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15.一人、紅葉が丘へ
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結局、ジルカスの調理に協力することはできなかった。
……いや、その方が良かったのかもしれない。
ジルカスは一人でも十分美味しい料理を作ることができる。料理の経験など、調理実習以外には数えるほどしかない私が力を貸したところで、出来上がるものの質に大きな変化はないだろう。むしろ、うっかり何かやらかして足を引っ張ってしまう可能性の方が高そうだ。
でも、色々なことを彼に任せてばかりというのは、罪悪感があって。
ジルカスのためになることをしようと考え、ある日の夕暮れ時、私は一人家を抜け出した。野草を摘みにゆくために。
◆
目指したのは紅葉が丘。
なぜそこにしたかというと、家の周囲よりレア度の高い野草を採れるからだ。
良い野草を採れれば、より一層色々なものと交換してもらえ、結果的にはジルカスの暮らしを助けることになるはず。だから私は行く。カゴと一冊の本を持って。
目的地への道のりはそこそこ厳しく、特に坂を歩き続けなくてはならないところは大変苦労した。呼吸は乱れるし、足は痛くなるし、踏んだり蹴ったりで。話し相手がいないからなおさら疲労を感じる。しかし、何とか歩き続け、無事頂上へたどり着いた。
まずはカゴを地面に置く。
そして、本を取り出す。
今日持ってきたこの本は、この世界に存在する植物について色々かかれた本だ。見開きに四つずつ植物が紹介されており、その効果や用途、そして見分け方まで載っている。もちろん、珍しさも書かれている。見た目の特徴から植物名を探すこともできるようになっていて、便利そうだ。
この本があれば、私でもある程度野草を見分けられるはず。
「縁がギザギザの丸い葉っぱ……黄緑……花は無し……」
先日交換所で手に入れた便利な本を手に、生えている植物を調べてゆく。
◆
野草を詰め込んだカゴを背負い、本を手に持ち、ジルカスがいる家へ戻るために歩き出す。行きは上り坂だから息が上がるが、帰りは下り坂のため呼吸の乱れはあまりない。若干脛が軋むが、苦痛はそこまで大きくなかった。
徐々に薄暗くなってきて、辺りに不気味さが漂う。
風に木々が揺れるたび、胸の鼓動が大きくなった。
「……しっかりしなくちゃ!」
慣れないところを一人で歩くことがこんなに不安だとは思わなかった。けれど、これは私が望んで行ったこと。だから責任は私にある。自分で行っておいて弱気になるわけにはいかないから、私は言葉で自身を鼓舞しながら歩いた。
——あと少しで家だ、と安堵した時。
道の脇の草むらから葉が擦り合わされるような音がした。
音に気づいて振り返った瞬間、草むらから犬のような生き物が飛び出してくる。
「犬……!?」
最初目にした際には犬かと思ったが、よく見たら、どちらかというと狼に近い生き物だった。
幸い、群れではないようだ。しかし獰猛そうな顔つきをしている。瞳は気味が悪いほどに輝き、今にも襲いかかってきそうだ。危機感が込み上げる。
どうしよう。
どうすればいい。
……いや、その方が良かったのかもしれない。
ジルカスは一人でも十分美味しい料理を作ることができる。料理の経験など、調理実習以外には数えるほどしかない私が力を貸したところで、出来上がるものの質に大きな変化はないだろう。むしろ、うっかり何かやらかして足を引っ張ってしまう可能性の方が高そうだ。
でも、色々なことを彼に任せてばかりというのは、罪悪感があって。
ジルカスのためになることをしようと考え、ある日の夕暮れ時、私は一人家を抜け出した。野草を摘みにゆくために。
◆
目指したのは紅葉が丘。
なぜそこにしたかというと、家の周囲よりレア度の高い野草を採れるからだ。
良い野草を採れれば、より一層色々なものと交換してもらえ、結果的にはジルカスの暮らしを助けることになるはず。だから私は行く。カゴと一冊の本を持って。
目的地への道のりはそこそこ厳しく、特に坂を歩き続けなくてはならないところは大変苦労した。呼吸は乱れるし、足は痛くなるし、踏んだり蹴ったりで。話し相手がいないからなおさら疲労を感じる。しかし、何とか歩き続け、無事頂上へたどり着いた。
まずはカゴを地面に置く。
そして、本を取り出す。
今日持ってきたこの本は、この世界に存在する植物について色々かかれた本だ。見開きに四つずつ植物が紹介されており、その効果や用途、そして見分け方まで載っている。もちろん、珍しさも書かれている。見た目の特徴から植物名を探すこともできるようになっていて、便利そうだ。
この本があれば、私でもある程度野草を見分けられるはず。
「縁がギザギザの丸い葉っぱ……黄緑……花は無し……」
先日交換所で手に入れた便利な本を手に、生えている植物を調べてゆく。
◆
野草を詰め込んだカゴを背負い、本を手に持ち、ジルカスがいる家へ戻るために歩き出す。行きは上り坂だから息が上がるが、帰りは下り坂のため呼吸の乱れはあまりない。若干脛が軋むが、苦痛はそこまで大きくなかった。
徐々に薄暗くなってきて、辺りに不気味さが漂う。
風に木々が揺れるたび、胸の鼓動が大きくなった。
「……しっかりしなくちゃ!」
慣れないところを一人で歩くことがこんなに不安だとは思わなかった。けれど、これは私が望んで行ったこと。だから責任は私にある。自分で行っておいて弱気になるわけにはいかないから、私は言葉で自身を鼓舞しながら歩いた。
——あと少しで家だ、と安堵した時。
道の脇の草むらから葉が擦り合わされるような音がした。
音に気づいて振り返った瞬間、草むらから犬のような生き物が飛び出してくる。
「犬……!?」
最初目にした際には犬かと思ったが、よく見たら、どちらかというと狼に近い生き物だった。
幸い、群れではないようだ。しかし獰猛そうな顔つきをしている。瞳は気味が悪いほどに輝き、今にも襲いかかってきそうだ。危機感が込み上げる。
どうしよう。
どうすればいい。
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