私、ルーナは、近々ビスケットをたくさん食べられるようになりそうです

四季

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後編

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「そうそう、その時の面白かった話。親戚のおっさん、嫁さんと二人で行ってたらしいんだけど、たまたま寄った団子屋の娘と仲良くなってさー」

 ますます関係のない話へ流れていっているのが不思議で仕方ないですが、一応黙って聞いておくことにしましょう。

「旅館行ってから、嫁さんに怒られたらしいんだよね」

 ……その話を私にする必要があったのか、甚だ疑問です。

「あ。ルーナちゃん、もしかして退屈してる?」
「い、いえ。そんなことはありません。お話、楽しいですよ」
「ほんとに?」
「もちろんです」

 本当はかなり退屈しているが、はっきり言うのも申し訳ない気がするので、そう答えておきました。もうすぐ夫となる方に対し嘘をつくというのは、少し心苦しいものがありますが。

「そうだ、これ食べる?」

 退屈している私に気を遣ってか、アスレチックさんはビスケットがびっしり入った箱を渡してくれました。

 小さなビスケットは色々な動物の形をしていて、とても可愛いです。
 ただ、すべてのビスケットの中央に「栗おこわ」と文字が入っているのが、少々気になります。

 私は一枚つまんでから、彼に尋ねてみました。

「これ、どうして『栗おこわ』と書いてあるのですか?」

 すると彼は、少し驚いたような顔で返してきました。

「え?ビスケットには『栗おこわ』って書いてあるものじゃないの」

 おかしなことを言いだすなぁ、と、私は戸惑うことしかできませんでした。
 今まで食べたビスケットの中で『栗おこわ』なんて書かれたものは、一つもなかったと思うのですが……私の記憶違いなのでしょうか。

「このビスケット、どこでお買いになったのですか?」
「これはさっき言ったおっさんの手作りビスケット」
「おじさん、ビスケットをお作りになるのですね」

 驚いた。まさか、おじさんの手作りだったなんて。

 旅行はするし、ビスケット作りもする。そのおじさんは、なかなか幅広い趣味をお持ちのようです。

「そうそう。おっさんの家、ビスケット工房なんだよね」
「まぁ! 凄いですね!」

 まさか、という感じではあるが、こればかりは素直に感心しました。

「……ルーナちゃん、ビスケットには興味あるんだね」
「はい。美味しいものは好きです」
「じゃ、こんどどれか注文しよっか?」
「良いのですか?」
「もちろん。えーと、確かここらに……」

 アスレチックさんは立ち上がり、近くの本棚の一番上の段へと手を伸ばします。そして、何やら分厚い本を取り出してきました。小指の長さほどの厚みがある本です。

「はい、これ」

 その本を彼は、私へ差し出してきました。
 表紙には、「ドラマチックビスケット工房・注文販売用ブック」と、極めてポップな自体で書いてあります。

「そこから好きなの注文できるから」

 厚みのある表紙を開くと、一枚目の紙には、彫りが深く丸い玉のような眉毛をした男性の絵。この男性も綺麗な金髪なのですが、前髪だけが残っていて、後ろはスキンヘッドという、非常に珍しい髪型をしていました。

「この方がおじさんですか?」
「いや、それはおっさんの兄」
「あ、そうでしたか……」

 何とも言えない気分です。
 これ以上言葉が見つからないので、この絵に触れるのは止めました。

 さらにページをめくっていくと、様々な種類のビスケットが載っています。

 イチゴ、オレンジ、グレープフルーツ、スダチ、ゴボウ、ピンクグレープフルーツ、キンカン、レモン。シナモン、クロマメ、エダマメ、アズキ、エンドウマメ、ニシン、ソラマメ、トマト、アーモンド。ローズ、バジル、ラベンダー、ポテト、ピーナッツ。

 とにかく種類が豊富です。これなら、毎日食べても飽きないことでしょう。

「ルーナちゃん、それ、どれでも好きなの注文していいから」

 あれ?
 よく分からないけれど、何だか優しい……?

「本当ですか」
「いいよ。そんなに高いもんじゃないし」
「ありがとうございます!」

 どうやら、アスレチックさんは寛容な心をお持ちのようです。
 最初はだらしなくて残念な人だと思っていましたが、段々善良なお方に思えてきました。


 これからの新たな暮らし、不安もありますが、彼となら何とかやっていけそうです。

 これといった理由などなくても、今の私には、その自信があります。
 謎の自信、というやつです。

◆おわり◆
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