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37話「リベルテの居残り」
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微塵も想像したことのなかった母親との再会。それは、驚くべき形で訪れた。
もちろん、これは現実ではないのだろう。
一度死んだ人間が生き返らないことは、決して揺らぐことのないこの世の理。私とて、そのことは理解している。だから、これが現実だと思ってはいない。そこまで夢に溺れる気はない。
でも、こうして会えた。
それはとても嬉しいこと。
「ウタ……貴女の活躍は見ているわ。ずっと。貴女は貴女にできる形で頑張っているのね」
母親は穏やかに微笑みかけてくれる。
包み込むような温かな眼差しが、とても懐かしい。
「見られていたら恥ずかしいわ」
「ふふ。でも見守っているわよ、ずっとね」
「……ありがとう」
母親を殺めたウィクトルと共にあるのだということが、私の胸の内に、形のない罪悪感を生み出す。彼女なら許してくれるだろう、と思いながらも、信じきることはまだできない。つい、怒られてしまうのでは、などと考えてしまって。
「ねぇ母さん……怒ってる?」
私は勇気を振り絞って聞いてみることにした。
彼女の言葉を聞けば、この胸の内に蔓延るもやもやしたものも消えてくれるだろうから。
「……ウタ? 何を言っているの?」
「私がウィクトルと一緒にいること、怒ってる?」
母親は驚いたような顔で言葉を詰まらせる。
静寂の中、柔らかな風が髪を揺らす。
視界を満たすのは、水彩画のような淡い色。ひたすら幻想的な風景。見覚えはあまりないけれど、穏やかでどこまでも美しい、そんな場所に私はいる。
「彼は母さんを殺めた人。なのに、その彼と私は一緒にいる。私は……母さんは復讐なんて望まないと思っていたのだけれど、それが本当に正しいのかどうかが分からなくて、少し不安なの。だから……母さんの口から答えを聞きたい」
母親の瞳を見つめる時、私の心は不安に揺れる。彼女を真っ直ぐ見つめられるだけの自信が私にはないのだ。誰かを真っ直ぐに見るということは、容易なようで容易なことではない。
「……そう、ね」
やがて、それまで黙っていた母親が口を開く。
「ウタの人生はウタの自由よ。好きなように生きればいいの」
母親の表情はとにかく穏やかだった。
「ウタが選びたい道を選ぶの。他人に気を遣うことなんてないわ」
「母さん……」
「貴女は自由。貴女が幸せなら、私はそれでいいの」
ウィクトルと一緒にいることを母親がどう思っているのか。その具体的な答えを手にすることはできなかった。けれど、この時「自由」という言葉を得ることができたのは、大きかったように思う。
それは、私の選択を尊重してくれるという意味の発言だ。
つまり、私は、道を自分で選ぶことを許されたということなのである。
◆
次の瞬間、私はベッドの上で目を覚ました。
周囲を見渡してみる。やはり母親の姿はない。隣のベッドではフーシェが穏やかに眠っていた。私がいるのは、ウィクトルたちの宿舎。ここがキエル帝国であることに変わりはないようだ。
無機質な天井を見上げ、「あぁ、やっぱり夢だったのね……」と残念に思う。
母親が本当に蘇れば良かったのに、なんて、馬鹿げた夢をまだ捨てきれない。
私は一度上半身を縦にする。それから、再び眠るかどうかを考えた。
どうやらまだ夜のようだから、再び眠るのも一つの選択だろうが、今は妙に意識がはっきりしてしまっている。もう一度寝ようとしても、すぐに眠れそうではない。
「はぁ……」
片方の手のひらで額を拭い、溜め息をつく。
近くのベッドで睡眠中のフーシェはまったく反応しない。時折寝返りはするけれど、私が音を立ててもそれに応じて動いている様子はない。こちらの勝手な都合で起こしてしまっては申し訳ないので、フーシェがぐっすり眠ってくれていてホッとした。
