丹太ノ村 株縫志 ー若くして天才と呼ばれた者の、生涯ー

四季

文字の大きさ
8 / 8

八話「犯人判明から、謎多き結末まで」

しおりを挟む
 株縫志の心に恐怖がなかったわけではない。

 けれど、これまで世話になってきた田和和島の人々が次々と犠牲になっていくことには、株縫志は耐えられなかった。

 だから彼は、一人、正体不明の犯人を見つけることを決意したのだ。
 そして、自分を餌として使うことを心に決めたのである。

 第三の事件の翌日から、株縫志は、一人公民館の前に立つようにした。食事の時や用事をしなくてはならない時以外は、常に、公民館の正面玄関前へ立っていた。もちろん一人で。

 しかし動きはなく、危険な目に遭わされることもなくて、株縫志は心が折れそうになってきた。

 数日以内に何か成果があるだろうと考えていただけに、何日か経過してもまったく動きがないという状況に耐えることは、容易くはなくて。けれども、株縫志はすぐには挫けなかった。

 既に死者が出ているのだ。
 それも、一人ではない。

 だからこそ、自分が何とかしなければならない。

 その思いだけが、株縫志の今にも折れてしまいそうな心を、何とか支えていた。


 それから一週間が経過した、ある日。
 昼を食べに公民館内へ戻ろうとした瞬間、誰かが「こんにちはぁ」と話しかけてきた。

 株縫志に話しかけてきたのは、二十代半ばくらいと思われる女性。田和和島では滅多に見かけない年代の人だった。

 紺とベージュのボーダーのTシャツに、足首が見えるくらいの丈のベージュのズボン。どちらも長年着ていそうな服で、しばらく洗っていないのかしわが多い。そして、その上から、ビニール生地の黒いレインコートを羽織っている。

 話しかけられた瞬間は「どうしたのだろう?」としか思わなかった株縫志だが、数秒彼女の顔を見つめていると、急に過去の記憶が蘇る。

 女性の魚のような顔に、見覚えがあったのだ。

 そう——田和和島行きの待っている時に話しかけてきた女性に非常に似ていたのである。

「えっと、前いつか……」
「株縫志くん、迷惑してたよねぇ」

 話が噛み合わない。

「えと、何かご用でしょうか?」
「可哀想な株縫志くん。でももう大丈夫。付きまとう女、みぃんな消しとくから、安心してねぇ」

 女性の口から出た言葉を聞いた瞬間、株縫志の脳内で何かが繋がった。

 株縫志は女性の腕を掴み、偶々近くを歩いていた島民の男性に向かって「この人かもしれません!」と叫ぶ。

 証拠はまだないが、株縫志の心には確信があった。


 数日後、調査の結果、彼女が一連の殺人事件の犯人であったということが確定した。株縫志の予想は、間違ってはいなかったのだ。

 後日株縫志が聞いた情報によれば。
 彼女は、いつも港をうろついており、気に入った男性がいれば船に乗ってついていく——そんな質の人間だったそうだ。

 彼女はこれまでも、様々な見知らぬ男性に、ストーカーまがいの行動を繰り返していたようで。しかし、殺人にまで及んだのは、これが初めてだったという話だ。

 田和和島民が殺されてしまったのは、株縫志のせい。

 しかし、心優しい田和和島民は、彼を責めたりはしなかった。

 だが、皆が心優しいからこそ、株縫志は島内で生活することが辛くなってきて。

 彼は結局、田和和島から出ていった。


 その後、株縫志がどのようにして生きていったのかは、ほとんど誰にも知られていない。

 地元に戻ってコンビニバイトを続けていた。
 郊外の小さな町で静かに独り暮らししていた。

 そんな噂や、目撃情報は、少なくはない。だから、恐らく、それからもどこかで生き続けてはいたのだろう。

 また、晩年の株縫志から話を聞いたという人物もいる。
 それゆえ、少なくとも、若くして亡くなったということはないだろう。

 しかし。

 彼がどこに住んでいて、どんな職に就き、どのような暮らしをしていたのか。また、家族を持つことはあったのか。親に再会することはあったのか。

 そういったことは、以前、謎のままである。

 若くして恐ろしいほどの称賛を手にした、丹太ノ村 株縫志。
 その生涯は、いまだに謎に満ちている。


 ー終わりー
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...