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191話「ウィクトルの運命とウタの再会」
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カラーテープにレースのテープ、花飾り、輪を連ねた飾り。ミソカニから頼まれた物は、すべて、雑貨屋に揃っていた。入店する前、私は正直「すべてここに揃っているわけがない」とミソカニの言ったことを疑っていた。そんなに品揃えが良い店があるとは思えなかったから。けれども、入店して回っていくうちに、指定されていた物は全部手に入れることができて。それで、束の間であってもミソカニを疑ってしまったことを、密かに後悔した。
「一軒で全部揃いましたね。ミソカニさんの言っていたことは正しかったんですねー」
ひと通り買い物を終えた時、フリュイは既に出口に行っていた。
しかも、木製のベンチに腰掛け、のんびりしている。
「正直……信じていなかったので驚きました」
「僕もです。まさか完璧に揃うなんて、と、驚いているところですよ」
大きな袋が二つになってしまったので、私はフリュイに「片方持っていただいても構いませんか?」と尋ねてみた。何らかの理由を付けて断ってくることを想像していたが、フリュイは案外すんなりと持ってくれた。しかも、それだけではない。一つの袋を手にした後に、「もう一つも持ちましょうか」と尋ねてくれた。ただ、それは申し訳ないので「大丈夫です。持てます」と言っておいたけれど。
「そっちの袋、重くないですか」
私が持っている方の袋には、主に、テープ類が入っている。ぎっしり詰まっているため、そこそこ重みは感じる。だが持てないほどの重さではない。
「え。これですか? 大丈夫です。持てる重さです」
「ならいいんですけど……ウタさん、無理しないで下さいね」
「お気遣いありがとうございます」
「はー。それにしても、おつかいは厄介ですね。早く寛ぎたいです」
道の真ん中を歩いている時でさえ、フリュイは本音を漏らしていた。
もうすぐ劇場にたどり着く——そんな時。
曲がり角から一人の女性が飛び出してきて、避けようとしたが避けきれず、肩が当たってしまう。
「ご、ごめんなさい!」
女性は私と肩同士でぶつかったことでバランスを崩し、つまづいたかのような形で転倒。あちらにも非があったとはいえ、放置するわけにもいかず、私は謝罪の言葉を放つ。
「お怪我は? 大丈——え」
手を差し伸べた直後、女性と目が合い言葉を失う。
「……なぜ……貴女が?」
先に言葉を発したのは向こうだった。
彼女は耳に一度触れてから、そんな風に言ったのだ。
だが私は暫し何も言えない。
「ウタ……どうしてこんなところにいるんですの」
シャルティエラだったのだ、私がぶつかった女性は。
「……シャロさん」
ウィクトルの命を狙うことを諦めてくれて以降、彼女とは会っていなかった。ここは帝国だから彼女がいても何もおかしくはないわけだが、それでも、驚きと戸惑いを抱えずにはいられない。
関わらない方が良い? 逃げるべき?
脳内にはいろんなパターンが浮かぶ。でもそれを行動に移すことは簡単でない。
「その、私、急いでいるので……」
取り敢えず厄介事に巻き込まれる前に去ろうと考え、別れを告げておく。
しかし。
「待って!」
シャルティエラの叫びがそれを止めた。
「え……」
「あっ、ご、ごめんなさい。いきなり大声を出して悪かったと思ってますわ」
「私に……何かご用ですか」
「用ではありませんけれど、貴女と一度話したいと思っていましたの!」
そう言って、シャルティエラは私の手を掴んでくる。
強く、ではない。
両手を使って包み込むように、だ。
「え……あ、そうなんですか……?」
今のシャルティエラの表情には、怪しさがない。敵意も特に感じられない。彼女はただの娘のような、輝く瞳をしている。
「お茶でもしませんこと!?」
「あ、えっと……その……でも、喫茶店には行けないのでは……」
皇帝の妻がそこらの喫茶店に入るわけにはいかないだろう。
「わたくし、今、この近くに住んでいますの! そちらへいらっしゃるというのはどうかしら? それならゆっくりお茶できますわ!」
◆
「あ、主……その、少し構いませんか?」
夜遅い時間、リベルテはウィクトルに話しかけた。
不安そうな顔をしながら。
「構わないが。どうした?」
窓辺で透明なグラスに注いだトマトソーダを飲んでいたウィクトルは、目を伏せながら、話しかけてきたリベルテの方へ視線を向ける。
「本当に、公演に間に合うのでございましょうか」
ウィクトルとリベルテは個室を貰っている。そのため、夜は二人でその部屋の中で過ごすことになるのだ。今、室内には二人だけ。誰もいないし、誰も二人の話を聞いてはいない。そんな状況だ。
「間に合わせてみせる」
「そんな簡単にいくのてございましょうか……!?」
「間に合うかどうか、ではない。間に合わせる、だ」
リベルテは一瞬ハッとしたような顔をした。
が、数秒経って、真顔の状態に戻る。
「……決意があるのでございますね」
森林に滅多に降らない雪が降る光景を思わせるような表情で、リベルテはウィクトルを見つめた。
「そういうことだ。振り回してばかりで申し訳ないとは思っているが」
「いえ。いつも主と共に」
窓の外の暗くなった空を見上げ、ウィクトルは「感謝する」と呟いた。
夜が明けたら、戦いの幕が上がる。それはもう変わることのない定め。けれども、今さらそこから逃れるすべはない。
