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後編
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「婚約破棄したことへの違約金なら払う。だからここでさよならしよう」
「…………」
「君としても良かっただろう? 僕のことはそれほど好きでなかったようだし。君は君で愛を見つけるといい」
聞けば聞くほど馬鹿らしい気持ちが強まってくる。
私はなぜこんな人の婚約者なんかになったのだろう、過去の自分が情けなくて仕方がない。
「もうじき彼女がこの家へ来るんだ、君は速やかに出ていってほしい」
「出ていって……?」
「君のことは彼女には話していないのでね。いつまでもここにいられたら困るんだ。君の実家だって貧しくはない、ここを出ても住むところには困らないだろう?」
もはや彼には私への情はないのか。あぁそうか。彼はもう彼女のことしか見ていないのか。婚約者なんて、私なんて、どうでもいい存在で。廊下のすみに落ちている埃みたいなものなのだ——彼にとっては。
「あぁそうだ、君がいた部屋に残っていた物は処分しておいたよ。君が去りやすいように、ね」
「……ありがとうございます。では、私は失礼します。……邪魔をしても悪いですので」
もはや何を訴えても無駄。
そう考えた私は、すべてを諦め、彼の家を去った。
私は少量の荷物を素早くまとめて馬車に乗る。一人きりで乗る馬車は何だかとても広く感じられて切なかったけれど、悲しくはなかった。
何もない胸の内に、小さな悔しさだけがぽつんと置き去りにされているみたいだ。
そして私は実家へ戻った。
私の姿を見た両親は驚き戸惑っていたけれど、事情を説明すると迎え入れてくれた。
これは後に噂のような形で聞いた話だが。
私が追い出された日の夜、元婚約者が暮らすあの家に不審者が入り込み、その中にいた人たちを襲ったそうだ。元婚約者は全力疾走で逃げて何とか落命せずに済んだのだが、二つ年下の彼女はその他の人たちと共に不審者によって殺されてしまったらしい。
◆終わり◆
「…………」
「君としても良かっただろう? 僕のことはそれほど好きでなかったようだし。君は君で愛を見つけるといい」
聞けば聞くほど馬鹿らしい気持ちが強まってくる。
私はなぜこんな人の婚約者なんかになったのだろう、過去の自分が情けなくて仕方がない。
「もうじき彼女がこの家へ来るんだ、君は速やかに出ていってほしい」
「出ていって……?」
「君のことは彼女には話していないのでね。いつまでもここにいられたら困るんだ。君の実家だって貧しくはない、ここを出ても住むところには困らないだろう?」
もはや彼には私への情はないのか。あぁそうか。彼はもう彼女のことしか見ていないのか。婚約者なんて、私なんて、どうでもいい存在で。廊下のすみに落ちている埃みたいなものなのだ——彼にとっては。
「あぁそうだ、君がいた部屋に残っていた物は処分しておいたよ。君が去りやすいように、ね」
「……ありがとうございます。では、私は失礼します。……邪魔をしても悪いですので」
もはや何を訴えても無駄。
そう考えた私は、すべてを諦め、彼の家を去った。
私は少量の荷物を素早くまとめて馬車に乗る。一人きりで乗る馬車は何だかとても広く感じられて切なかったけれど、悲しくはなかった。
何もない胸の内に、小さな悔しさだけがぽつんと置き去りにされているみたいだ。
そして私は実家へ戻った。
私の姿を見た両親は驚き戸惑っていたけれど、事情を説明すると迎え入れてくれた。
これは後に噂のような形で聞いた話だが。
私が追い出された日の夜、元婚約者が暮らすあの家に不審者が入り込み、その中にいた人たちを襲ったそうだ。元婚約者は全力疾走で逃げて何とか落命せずに済んだのだが、二つ年下の彼女はその他の人たちと共に不審者によって殺されてしまったらしい。
◆終わり◆
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