ある日突然嫁にされました。

四季

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6.救いの手

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「我が妻を誑かすとは、何とも卑怯な女だ! ははは! 痛い目に遭うぞ!」

 ジルカスは迷いのない瞳で私を妻と呼ぶ。それはあまりに勝手なことで、私からすれば迷惑以外の何物でもなかったはずなのだが、今だけはありがたくもあった。そのおかげで、奇妙な襲いかかり方をしてくる女性から逃れられたのだから。

 女性は舌打ちし、ジルカスを鋭く睨みつける。
 しかしジルカスはその程度では動揺しない。

「さぁ、すぐに離れろ! そして、去れ!」
「煩い男ね……」
「ははは! 我が妻に手を出されれば、自然と煩くもなるというものだ!」

 ジルカスがはっきり言うと、女性は顔をしかめた。

「そう……これだから男は。不愉快だわ……」

 彼女自身も述べているように、不愉快で仕方がない、というような表情をしている。

「まぁいいわ。今日はここまでにしましょう」
「ははは! そうしてくれ!」

 短いやり取りの後、女性はその場から消え去った。
 正直、彼女が引くとは思わなかった。だが彼女は確かに消えた。もう姿は見えない。

「まったく! 好き勝手に歩くと危ないぞ!」

 気づけば、すぐ目の前にジルカスが迫っていた。
 彼は片手を差し出してくる。

「……助かりました」
「素直で良い! では戻ろう」
「……はい」

 今日知り合ったばかりの彼の家へ行くのは抵抗がある。しかし、そこから脱出したからといって安全圏に入ることができるというわけではないことは、今回の経験で嫌というくらいよく分かった。この奇妙な世界においては、私が穏やかに過ごせる場所などありはしないのだ。同性であっても迫ってくるような世界においては、異性であっても下心は控えめな相手の近くにいる方が、ある意味安全なのかもしれない。


 結局、ジルカスの家へ戻ってきてしまった。
 帰宅するや否や「まったく! 逃げ出すとは驚いたぞ!」などと言われたので、雷を落とされるかと警戒したが、案外そんなことはなくて。むしろ、彼は私の身を案じてくれているようだった。

「あの女性はどなただったのですか? 知り合いですか?」
「さぁな! 知らん!」

 あそこまでまっきりとした物言いをするのだから知り合いか何かなのかと思っていたが、どうやら、そういうことでもないようだ。

「だが、この異界にはああいった輩がわりといる! 気をつけた方が良いぞ!」
「……異界?」
「それがこの世界の呼び名だ」
「そう……だったのですね」

 そのままというか何というか。シンプルで分かりやすいのは良いが、さすがにシンプル過ぎるような気もしたり。

「我が一族は由緒ある一族! それゆえ、先の女のような乱暴なことはしない! ははは! ……それを聞けば、貴様もさすがに我が妻となる気になっただろう?」

 なぜにこれほど自信があるのか。
 突っ込みたい衝動に駆られる。

 今日出会ったばかりの相手に自分の良さをここまで真っ直ぐ売り込めるというのは、ある意味、一種の才能かもしれない。誰にでもできることではないと思う。

「ははは! 早速夫婦の暮らしの始まりだ!」
「……勝手に話を進めないで下さい」
「んな!? まだ妻になるか悩んでいるというのか!?」
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