ただ、もはやウィクトルに迷いはない。
それもまた事実だ。
イヴァンの下から去り、ウタと共に穏やかに生きる道を選んだ時には、こんな未来を想像はしなかっただろう。けれど運命は、彼をここへと連れてきた。目に見えぬ何かが、彼を、再び戦いの場へと導いたのだ。
「すべてに決着を」
「一軒で全部揃いましたね。ミソカニさんの言っていたことは正しかったんですねー」
ひと通り買い物を終えた時、フリュイは既に出口に行っていた。
しかも、木製のベンチに腰掛け、のんびりしている。
「正直……信じていなかったので驚きました」
「僕もです。まさか完璧に揃うなんて、と、驚いているところですよ」
大きな袋が二つになってしまったので、私はフリュイに「片方持っていただいても構いませんか?」と尋ねてみた。何らかの理由を付けて断ってくることを想像していたが、フリュイは案外すんなりと持ってくれた。しかも、それだけではない。一つの袋を手にした後に、「もう一つも持ちましょうか」と尋ねてくれた。ただ、それは申し訳ないので「大丈夫です。持てます」と言っておいたけれど。
「そっちの袋、重くないですか」
私が持っている方の袋には、主に、テープ類が入っている。ぎっしり詰まっているため、そこそこ重みは感じる。だが持てないほどの重さではない。
「え。これですか? 大丈夫です。持てる重さです」
「ならいいんですけど……ウタさん、無理しないで下さいね」
「お気遣いありがとうございます」
「はー。それにしても、おつかいは厄介ですね。早く寛ぎたいです」
道の真ん中を歩いている時でさえ、フリュイは本音を漏らしていた。
もうすぐ劇場にたどり着く——そんな時。
曲がり角から一人の女性が飛び出してきて、避けようとしたが避けきれず、肩が当たってしまう。
「ご、ごめんなさい!」
女性は私と肩同士でぶつかったことでバランスを崩し、つまづいたかのような形で転倒。あちらにも非があったとはいえ、放置するわけにもいかず、私は謝罪の言葉を放つ。
「お怪我は? 大丈——え」
手を差し伸べた直後、女性と目が合い言葉を失う。
「……なぜ……貴女が?」
先に言葉を発したのは向こうだった。
彼女は耳に一度触れてから、そんな風に言ったのだ。
だが私は暫し何も言えない。
「ウタ……どうしてこんなところにいるんですの」
シャルティエラだったのだ、私がぶつかった女性は。
「……シャロさん」
ウィクトルの命を狙うことを諦めてくれて以降、彼女とは会っていなかった。ここは帝国だから彼女がいても何もおかしくはないわけだが、それでも、驚きと戸惑いを抱えずにはいられない。
関わらない方が良い? 逃げるべき?
脳内にはいろんなパターンが浮かぶ。でもそれを行動に移すことは簡単でない。
「その、私、急いでいるので……」
取り敢えず厄介事に巻き込まれる前に去ろうと考え、別れを告げておく。
しかし。
「待って!」
シャルティエラの叫びがそれを止めた。
「え……」
「あっ、ご、ごめんなさい。いきなり大声を出して悪かったと思ってますわ」
「私に……何かご用ですか」
「用ではありませんけれど、貴女と一度話したいと思っていましたの!」
そう言って、シャルティエラは私の手を掴んでくる。
強く、ではない。
両手を使って包み込むように、だ。
「え……あ、そうなんですか……?」
今のシャルティエラの表情には、怪しさがない。敵意も特に感じられない。彼女はただの娘のような、輝く瞳をしている。
「お茶でもしませんこと!?」
「あ、えっと……その……でも、喫茶店には行けないのでは……」
皇帝の妻がそこらの喫茶店に入るわけにはいかないだろう。
「わたくし、今、この近くに住んでいますの! そちらへいらっしゃるというのはどうかしら? それならゆっくりお茶できますわ!」
◆
「あ、主……その、少し構いませんか?」
夜遅い時間、リベルテはウィクトルに話しかけた。
不安そうな顔をしながら。
「構わないが。どうした?」
窓辺で透明なグラスに注いだトマトソーダを飲んでいたウィクトルは、目を伏せながら、話しかけてきたリベルテの方へ視線を向ける。
「本当に、公演に間に合うのでございましょうか」
ウィクトルとリベルテは個室を貰っている。そのため、夜は二人でその部屋の中で過ごすことになるのだ。今、室内には二人だけ。誰もいないし、誰も二人の話を聞いてはいない。そんな状況だ。
「間に合わせてみせる」
「そんな簡単にいくのてございましょうか……!?」
「間に合うかどうか、ではない。間に合わせる、だ」
リベルテは一瞬ハッとしたような顔をした。
が、数秒経って、真顔の状態に戻る。
「……決意があるのでございますね」
森林に滅多に降らない雪が降る光景を思わせるような表情で、リベルテはウィクトルを見つめた。
「そういうことだ。振り回してばかりで申し訳ないとは思っているが」
「いえ。いつも主と共に」
窓の外の暗くなった空を見上げ、ウィクトルは「感謝する」と呟いた。
夜が明けたら、戦いの幕が上がる。それはもう変わることのない定め。けれども、今さらそこから逃れるすべはない。
ただ、もはやウィクトルに迷いはない。
それもまた事実だ。
イヴァンの下から去り、ウタと共に穏やかに生きる道を選んだ時には、こんな未来を想像はしなかっただろう。けれど運命は、彼をここへと連れてきた。目に見えぬ何かが、彼を、再び戦いの場へと導いたのだ。
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