」
「しょ、承知した。では! 家の中へ入るがいい」
「お邪魔します」

 出会ったばかりの異性の家に入っていくというのは、どうしても、心理的に抵抗がある。
 だが、彼に話を聞くことで分かってくることがあるかもしれないので、一応入ってみることにしたのだった。


 ◆


 家の中は二部屋だけだった。入り口の扉を通過して中へ入ると、一つ目の部屋がある。その室内には、テーブルとそれを囲む椅子が二つ、そして、瓶が大量に詰め込まれた棚が二つ。それ以外に物はない。

「ここが貴方の……」
「その通り! ははは! ……おっと失礼。では、貴様はそこの椅子に腰掛けて待っていろ」
「あ、はい。ありがとうございます」

 ジルカスの言葉に従い、椅子に腰を下ろした。

「お茶を出そう! ははは!」

 相変わらずの騒がしさ。
 しかも、何事もなかったかのように、ジルカスは奥の部屋へと進んでいく。

 薬品のような匂いが漂っている中、私は彼が戻ってくるのを待った。


 ◆


「ははは! 待たせたな!」

 待つこと数分、ジルカスが戻ってきた。
 その手には湯飲みのような持ち手のないカップ。素材は不明だが、ベースはうぐいす色で、そこに灰色や茜色のラインが描かれている。

 ジルカスは私の目の前まで歩いてくると、そのカップをテーブルに置いた。

「さぁ飲め!」

 限りなく湯飲みに近いカップになみなみと注がれていたのは、煉瓦色の液体。これまた薬品の匂いを漂わせている。

「ありがとうございます……いただきます」

 右手でカップを掴むと、指に熱が伝わってきた。どうやら、入っているのは温かいお茶のようだ。だが、手で掴めないほどの熱さではないので、私はカップをしっかり握った。

 カップの端を唇につけ、液体を口に含む——苦っ!!
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