奇跡の歌姫

四季

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176話「ウタの行動」

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 ツアー公演とも言えるような今回の公演、その幕開けはホーション近くの劇場から。

 百人と少し程度の客が入る小規模の劇場で、一回、二回、と公演を行う。
 数回の公演が色々な場所に移りつつ数日続く。それは初めての経験だが、演じる時の感覚自体はこれまで演じた時と大差ない。開演前の緊張感も、舞台袖の暗がりも、既に経験したことのあるものだった。

 初日は同じ劇場で二回公演。
 昼頃からと夕方からだったが、何とか乗り切る。

 そして、一行は次なる地へと移動。

 二つ目の劇場は、スレイマ劇場のある街の劇場だった。

 そこは、ファルシエラ内でも特に舞台が盛んな地域である。それゆえ、目が肥えた観客が多いであろうことが想定された。だから私は、その劇場での公演の日、特に緊張していた。

 ここまでは信じられないくらい順調。キエル帝国の人間が創った作品ながら、そこそこ良い評価を得てきた。温もりを貰い、感謝を抱き、進んできた。けれど、その成功がいつまでも続くと思ったら間違いだろう。成功なんぞ長続きするものではない、そう思うからこそ、私は毎度緊張するのだ。

 だが、歌を聴いてもらえることは喜び。
 その喜びだけで私は進める。

 そして、二ヶ所目での公演も無事終了。舞台芸術の都と言っても過言ではないスレイマの地にて、私はまた何とか演じきることができた。

 今回は、前回の一日二回公演とは違って、一回公演を二日という日程。
 一日一回という意味では忙しさは控えめ。ただ、二日連続で出演しなくてはならないという意味では、心の管理の仕方が難しくもあった。緊張感が高まり過ぎないようにしつつ、やる気を継続させる。そこが難しくて。

 とはいえ、終了は終了。

 終わってしまえば問題なし、だ。

 次なる地、三ヶ所目の公演の舞台となる地は、スレイマの街からさほど遠くないところ。二ヶ所目の劇場から車に乗って一時間ほどで到着できる少しばかり寂れた地域にある劇場。
 ダミダミ劇場という名称のその劇場は、小さいホールを二つだけ抱えたこれまた小規模な劇場だった。噂によれば、音楽を生業とする者が開く演奏会に使われることも多いらしい。どちらかというと劇より演奏会に使われる機会の方が多いというから驚きだ。

 そこでの公演は、二日間三公演。
 回数がかさんできたので、途中でフリュイがやる気を喪失していた。


 四ヶ所目となる公演の舞台となる場所へ、皆で向かう。
 私は、ミソカニやフリュイ、そして付き人的存在のリベルテと共に、トラックに乗っての移動だ。

 トラックと言っても、運転席は狭く荷物を乗せるところばかり大きいトラックとは少し違う。今回私が乗ることになったその乗り物は、自動車のように、きちんと座ることのできる座席が用意されているのだ。こういう乗り物を何と呼ぶのか、私には分からない。が、乗り心地はそんなに悪くない。むしろ快適なくらいだ。

「はぁー。疲れますね」

 脱力しながら座席に腰掛け、だるそうに言うのはフリュイ。

「大丈夫ですか? フリュイさん」
「もちろん大丈夫ですよー。ただ、正直疲れます」

 フリュイが疲れたと言うのも今は分からないではない。私だって同じように疲れているからだ。激しい運動をしたわけでなくとも、緊張感を持って事に当たっているとかなり披露するもの——今回改めてそれに気づいた。

「フリュイさんの朗読は凄く上手ですよね。昔から読んでらっしゃったのですか?」
「うーん、まぁたまにですかね。金持ちの道楽って言うんでしょうか」

 次の公演の始まりまでは数日空く。それゆえ、本当ならすぐに移動する必要はなかった。しかし今回は、ミソカニの判断によって、早めに現地に到着しておくこととなったのだ。ミソカニがそれを選択した理由には、現地慣れしておいた方が良いだろう、ということも含まれていた。それは多分、私への配慮だったのだろうと思う。

「フリュイさんはお金持ちなんですか?」
「……うーん、どうかなって感じです。でも、それなりにお金はあったんで。個人的には、恵まれてはいたと思いますよ」

 曖昧な返事過ぎて、どう対応すれば良いのか分からない。

「ただ、今はあまり帝国にはいたくないですねー。父はイヴァンの下で働いていたんで、帝都にいると気まずいんですよね」

 フリュイの父親は帝国の要人だった、ということだろうか。深くは知らないが、イヴァン派の人物であったならば、今の帝国にはさぞ居づらいことだろう。巻き込まれる可能性だってゼロではない。

「大変なんですね……」
「あー、いや、べつに。大変とかではないですよ。元々父親とは疎遠気味でしたし」
「そうなんですか?」
「はい。そうなんですよ。不仲と言うほどではなかったですけど、基本別行動してました」

 仲が悪いわけではないが親しいわけでもない、といったところか。
 微妙な具合だが、それはそれで良かったのかもしれない。
 人間の関係なんていうのは「仲良ければ良い」というほど単純なものではない。そもそも、ほどよい距離感というのは人によって違うわけだし。

「難しいですね……」
「いえ、べつに。難しいとか、そういうのじゃないです」

 フリュイは掴み所がない。
 どう接すれば良いのか、感じ取りづらい。


 四ヶ所目の劇場は、外壁が木の板でできているログハウス調の建物だった。
 触れると懐かしい温もりと湿り気を感じることができる独特な劇場で、私たちは公演に向けての準備を開始する。

 動作の確認。舞台の見学。衣装の最終調整。
 公演を迎えるまでに済ませておかなければならないことはたくさんある。

 そうして忙しくしているうちに、公演の日を迎えた。

 その日は、生憎の天気。空は久々に灰色に塗りつぶされていた。会場前、入り口付近のガラス戸から外界を眺めると、地面にぶつかり細かく散る雨粒が見えて、切なさを感じてしまって。何とも言えない気分になったりした。

 それでも、客の入りは悪くはなかった。

 席の四分の三以上が埋まっている。開演直前にそのことを聞いて、私は内心かなり驚いた。天気が悪いからあまり来ないだろうと考えていたからだ。晴れやかでない日なのに観に来てくれた人々には感謝ばかりだ。

「……頑張らないと!」

 今日もまた、薄暗い舞台へと進んでゆく。
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