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後編
しおりを挟む「ナーラ、お前との婚約は破棄とする!」
ある朝突然エーベルからそんなことを宣言されて。
「え……こ、婚約破棄、ですか?」
「ああそうだ」
「また急ですね」
「何だ? 気に食わないのか? ま、そうだろな。無能なお前を愛せる男なんぞこの世には俺くらいしかいないからな、ははっ」
もうすぐ離れられる。
そう思っている状態では、何を言われようともさほど刺さらない。
だってもう彼と付き合っていかなくていいのだもの。
「分かりました。では、婚約破棄ということで」
「ふん、素直じゃないか」
少々戸惑ったような顔をしているエーベル。
もしかしたらもっと必死に縋りついてこられると思っていたのかもしれない。
……そんなわけがないだろう。
「これまでありがとうございました、さようなら」
「ああ! さらばだ!」
こうしてエーベルとはお別れすることとなった。
◆
早いもので、あれからもう数年が経った。
私はもうすぐ結婚する。
相手は幼馴染みの紹介によって知り合った領地持ちの青年である。
彼と初めて出会った日、大変緊張していたのだけれど会話の中でお互いに魚を食べることが好きだということが明らかになりそれによって急に距離が近づいた。
そして私たちは急速に親しくなった。
やはり共通点があるというのは大きい。
些細なことであっても共通点というのは人と人の心の距離をぐっと近づけてくれるものだ。
ああ、そうそう、そういえば。
かつて私を切り捨てたエーベルだが、彼は幸せは掴めなかったようだ。
彼はあの後高貴な家柄の女性を気に入りアプローチしたようだがまったくもって相手にされず、必死になりすぎて、夕暮れ時に道で急に近寄って声をかけたことが問題となってしまったそうで。
それによって彼は犯罪者として扱われるようになってしまったそうだ。
多くの人たちが「エーベルは実は変態不審者」という認識を持つようになり、それによって彼の周りからは人がいなくなっていったらしい。
そんな状態だから結局誰からも愛されず。
結婚することももちろん不可能というような状態であった。
◆終わり◆
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