翌日、午後。
目覚めると、枕元にリベルテがいた。
「おはようございます、ウタ様」
「え、どうして!?」
リベルテは何事もなかったかのように挨拶してくる。しかし、私は驚きを隠せず、挨拶を返すこともすぐにはできなかった。平常心を保つのは、案外、簡単なことではないのだ。
「あ、失礼致しました。驚かせてしまいましたね」
彼に罪はない。ただ、私が驚いてしまっただけで。
「いえ、いいの……でも、どうして?」
「主は既に、次なる任務のために出発されました」
「え! そうなの!?」
帰ってきたばかりなのに、もう出発したというのか。だとしたら、尋常でない展開の早さだ。私にはとてもついていけそうにない。私なんて、ほぼずっと寝ていたのに。
「はい。また反乱が起こったようで、主はすぐにそちらへ向かわれました。フーシェもでございます。それゆえ、ここにはリベルテのみが残っております」
またしても反乱。大丈夫なのだろうか、この国は。
「そうだったの」
「今回はこのリベルテがきちんとお世話致しますので、どうか、ウタ様はゆっくりなさって下さい」
ウィクトルがいないのは若干不安ではあるが、リベルテが残ってくれたのは取り敢えず幸運だと言えるだろう。リベルテなら、私に冤罪を押し付けるようなことはしてこないだろうし。彼とならそれなりに上手くやっていける気がする。
「ウィクトルについていなくて大丈夫なの?」
「はい。そもそも、『ウタ様の世話をするように』というのは主からの命令でございますから」
リベルテはどんな時でも温厚そうな笑顔で話してくれる。
そんな彼のことが、私は、嫌いではない。
「しばらく二人での生活になるかと思われますが、どうか、よろしくお願い致しますね」
軽く首を傾げると、菜種油色のボブヘアがふわりと揺れる。まだあどけなさの残る、瑞々しい少女を見ているかのようだ。
「こちらこそよろしくね」
「はい! そう言っていただけて光栄でございます!」
もちろん、これは現実ではないのだろう。
一度死んだ人間が生き返らないことは、決して揺らぐことのないこの世の理。私とて、そのことは理解している。だから、これが現実だと思ってはいない。そこまで夢に溺れる気はない。
でも、こうして会えた。
それはとても嬉しいこと。
「ウタ……貴女の活躍は見ているわ。ずっと。貴女は貴女にできる形で頑張っているのね」
母親は穏やかに微笑みかけてくれる。
包み込むような温かな眼差しが、とても懐かしい。
「見られていたら恥ずかしいわ」
「ふふ。でも見守っているわよ、ずっとね」
「……ありがとう」
母親を殺めたウィクトルと共にあるのだということが、私の胸の内に、形のない罪悪感を生み出す。彼女なら許してくれるだろう、と思いながらも、信じきることはまだできない。つい、怒られてしまうのでは、などと考えてしまって。
「ねぇ母さん……怒ってる?」
私は勇気を振り絞って聞いてみることにした。
彼女の言葉を聞けば、この胸の内に蔓延るもやもやしたものも消えてくれるだろうから。
「……ウタ? 何を言っているの?」
「私がウィクトルと一緒にいること、怒ってる?」
母親は驚いたような顔で言葉を詰まらせる。
静寂の中、柔らかな風が髪を揺らす。
視界を満たすのは、水彩画のような淡い色。ひたすら幻想的な風景。見覚えはあまりないけれど、穏やかでどこまでも美しい、そんな場所に私はいる。
「彼は母さんを殺めた人。なのに、その彼と私は一緒にいる。私は……母さんは復讐なんて望まないと思っていたのだけれど、それが本当に正しいのかどうかが分からなくて、少し不安なの。だから……母さんの口から答えを聞きたい」
母親の瞳を見つめる時、私の心は不安に揺れる。彼女を真っ直ぐ見つめられるだけの自信が私にはないのだ。誰かを真っ直ぐに見るということは、容易なようで容易なことではない。
「……そう、ね」
やがて、それまで黙っていた母親が口を開く。
「ウタの人生はウタの自由よ。好きなように生きればいいの」
母親の表情はとにかく穏やかだった。
「ウタが選びたい道を選ぶの。他人に気を遣うことなんてないわ」
「母さん……」
「貴女は自由。貴女が幸せなら、私はそれでいいの」
ウィクトルと一緒にいることを母親がどう思っているのか。その具体的な答えを手にすることはできなかった。けれど、この時「自由」という言葉を得ることができたのは、大きかったように思う。
それは、私の選択を尊重してくれるという意味の発言だ。
つまり、私は、道を自分で選ぶことを許されたということなのである。
◆
次の瞬間、私はベッドの上で目を覚ました。
周囲を見渡してみる。やはり母親の姿はない。隣のベッドではフーシェが穏やかに眠っていた。私がいるのは、ウィクトルたちの宿舎。ここがキエル帝国であることに変わりはないようだ。
無機質な天井を見上げ、「あぁ、やっぱり夢だったのね……」と残念に思う。
母親が本当に蘇れば良かったのに、なんて、馬鹿げた夢をまだ捨てきれない。
私は一度上半身を縦にする。それから、再び眠るかどうかを考えた。
どうやらまだ夜のようだから、再び眠るのも一つの選択だろうが、今は妙に意識がはっきりしてしまっている。もう一度寝ようとしても、すぐに眠れそうではない。
「はぁ……」
片方の手のひらで額を拭い、溜め息をつく。
近くのベッドで睡眠中のフーシェはまったく反応しない。時折寝返りはするけれど、私が音を立ててもそれに応じて動いている様子はない。こちらの勝手な都合で起こしてしまっては申し訳ないので、フーシェがぐっすり眠ってくれていてホッとした。
翌日、午後。
目覚めると、枕元にリベルテがいた。
「おはようございます、ウタ様」
「え、どうして!?」
リベルテは何事もなかったかのように挨拶してくる。しかし、私は驚きを隠せず、挨拶を返すこともすぐにはできなかった。平常心を保つのは、案外、簡単なことではないのだ。
「あ、失礼致しました。驚かせてしまいましたね」
彼に罪はない。ただ、私が驚いてしまっただけで。
「いえ、いいの……でも、どうして?」
「主は既に、次なる任務のために出発されました」
「え! そうなの!?」
帰ってきたばかりなのに、もう出発したというのか。だとしたら、尋常でない展開の早さだ。私にはとてもついていけそうにない。私なんて、ほぼずっと寝ていたのに。
「はい。また反乱が起こったようで、主はすぐにそちらへ向かわれました。フーシェもでございます。それゆえ、ここにはリベルテのみが残っております」
またしても反乱。大丈夫なのだろうか、この国は。
「そうだったの」
「今回はこのリベルテがきちんとお世話致しますので、どうか、ウタ様はゆっくりなさって下さい」
ウィクトルがいないのは若干不安ではあるが、リベルテが残ってくれたのは取り敢えず幸運だと言えるだろう。リベルテなら、私に冤罪を押し付けるようなことはしてこないだろうし。彼とならそれなりに上手くやっていける気がする。
「ウィクトルについていなくて大丈夫なの?」
「はい。そもそも、『ウタ様の世話をするように』というのは主からの命令でございますから」
リベルテはどんな時でも温厚そうな笑顔で話してくれる。
そんな彼のことが、私は、嫌いではない。
「しばらく二人での生活になるかと思われますが、どうか、よろしくお願い致しますね」
軽く首を傾げると、菜種油色のボブヘアがふわりと揺れる。まだあどけなさの残る、瑞々しい少女を見ているかのようだ。
「こちらこそよろしくね」
「はい! そう言っていただけて光栄でございます!」
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